医療業界のフリーランスIT案件|電子カルテから医療DXまで、案件の種類と特徴
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
医療業界のIT案件は、院内のシステム(電子カルテ・部門システム・医事会計)、国や審査支払機関の仕組みとつなぐシステム(オンライン資格確認・レセプトのオンライン請求・電子処方箋など)、クラウド化や標準化を進める医療DXの取組の3つに分けると読みやすくなります。どこに関わるかで、求められる経験も、現場の進み方も変わります。
共通する特徴は、止められないシステムを扱うこと、医師・看護師・薬剤師・事務など職種の違う利用者が多いこと、そして国の制度の期限に合わせて改修が集中しやすいことです。この記事では2026年10月時点の公式情報をもとに、案件の種類と特徴を整理します。業務知識は医療の業務知識の記事、守るルールは医療の規制とセキュリティの記事で扱います。製薬会社の案件はこの記事の対象外です。
医療のシステムは「院内・外部接続・医療DX」の3つで見る
医療法第1条の5では、20人以上の患者を入院させる施設を持つものを「病院」、入院施設がないか19人以下のものを「診療所」としています。病院は部門ごとに多くのシステムを持ち、診療所は少数のパッケージで運用することが多いため、同じ医療の案件でも規模感が大きく違います。
| 分類 | 主なシステム | 案件で扱う技術・作業の例 |
|---|---|---|
| 院内のシステム | 電子カルテ、オーダリング、部門システム(検査・放射線・薬剤・看護など)、医事会計(レセコン) | パッケージの導入・設定、部門間の連携、データ移行 |
| 外部とつなぐシステム | オンライン資格確認、レセプトのオンライン請求、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービス | 国の技術解説書に沿った接続、閉域網やVPNの回線、端末の設定 |
| 医療DXの取組 | クラウド型の電子カルテ、標準仕様への対応、データの二次利用 | クラウド、API、標準規格(HL7 FHIRなど)、データ基盤 |
呼び方は医療機関やベンダーによって違います。ここでは一般的な分け方で説明します。
国の仕組みとつなぐ案件が増えている
医療の案件の特徴は、国や審査支払機関の仕組みと接続する部分が多いことです。代表的なものを、厚生労働省などの公式ページで確認できる範囲で紹介します。
オンライン資格確認
マイナンバーカードのICチップや資格確認書の記号番号などで、患者の保険の資格をオンラインで確かめる仕組みです。保険医療機関・薬局では2023年4月から導入が原則として義務とされ、訪問看護や柔道整復師などの施術所にも対象が広がっています。2025年9月19日からは、スマートフォンでのマイナ保険証の読み取りに関する機能も全医療機関等に開放されています。顔認証付きカードリーダーや資格確認端末の設置、院内のシステムとの連携が案件の中身になります。
レセプトのオンライン請求
医療機関や薬局は、診療報酬の請求データ(レセプト)を審査支払機関に送ります。医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(DX審査支払機構)のページでは、オンライン請求システムを、医療機関等と審査支払機関、審査支払機関と保険者等を全国規模のネットワーク回線で結び、レセプトデータを電子的に受け渡す仕組みと説明しています。接続方式には、閉域IP網によるIP-VPN接続や、オープンなネットワーク上でIPsecとIKEを組み合わせる方式などがあります。レセコンや医事会計システムの改修では、この請求の流れとの整合が欠かせません。
電子処方箋
厚生労働省は電子処方箋を、電子的に処方箋の運用を行う仕組みで、複数の医療機関や薬局の直近の処方・調剤情報を参照できるものと説明しています。重複投薬等のチェックや、院内処方の情報の登録など、機能が順に追加されています。医療機関側の電子カルテと薬局側のシステムの両方に改修が発生するのが特徴です。
電子カルテ情報共有サービス
全国の医療機関や薬局で患者の電子カルテ情報を共有する取組です。厚生労働省はシステムベンダ向けに技術解説書を公開しており、2026年6月版の更新も出ています。情報の記述にはHL7 FHIRの仕様が使われており、電子カルテ側の出力・取り込みの開発が案件になります。
医療DXでクラウド化と標準化が進んでいる
厚生労働省は2026年10月1日に「医療情報化推進方針」を策定し、医療機関ごとのオンプレミスの基盤を、共通のルールで相互につながるクラウド型の基盤へ作り直す方向を示しています。
この流れを具体化しているのが、2026年3月31日に公開された「電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様(基本要件)」です。中小病院向けと医科診療所向けの1.0版があり、診療所向けにはガバメントクラウドに対応できるマルチテナント方式(いわゆるSaaS型)が参考要件として挙げられています。病院向けは、令和12(2030)年までのできる限り早い時期にクラウド型システムへ移行する方針です。2026年10月16日には認証制度の章が追加され、申請期間は2026年11月1日から2027年10月31日とされています。
ベンダー側では標準仕様に合わせた製品の開発、医療機関側では移行の計画づくりが、これから案件として出てくる領域です。
案件の種類は大きく6つ
| 種類 | 主な作業 | 立場 |
|---|---|---|
| 導入・更改 | 電子カルテや部門システムの入れ替え、マスタの設定、データ移行、稼働の立ち会い | ベンダー・SIer |
| 国の仕組みへの対応 | オンライン資格確認、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスへの対応の改修 | ベンダー・SIer |
| 製品開発 | 電子カルテやレセコンなどパッケージ・クラウド製品の開発、標準仕様への対応 | ベンダー |
| データ活用 | データ基盤、地域の医療連携、研究や経営分析向けのデータ整備 | ベンダー・医療機関・研究機関 |
| PMO・医療機関側の支援 | 更改の計画、ベンダーの選定支援、院内の部門との調整、進捗管理 | 医療機関側 |
| セキュリティ・運用 | サーバの更新、ネットワークの分離、バックアップ、事故への備え | ベンダー・医療機関側 |
PMOとして求められる経験はPMOのスキルの記事、データ基盤の経験はデータエンジニアのスキルの記事で扱っています。
医療の案件に共通する4つの特徴
システムを止めにくい
病院は夜間も救急も動いています。電子カルテの切替は、外来の少ない時間帯や休日に行い、止まっている間の紙での運用手順まで決めておくのが一般的です。切替のリハーサルや、稼働の当日・直後の立ち会いを求められることがあります。
利用者の職種が多い
医師、看護師、薬剤師、検査技師、放射線技師、医事課の職員など、職種ごとに使う画面も気にする点も違います。要件を聞く相手が多く、合意をまとめる調整の比重が大きくなります。
制度の期限で改修が集中する
国の仕組みへの対応や診療報酬の改定に合わせて、同じ時期に多くの医療機関で改修が必要になります。ベンダー側では期限前に作業が重なりやすく、稼働の山は案件ごとに確かめておきたい点です。
作業場所と扱う情報に制約がある
診療の記録や病名は、個人情報保護法の要配慮個人情報にあたる情報を含みます。本番環境に触れる作業は院内や指定の拠点に限られる、端末や回線が指定される、といった条件が付くことがあります。背景のルールは医療の規制の記事、働き方の考え方は常駐案件とリモート案件の記事をご覧ください。
合う人・合わない人の傾向
| 合いやすい人 | 合いにくいかもしれない人 |
|---|---|
| 多職種の話を聞き、用語の違いを埋めながら進められる | 技術の話だけで仕事を進めたい |
| 移行や切替の段取りを丁寧に組める | 稼働日の立ち会いや休日の作業を避けたい |
| 国の技術解説書や仕様書を読み込むのが苦にならない | 仕様が外から決まる仕事に窮屈さを感じる |
| 患者の情報を扱う重さを理解して行動できる | 作業場所や端末の自由度を重視する |
一方で、クラウド型の製品開発やデータ活用の案件では、一般的なWeb開発やクラウドの経験が生きる場面もあります。「医療だから現場常駐」と一律に決めず、分類と立場で見ていくのが現実的です。
案件情報を読むときに確かめたいこと
- 立場:ベンダー側か、医療機関側か
- 対象:病院か診療所か、どのシステム・どの部門か
- 工程:要件定義、設定、移行、稼働支援、運用のどこを担うか
- 作業場所と端末:院内の作業の頻度、リモートの条件
- 稼働の山:切替日、休日・夜間の作業、制度の期限
よくある質問
医療の現場で働いた経験がなくても、医療のIT案件に入れますか?
技術や役割が合っていれば、医療の現場経験がなくても参画できることはあります。入りやすいのは、クラウド型製品の開発やデータ基盤のように、技術が重視される案件です。参画後に必要な業務知識は医療の業務知識の記事を参考に準備しておくと立ち上がりが楽になります。
医療の案件はリモートで働けますか?
案件によります。製品開発は一部リモートやリモート中心のものがある一方、導入や稼働支援、医療機関側の支援は院内での作業が前提になりやすい傾向があります。患者の情報に触れる作業ほど条件が厳しくなるため、案件ごとに必ずご確認ください。
製薬会社のシステムの案件も医療業界に含まれますか?
この記事では病院・診療所と、医療機関向けのシステムを提供する事業者の案件を扱っています。製薬会社の案件は、守る規制も業務も異なるため、製薬業界の記事で別に扱います。
参考にした公的情報・資料
- 医療DXについて(厚生労働省)
- 医療DXの取組一覧(厚生労働省)
- 電子カルテ及びレセプトコンピュータ標準仕様(厚生労働省)
- オンライン資格確認の導入について(厚生労働省)
- 電子処方箋(厚生労働省)
- オンライン請求システム(医療情報基盤・診療報酬審査支払機構)
- 医療法 第1条の5(e-Gov法令検索)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。