人事コンサルタントのフリーランスの将来性とキャリアの広げ方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
人事コンサルの仕事は、人事制度を整える仕事から、経営戦略と人材戦略をつなぎ、その中身を社外に説明できる形にする仕事へと広がっています。有価証券報告書での人材戦略や給与の決定方針の開示、人的資本可視化指針の改訂、女性活躍推進法による公表義務の拡大など、2026年に入ってからも公式の動きが続いています。
この記事では、2026年10月時点で公表されている制度の動きを整理し、そこから見える役割の変化と、経験に応じた広げ方を解説します。
公表されている動き:人事の情報が社外に出ていく
有価証券報告書の人的資本の記載(2023年・2026年の改正)
金融庁は、2023年1月の内閣府令の改正で、有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設しました。人的資本については、人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針、関連する指標の内容などが記載事項とされ、女性活躍推進法などに基づいて女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差を公表している場合は、その指標の記載も求められるようになりました(2023年3月31日以後に終了する事業年度から適用)。
さらに2026年2月20日に公布・施行された改正では、「従業員の状況」の記載の位置が見直され、次の事項が新たに求められました。
| 新たに求められる事項 | 内容(金融庁の公表資料の要旨) |
|---|---|
| 人材戦略 | 連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略 |
| 給与等の決定方針 | 人材戦略を踏まえた従業員給与等の決定方針(提出会社の方針に限定可) |
| 平均給与の増減率 | 提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率 |
適用は、2026年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書からです。給与の決定方針を経営戦略と結び付けて書くには、人事制度、とくに報酬制度の考え方を整理しておく必要があります。制度設計と開示が、一つの仕事としてつながりつつあります。
持株会社のように、提出会社が主として子会社の経営管理を行う会社では、提出会社に加えて最も従業員の多い会社の方針も記載し、その会社の平均給与額や増減率も記載することとされています。グループ会社ごとに人事制度が違う会社では、各社の報酬の考え方を整理し直す必要が生じることもあり、グループの人事制度をまたいで整理できる人の出番が増えると考えられます。
また、同じ改正では、時価総額の大きいプライム市場の上場会社に、サステナビリティ開示基準に従った記載を段階的に義務づけることも定められました。人的資本もサステナビリティ情報の一部として扱われるため、開示の方法は今後も見直しが続くとみられます。
人的資本可視化指針の改訂(2026年3月)
内閣官房は、「人的資本可視化指針」を2026年3月23日に改訂しました。別紙は「戦略に焦点をあてた人的資本開示」と題され、経営戦略と人材戦略の連動とそれを踏まえた指標の開示事例が付録として示されています。開示の評価軸が「指標の数」から「戦略とのつながり」に移っていることがうかがえます。
女性活躍推進法の公表義務の拡大(2026年4月)
厚生労働省と各地の労働局の案内によると、2026年4月1日の改正法の施行により、常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が必須になりました。それまで男女間賃金差異の公表が義務だったのは301人以上の事業主でした。対象が中堅企業に広がったことで、賃金差異の要因を分析し、説明の文章や改善の施策を考える仕事が、これまでより幅広い会社で生じています。
ジョブ型人事指針(2024年8月)
内閣官房・経済産業省・厚生労働省は、2024年8月28日に「ジョブ型人事指針」を公表しました。既にジョブ型人事を導入している20社について、導入目的、等級・報酬・評価制度の骨格、採用や異動などの雇用管理、人事部と各部署の権限の分け方、労使コミュニケーションなどを整理しています。職務を基準にした制度への見直しは、各社の事情に合わせて進めるものとして示されています。
人事コンサルの役割はどう変わるか
こうした動きを並べると、人事コンサルに求められる役割は次の方向に広がっていると考えられます。
- 開示から制度へ:開示の文章を整えるだけでなく、開示に書く人材戦略や給与の方針と、実際の制度を一致させる
- 大企業から中堅企業へ:公表義務の拡大で、人事部の人数が限られる会社でも分析と説明の仕事が生じる
- 制度の設計から説明へ:社外の投資家や求職者、社内の社員に、制度の考え方を説明できる形にする
人事制度を作る力そのものの価値は変わりません。そのうえで、制度を経営戦略と結び付けて言葉にし、数字で裏付ける力を持つ人が、選べる案件の幅を広げやすくなります。
選択肢を広げる4つの方向
1. 報酬制度と給与決定方針の開示
給与等の決定方針の開示が始まったことで、報酬制度の考え方を経営戦略と結び付けて説明する仕事が生じています。報酬制度の設計経験がある人は、その経験を「方針をどう言葉にするか」まで伸ばすと、開示支援の案件にも応募しやすくなります。
2. 中堅企業の女性活躍・賃金差異の分析
男女間賃金差異の要因を、等級の分布や職種の偏りなどから分析し、改善の施策につなげる仕事です。賃金データの試算に慣れた人が力を発揮しやすい分野です。
3. 職務を基準にした制度への見直し
ジョブ型人事指針の事例が示すように、職務を基準にした制度は、等級・報酬・評価に加え、採用や異動、人事部と現場の権限の分け方まで見直しが及びます。職務記述書の作成や職務の評価の経験は、こうした案件で生かせます。
4. 人事データと人事システム
開示する指標を毎年同じ方法で集計するには、人事データの定義と集計の仕組みが欠かせません。制度とデータの定義をそろえる役割は、人事システムの導入とも重なります。製品ごとの導入を専門にする道は、製品ごとのコンサルタントの記事で扱っています。
経験・年代に応じた広げ方
コンサルティング会社から独立して間もない時期
設計と試算の経験を軸に、開示や中堅企業の案件など、隣のテーマに一つずつ広げるのが進めやすい方法です。今の案件で、開示資料の担当者や経営企画部と話す機会があれば、関わっておくと次の案件で話せる内容が増えます。
事業会社の人事企画を経験した方(30代後半〜40代)
制度を運用し、社員の受け止めを見てきた経験は、移行と定着の工程で強みになります。そのうえで、他社の事例や公式の指針を読み、自社の経験を一般的な考え方と比べて説明できるようにしておくと、扱えるテーマが広がります。
人事部長など責任者を経験した方(50代以降)
経営層と人材戦略を議論してきた経験は、方針づくりの段階で求められやすい経験です。一方で、試算や資料づくりを若手に任せてきた場合は、自分で手を動かせる範囲を確かめておくと、参画後の役割の食い違いを防げます。40代・50代の働き方は50代のフリーランスの記事も参考になります。
今の案件でできる準備
- 有価証券報告書の人的資本の記載を、業種の近い会社でいくつか読み比べる
- 担当している制度の考え方を、社外の人に説明する文章にしてみる
- 賃金データの試算で、男女別・等級別などの分析の切り口を一つ増やす
- 法改正の情報は、金融庁・厚生労働省・労働局などの公式ページで時点を確かめる
よくある質問
人的資本開示の対応が一巡したら、案件は減りませんか?
2026年に有価証券報告書の記載事項が加わり、人的資本可視化指針も改訂されたように、開示の求められ方は見直しが続いています。また、開示に書いた方針と実際の制度を合わせる仕事は、一度で終わるものではありません。今後も制度の動きは公式ページで確かめながら判断しましょう。
AIの活用が進むと人事コンサルの仕事は減りますか?
データの集計や文章の下書きは、ツールで効率化が進む部分です。一方で、どの制度を選ぶか、処遇が変わる社員にどう説明するかといった判断と合意形成は、人が担う部分として残ります。ツールを使いこなし、判断と説明に時間を割ける人ほど、役割を広げやすくなります。
中小企業向けの人事の仕事にも広げられますか?
女性活躍推進法の公表義務の拡大のように、中堅企業にも人事の情報を整える必要が生じています。人事部の人数が限られる会社では、制度づくりから運用まで幅広く関わることが多くなります。社会保険労務士の業務にあたりうる作業が含まれないかは、案件ごとに確かめましょう。
参考にした公的情報・資料
- 「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等の公布及びパブリックコメントの結果について(金融庁)
- 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等の公表について(金融庁)
- 「人的資本可視化指針」の改訂について(内閣官房)
- ジョブ型人事指針(内閣官房・経済産業省・厚生労働省)
- 女性活躍推進法特集ページ(厚生労働省)
- 男女間賃金差異と女性管理職比率の公表について(愛知労働局)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。