人材業界の案件で気をつけたい規制とセキュリティのルール|職業安定法・派遣法・個人情報
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
人材業界の案件で守るルールの土台は、職業安定法の「求職者等の個人情報の取扱い」と「求人等に関する情報の的確な表示」、労働者派遣法の個人情報と秘密の保持、そして個人情報保護法です。どれも直接の宛先は人材会社や求人企業ですが、システムの仕様や開発現場の決まりとして、外部の委託先にも届きます。
フリーランスが現場で求められるのは、条文の解釈ではありません。仕様の背景にある決まりに気づき、確かめ、個人情報を決められた範囲でだけ扱うことです。この記事では、2026年10月時点で法令と厚生労働省・個人情報保護委員会の資料から確かめた内容と、それが開発にどうつながるかを整理します。個別の解釈が必要な場面では、発注側の担当部門や専門家に確かめてください。
職業安定法:求職者の個人情報は「目的の範囲内」で扱う
職業安定法第5条の5は、職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、特定募集情報等提供事業者などに、求職者などの個人情報を、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして集め、その目的の範囲内で保管・使用することを求めています。本人の同意がある場合など、正当な事由がある場合は例外です。あわせて、個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じることも求めています。
目的は「具体的に」明らかにする
2022年10月1日施行の改正で、このルールが整えられました。厚生労働省のリーフレットは、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に目的を明らかにする必要があるとして、次の例を挙げています。
- 適切でない例:「募集情報等提供のために使用します」とだけ表示する
- 適切な例:「求人情報に関するメールマガジンを配信するために利用します」「会員登録時に入力いただいた情報を、当社の会員企業に提供します」と表示する
会員登録の画面やプライバシーポリシーの表示、メール配信の仕組みを作る案件では、この考え方が文言や同意の取り方の要件になります。
集めてはならない情報がある
厚生労働省の業務運営要領は、指針に基づき、次の個人情報を原則として集めてはならないとしています。特別な職業上の必要性があり、業務の目的の達成に必要不可欠で、目的を示して本人から集める場合は例外です。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
- 思想及び信条
- 労働組合への加入状況
業務運営要領では、具体的な例として、家族の職業や収入、本人の資産等の情報(労務管理に必要なものを除く)、容姿などの差別的評価につながる情報、支持政党や愛読書、社会運動に関する情報などを挙げています。登録フォームや応募フォームの項目を設計するときに、「とりあえず自由記述の欄を広く取る」「参考になりそうな項目を足す」といった判断は、この決まりに触れるおそれがあります。項目の追加は、発注側の確認を経てから進めます。
秘密を漏らさない義務は従業者にもかかる
職業安定法第51条は、職業紹介事業者や求人者、特定募集情報等提供事業者などと、その代理人、使用人その他の従業者に、業務上知り得た人の秘密を漏らさないこと、業務に関して知り得た個人情報をみだりに他人に知らせないことを求めています。従業者でなくなった後も同様です。開発の立場であっても、契約を通じて同じ水準の扱いを求められると考えておくと、現場の決まりの意味を読み取りやすくなります。
職業安定法:求人情報は「正確で最新」に保つ
職業安定法第5条の4は、広告等で求人や求職者に関する情報を提供するときに、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示を禁じています。そのうえで、職業紹介事業者や募集情報等提供事業を行う者に、情報を正確かつ最新の内容に保つための措置を求めています。
厚生労働省のリーフレットと業務運営要領によると、措置の例は次のとおりです。
| 対象 | 措置の例 |
|---|---|
| すべての事業者 | 情報の提供の中止や訂正を求められたら遅滞なく対応する。正確・最新でないと分かったら、依頼者に訂正の有無を確かめるか、提供を止める |
| 職業紹介事業者 | 求人者・求職者に、情報が最新かを定期的に確かめる。または情報の時点を明らかにする |
| 依頼を受けて情報を提供する募集情報等提供事業者 | 募集の終了や内容の変更を速やかに知らせるよう依頼者に頼む。または情報の時点を明らかにする |
| 自ら集めた情報を提供する募集情報等提供事業者 | 定期的に情報を集めて更新し、その頻度を明らかにする。または情報を集めた時点を明らかにする |
求人メディアや紹介会社のシステムで、求人の更新日の表示、掲載の終了、訂正の依頼への対応の機能が重視されるのは、この決まりがあるためです。案件の種類との関係は人材業界のIT案件の記事で整理しています。
マッチングの仕様が事業の区分に関わる
開発者が知っておきたいのが、募集情報等提供と職業紹介の区分です。厚生労働省は、次のいずれかを事業として行う場合は、その判断がAIなどで自動的に行われているかどうかにかかわらず、職業紹介事業の許可等が必要になると示しています。
- 求職者や求人の情報を、事業者の判断で選別した相手にだけ、または選別した情報だけ提供する
- 情報の内容を、事業者の判断で相手に応じて加工して提供する
- 求職者と求人者のやり取りを中継するときに、事業者の判断でその内容を加工する
業務運営要領には具体例もあります。閲覧履歴などに基づいて表示の順番を変えるだけなら「加工」にあたらない一方、求職者が登録した職歴などをもとに事業者が選んだ求人だけを提供し、ほかの求人を得られないようにすることは、選別した情報のみの提供にあたるとされています。また、求職者の登録情報に応じて「この給与額で採用される可能性がある」といった文言を付けて提供することは、相手に応じた加工にあたるとされています。
レコメンドや自動の推薦機能を作る案件では、仕様の小さな違いが事業の区分に関わることがあります。区分を判断するのは発注側ですが、「ほかの求人を見られなくする」「相手ごとに文言を変える」といった仕様に気づいたら、確かめておくと手戻りを防げます。
なお、求職者に関する情報を集めて行う特定募集情報等提供事業は、厚生労働大臣への届出が必要です(職業安定法第43条の2)。業務運営要領は、この「求職者に関する情報」に、経歴やメールアドレス、サイトの閲覧履歴、位置情報なども含むとしています。
労働者派遣法:派遣先に渡せる情報は限られる
労働者派遣法第24条の3は、派遣元事業主に、労働者の個人情報を業務の目的の達成に必要な範囲内で集め、その目的の範囲内で保管・使用することと、適正に管理するための措置を講じることを求めています。第24条の4は、派遣元事業主とその従業者に、業務上知り得た秘密を漏らさない義務を定めています。
厚生労働省が公開している「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」は、さらに次の点を定めています。
- 集めてはならない情報は、職業安定法の指針と同じく、社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想及び信条、労働組合への加入状況
- 派遣元が派遣先に提供できる派遣労働者の個人情報は、労働者派遣法第35条で派遣先に通知する事項のほか、業務遂行能力に関する情報に限られる(本人の同意がある場合などを除く)
- 個人情報について、正確・最新に保つ、紛失・破壊・改ざんを防ぐ、権限のない者のアクセスを防ぐ、不要になったら破棄・削除する、の4つの措置を講じる
- 紹介予定派遣の場合を除き、派遣先が派遣労働者を特定することを目的とする行為に協力してはならない
派遣元と派遣先をつなぐシステムで、派遣先向けの画面に出す項目が絞られているのは、こうした決まりがあるためです。派遣先の利便のために項目を足す要望が出ても、すぐに実装せず、発注側に確かめてから進めます。指針は改正されることがあるため、現行の内容は厚生労働省のページで確かめてください。
個人情報保護法も重ねてかかる
職業紹介事業者などが個人情報取扱事業者にあたる場合は、職業安定法や労働者派遣法のルールに加えて、個人情報保護法の義務も守る必要があります(厚生労働省の業務運営要領・派遣元指針による)。個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、2026年10月時点のページで令和8年6月の一部改正が反映されています。
外部の開発者は、人材会社から見て個人データの取扱いの委託先、またはその先の再委託先にあたることがあります。委託の契約で確かめることは個人情報を扱う業務の契約の記事、フリーランス自身が事業者として守ることと改正の動きは個人情報保護法の記事で扱っています。
現場で気をつけたい5つの行動
具体的な決まりは参画先の規程が優先します。
- 本番の個人情報を手元に置かない:検証は決められた環境と加工済みのデータで行い、私用の端末やクラウドサービスに保存しない
- 入力項目や表示項目を独断で足さない:集めてはならない情報や、派遣先に渡せない情報に触れるおそれがある
- ログと通知に個人情報を出さない:エラーログ、チャット、チケットに経歴や連絡先を貼らない
- 推薦・選別の仕様は背景を確かめる:事業の区分に関わることがある
- 異常はすぐに報告する:誤送信や権限の設定の誤りに気づいたら、決められた経路ですぐに伝える
貸与された端末の使い方は貸与PCの記事、万一情報を漏えいしてしまったときの対応は漏えい時の対応の記事で整理しています。
よくある質問
開発を請け負うだけのフリーランスにも職業安定法がかかりますか?
職業安定法の義務の宛先は、主に職業紹介事業者や求人者、募集情報等提供事業を行う者などです。ただ、それらの会社は義務を守るために委託先にも同じ水準の扱いを求め、契約や現場の規程に反映させます。フリーランスが守る範囲は、主に契約と参画先の規程で決まると考えておくと分かりやすくなります。
レコメンド機能を作るとき、職業紹介にあたるかどうかを自分で判断する必要がありますか?
判断するのは発注側の事業部門や法務です。開発者としては、厚生労働省が示している区分の考え方を知り、選別や加工にあたりそうな仕様に気づいたときに確かめることが大切です。判断に迷う点は、発注側を通じて専門家や労働局に確かめるのが望ましい進め方です。
規制の解釈に迷ったときはどうすればよいですか?
自分で結論を出さず、発注側の担当者や法務部門に確かめてください。フリーランスとしての契約上の責任に関わる場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。業界の規制を業務知識として身につける考え方は業界知識の記事で扱っています。
参考にした公的情報・資料
- 職業安定法(e-Gov法令検索)
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 令和4年職業安定法の改正について(厚生労働省)
- 職業安定法 改正のポイント(厚生労働省・都道府県労働局)
- 募集情報等提供と職業紹介の区分(厚生労働省)
- 募集情報等提供事業の業務運営要領(厚生労働省職業安定局 令和8年9月)
- 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針(厚生労働省)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会)
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