通信業界の案件で気をつけたい規制とルール|通信の秘密・外部送信規律・事故報告
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
通信業界の案件で守るルールの土台は、電気通信事業法の通信の秘密、利用者情報に関する規律と外部送信規律、重大な事故の報告、そして個人情報保護委員会と総務省の「電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン」です。どれも直接の宛先は通信事業者ですが、事業者はこれらを踏まえて社内の規程を作り、委託先にも守らせます。
フリーランスが現場で求められるのは、条文の解釈ではなく、決められた目的と範囲の外で通信や利用者の情報に触れない、異常に気づいたらすぐ伝える、という行動です。この記事では、2026年10月時点でe-Gov法令検索と総務省・個人情報保護委員会の公開資料から確かめた内容を整理します。個別の解釈が必要な場面では、発注側の担当部門や専門家に確かめてください。
通信の秘密:記録や解析にも及ぶ
電気通信事業法は、電気通信事業者の取扱中の通信を検閲してはならないとし(第3条)、取扱中の通信の秘密を侵してはならないと定めています(第4条第1項)。さらに第4条第2項で、電気通信事業に従事する者は、在職中に知り得た他人の秘密を守らなければならず、職を退いた後も同様としています。
注意したいのは、保護されるのが通信の中身だけではない点です。電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインは、利用した日時や通信の相手方など、通信の内容以外の情報を「通信履歴」とし、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止など業務の遂行上必要な場合に限って記録できるとしています(第38条第1項)。同ガイドラインの解説(令和8年6月更新)は、通信履歴は通信の構成要素として通信の秘密で保護され、記録することも通信の秘密の侵害に該当し得ると説明しています。そのうえで、業務上必要な場合に必要最小限の記録をすることは、正当業務行為として違法性が阻却されるとしています。
解説はまた、発信者を探知するための通信履歴の解析は、令状に従う場合や正当業務行為にあたる場合などを除いて行うことができないと述べています。位置情報についても、捜査機関から求められた場合は令状に従うときに限るなど、取得できる場面を細かく定めています(第41条)。
現場では、ログの調査やパケットの取得、利用者からの申告に基づく調べものが日常的にあります。その作業の目的と範囲が決められているか、自分がその範囲の中にいるかを意識することが、通信の秘密を守る行動の基本になります。
個人情報保護のガイドライン:委託先も監督される
通信事業者の利用者の情報の扱いには、個人情報保護法に加えて、上のガイドラインがかかります。2026年10月時点の総務省のページでは、ガイドライン本則は令和7年の改正版、解説は令和8年6月更新版が掲載されています。現場に関わる主な定めは次のとおりです(解説による)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 安全管理措置(第12条) | 個人データと通信の秘密に係る個人情報(個人データ等)の漏えい、滅失、毀損を防ぐための措置を講じる |
| 従業者の監督(第13条第1項・第2項) | 従業者(派遣労働者を含む)に個人データ等を扱わせるときは、必要かつ適切な監督を行う |
| 委託先の監督(第13条第3項) | 委託先を選び、委託契約に安全管理措置、秘密保持、再委託の条件などを定め、監督する |
| 漏えい等の報告(第16条) | 一定の漏えい等が起きたときは、当局への報告と本人への通知を行う |
解説は、委託先の監督にあたって、委託する業務に必要のない個人データ等を提供しないことは当然とし、通信の秘密に係る個人情報は、通信当事者の同意や違法性阻却事由がなければ提供してはならないことに留意する必要があるとしています。フリーランスが本番のデータを自由に見られない、加工したデータで検証するといった制約を受けるのは、こうした定めを踏まえた運用です。
個人情報を扱う業務の契約で確かめることは個人情報を扱う業務の契約の記事、フリーランス自身が事業者として守ることは個人情報保護法の記事で扱っています。
利用者情報の規律:大きな事業者に上乗せされる義務
2023年6月16日に施行された改正電気通信事業法では、利用者の利益に大きな影響を及ぼす役務を提供する事業者を総務大臣が指定し、その事業者に特定利用者情報の適正な取扱いを求める規律が設けられました(第27条の5〜第27条の11)。特定利用者情報には、通信の秘密に該当する情報と、総務省令で定める利用者を識別できる情報が含まれます。
指定された事業者は、次のことを求められます。
- 情報取扱規程を定めて総務大臣に届け出る(第27条の6)
- 情報取扱方針を定めて公表する(第27条の8)
- 毎事業年度、特定利用者情報の取扱いの状況を評価する(第27条の9)
- 特定利用者情報統括管理者を選任する(第27条の10)
大手の事業者の案件で、データの扱いの手続きや社内の審査が多いと感じる場合は、こうした仕組みが背景にあると考えておくと、手順の意味を読み取りやすくなります。
外部送信規律:Webやアプリの案件にも関わる
同じ改正で設けられたのが外部送信規律です(第27条の12)。対象となる電気通信事業者などが、利用者の端末に記録された情報を外部へ送信させる指令(Webページのタグやアプリに組み込まれたプログラムなど)を送るときは、あらかじめ、送信される情報の内容、送信先、利用目的などを、利用者に通知するか、容易に知り得る状態に置くことが求められます。
条文は、次の場合を対象から外しています。
- 画面の表示など、役務の提供に必要な情報
- 事業者が自ら付与した識別符号で、自社の設備へ送信されるもの
- 利用者が送信に同意している情報
- 利用者が送信や利用の停止を求められる措置をとり、その方法を容易に知り得る状態に置いている場合の情報
外部送信規律は、通信事業者に限らず、対象の役務を提供する事業者のWebサイトやアプリにも関わります。総務省は外部送信規律の専用ページで、対象となるサービスや通知・公表の方法を説明しています。解析ツールや広告のタグ、外部のSDKを追加・変更する作業を担当するときは、公表の内容の更新が必要かどうかを、発注側の担当者に確かめてください。
重大な事故の報告:早く伝えることが前提
電気通信事業法第28条は、事業者に対し、次のような場合に、理由または原因とともに遅滞なく総務大臣へ報告することを求めています。
- 電気通信業務の一部を停止したとき
- 通信の秘密の漏えいが生じたとき
- 指定された事業者で、総務省令で定める特定利用者情報の漏えいが生じたとき
- その他の総務省令で定める重大な事故が生じたとき
施行規則第58条は、重大な事故として、設備の故障で役務の提供を停止または品質を低下させた事故のうち、役務の区分ごとに定めた時間と利用者の数の基準を超えるもの、衛星や海底ケーブルなどの設備の故障ですべての通信が2時間以上できなくなった事故などを定めています。施行規則第57条は、発生後(漏えいは知った後)に速やかに概要を報告し、原則として30日以内に報告書を出す流れを定めています。重大な事故が生ずるおそれがあると認められる事態も、報告の対象です(第28条第2項)。
現場の作業者が報告の判断をするわけではありません。ただ、事業者は短い時間で影響の範囲と原因を把握する必要があります。異常に気づいたら、自分の判断で小さく見積もらずに、決められた経路ですぐに伝えることが、現場の一人として最も大切な行動です。
現場で気をつけたい5つの行動
具体的な決まりは参画先の規程が優先します。そのうえで、通信業界の案件で気をつけたい行動をまとめます。
- 目的と範囲の外で通信やログに触れない:調査や検証でも、決められた目的と権限の範囲を守る
- データを持ち出さない:ログ、利用者の情報、構成図を、許可された場所と端末の外に出さない
- 作業の記録を残す:設備の設定変更やデータの抽出は、決められた手順と承認に沿って行い、記録を残す
- 異常はすぐに報告する:障害、不審な挙動、誤った操作に気づいたら、決められた経路ですぐに伝える
- 退任後も守る:電気通信事業法の守秘の定めは、職を退いた後にも及ぶ
貸与された端末の使い方は貸与PCの記事、万一情報を漏えいしてしまったときの対応は漏えい時の対応の記事で整理しています。
よくある質問
運用の案件でパケットを取得するのは、通信の秘密の侵害になりませんか?
ガイドラインの解説は、業務の遂行上必要な場合に必要最小限の範囲で行う記録などは、正当業務行為として違法性が阻却されるという考え方を示しています。ただ、どの作業がそれにあたるかは個別の判断です。現場では、目的と範囲、手順が決められた作業として行い、迷う場合は発注側の担当者に確かめてください。
外部送信規律は、通信事業者以外の案件にも関係しますか?
関係することがあります。第27条の12は、電気通信事業者に加えて、登録や届出の要らない一部の事業者(同法第164条第1項第3号の事業を営む者)も対象に含めており、そのうち総務省令で定める基準にあたる役務を提供する者に適用されます。Webサイトやアプリの開発でタグや外部のSDKを扱う場合は、対象になるかどうかと公表の内容を、発注側に確かめてください。
規制の解釈に迷ったときはどうすればよいですか?
自分で結論を出さず、発注側の担当者やコンプライアンス部門に確かめてください。フリーランスとしての契約上の責任に関わる場合は、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。秘密保持の条項の読み方は秘密保持契約の記事で扱っています。
参考にした公的情報・資料
- 電気通信事業法(e-Gov法令検索)
- 電気通信事業法施行規則(e-Gov法令検索)
- 外部送信規律(総務省)
- 電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドライン(総務省)
- 電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインの解説(令和8年6月更新・個人情報保護委員会・総務省)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。