ブロックチェーンエンジニアのフリーランス案件で求められるスキルと経験
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
ブロックチェーンエンジニアのフリーランス案件では、スマートコントラクトの設計と安全性の検証、チェーンと既存のシステムをつなぐ開発、秘密鍵と権限の扱いが共通して問われます。そのうえで、公開型のチェーン、企業向けの分散台帳、セキュリティ監査といった分野ごとに、別の知識が加わります。
この記事では、案件で問われるスキルを「どの案件でも共通のもの」「分野ごとのもの」に分け、経験の段階ごとにどこまで求められるかを整理します。
どの案件でも共通して問われるスキル
取り消せない処理を前提にした設計
ブロックチェーンに記録した処理は、原則として後から取り消せません。そのため、通常のWeb開発以上に「公開する前に誤りをなくす」設計が求められます。状態の持ち方、誰がどの操作をできるか、異常が起きたときに止める手段を用意するかを、最初に決められるかが実務の水準の目安です。
チェーンに載せるもの・載せないものを分ける判断
すべてをチェーンに載せる設計は、手数料や処理の速さ、個人情報の扱いの面で無理が出やすくなります。どのデータをチェーンに記録し、どのデータを通常のデータベースに置き、両者の食い違いをどう検知するかを決める力が問われます。公開型のチェーンでは、記録した内容を誰でも読めることを前提に、個人や取引先の情報を載せない設計も欠かせません。「この処理はチェーンでなくてもよいのでは」と発注側に説明できることも、設計を任される人の条件です。
代表的な脆弱性の知識
Solidityの公式ドキュメントのセキュリティの章には、再入(reentrancy)、ガスの上限とループ、Etherの送受信、tx.originの使い方、整数のあふれ、アップグレードできるコントラクトの注意点などが落とし穴として挙げられています。あわせて、Checks-Effects-Interactionsの順で書く、コントラクトを小さく分ける、第三者のレビューを受けるといった推奨も示されています。
OWASPが公開しているSmart Contract Top 10(2025年版、2026年10月時点の最新)では、アクセス制御の不備、価格オラクルの操作、ロジックの誤り、入力値の検証不足、再入攻撃などが並んでいます。案件の面談では、こうした脆弱性の名前を知っているかより、自分のコードでどう防いだかを説明できるかが見られます。
テストと検証の進め方
単体テストに加え、ランダムな入力を大量に与える検査、成り立つべき性質を決めて確かめる検査、本番に近い状態を手元に再現して試す検査などが使われます。どの検査で何を確かめ、何は確かめていないかを説明できることが、資産を扱う仕組みでは特に重く見られます。
秘密鍵と権限の扱い
公開や管理に使う鍵を誰が持ち、どこに保管し、どう使うかは、コードと同じくらい重要です。管理用の権限を一人に集めない設計、本番の操作の手順化、鍵を開発用の端末に置かない運用など、チームの決まりに沿って扱えるかが問われます。
チェーンと既存システムをつなぐ開発
多くの案件では、コントラクトだけでなく、その周りのWebのバックエンドやフロントエンドの開発が仕事の大半を占めます。チェーンのデータの読み取りと集計、取引の送信と結果の確かめ方、処理の遅れや失敗への対処、監視が論点になります。チェーンへの記録は送った直後に確定するとは限らないため、確定を待つ間の画面の表示や、失敗したときの再送をどう設計するかも、利用者の体験を左右する実務の論点です。周辺の言語の知識はGoに求められるスキルやTypeScriptに求められるスキルも参考になります。
分野ごとに加わるスキル
| 分野 | チェーンで問われやすいこと | チェーン以外に問われやすいこと |
|---|---|---|
| 公開型チェーンのスマートコントラクト | Solidityなどでの設計、ガスの節約、アップグレードの方式 | テストの設計、権限の設計 |
| Web3サービスの周辺開発 | ウォレット連携、取引の送信と確認、データの集計 | API設計、クラウド、監視、認証 |
| 企業向けの分散台帳 | 参加組織とチャネルの設計、チェーンコードの開発 | 業務要件の整理、既存システムとの連携 |
| セキュリティ監査・レビュー | コードの点検、攻撃の再現、指摘の分類 | 報告書の作成、開発者への説明 |
公開型チェーンのスマートコントラクト
コードが公開され、誰でも呼び出せる前提で設計します。Solidityの公式ドキュメントも、コントラクトの実行は公開され、ソースコードも公開されることが多いと説明しています。処理にかかる手数料(ガス)を抑える書き方と、読みやすさや安全性との釣り合いをどう取るかも問われます。
企業向けの分散台帳
Hyperledger Fabricの公式ドキュメントでは、参加者が識別される許可型の基盤であること、チャネルという仕組みで特定の参加者だけが取引を見られること、合意形成の方式を用途に合わせて選べることが説明されています。この分野では、チェーンの技術より、どの会社が何を見てよいか、どの承認があれば記録してよいかという業務の設計が中心になります。
セキュリティ監査・レビュー
既知の脆弱性の一覧に照らして点検するだけでなく、仕様と実装の食い違い、経済的な仕組みの穴まで見る力が求められます。指摘を重さで分類し、再現の手順と直し方を開発者に伝わる文章で書けることも欠かせません。セキュリティ全般の土台はセキュリティエンジニアに求められるスキルや情報処理安全確保支援士試験の記事が参考になります。
業務と規制の前提
国内の暗号資産交換業者や、決済に関わるシステムの案件では、法令上の言葉の意味を押さえておくと話がかみ合います。資金決済に関する法律(2026年10月時点、e-Gov法令検索で確認)では、第2条第5項で「電子決済手段」、第14項で「暗号資産」、第15項で「暗号資産交換業」が定義されています。案件の中で規制の判断をするのは発注側の法務やコンプライアンスの担当ですが、要件の背景を理解して開発できることは評価につながります。金融系の現場のルールは証券業界の規制とセキュリティのルールも参考になります。
経験の段階ごとに求められる水準
| 段階 | 求められやすいこと |
|---|---|
| チェーンの実務が浅い段階 | 決まった設計に沿った実装、テストの追加、周辺のAPIや画面の開発、チームの手順に沿った公開作業 |
| 本番で運用してきた段階 | コントラクトの構成と権限の設計、検証の計画、監視と障害への対処、レビューへの対応 |
| 方針を決める段階 | アップグレードと鍵の管理の方針、監査の進め方、業務部門や法務との調整役、チームの育成 |
チェーンの実務が浅い段階でも、それ以前のバックエンドやセキュリティの経験は評価の対象になります。報酬との関係はブロックチェーンエンジニアの報酬の記事、経歴への書き方はブロックチェーンエンジニアのスキルシートの記事で解説しています。
よくある質問
Solidityしか書けなくても案件に参画できますか?
コントラクトの開発に絞った案件もありますが、周辺のバックエンドやフロントエンドとあわせて担う案件が多くあります。Solidityに加えて、TypeScriptやGoなど周辺で使われる言語を読めると、参画できる案件の幅が広がります。
監査の仕事をするには、どんな経験が必要ですか?
コントラクトの開発経験に加えて、脆弱性診断やコードレビューの経験が土台になります。指摘を再現し、重さを判断し、開発者に伝わる報告書を書く力が求められるため、開発の経験だけでは足りない場合があります。
暗号資産に関する法律の知識はどこまで必要ですか?
規制の判断を開発者が担うことは通常ありません。ただ、暗号資産交換業者や決済のシステムの案件では、資金決済に関する法律の基本的な言葉の意味を押さえておくと、要件の背景を理解しやすくなります。個別の法的な判断は、発注側の担当や専門家に委ねてください。
参考にした公的情報・資料
- Security Considerations(Solidity Documentation)
- OWASP Smart Contract Top 10(OWASP Foundation)
- Introduction(Hyperledger Fabric Documentation)
- 資金決済に関する法律(e-Gov法令検索)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。