秘密保持契約(NDA)で確認すること|対象・期間・実績として話せる範囲
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
秘密保持契約(NDA)で確かめたいのは、何が秘密情報にあたるか(例外を含む)、何のために使ってよいか、いつまで守るか、終わったときにどう返すか、破ったときに何を負うかの5点です。フリーランスの場合は、これに加えて「この案件のことを実績としてどこまで話せるか」を署名前に決めておくと、次の案件探しで困りません。
NDAは単独の契約書で結ぶこともあれば、業務委託契約書の中の「秘密保持」の条項として入っていることもあります。どちらでも読むところは同じです。
NDAが守る範囲は、法律の「営業秘密」より広い
秘密の扱いには、法律で決まっているルールと、契約で決めるルールの2つがあります。
不正競争防止法では、「営業秘密」を、秘密として管理されている、事業活動に有用な技術上または営業上の情報で、公然と知られていないものと定めています(第2条第6項)。そのうえで、営業秘密を示された人が、不正の利益を得る目的や、保有者に損害を与える目的で使ったり開示したりすることを「不正競争」としています(第2条第1項第7号)。
一方、NDAは当事者の合意で範囲を決めるため、営業秘密の3つの要件を満たさない情報も対象にできます。たとえば、社内の会議で聞いたプロジェクトの予定や、まだ公表されていない取引先の名前などです。そのため、法律上の営業秘密に当たらなくても、契約で秘密とされていれば守る義務があると考えておく必要があります。
| 比べる点 | 不正競争防止法の営業秘密 | NDA(契約上の秘密情報) |
|---|---|---|
| 対象 | 秘密管理性・有用性・非公知性を満たす情報 | 契約で定めた情報(範囲は契約次第) |
| 根拠 | 法律 | 当事者の合意 |
| 確認する場所 | 条文 | 契約書の「定義」「例外」の条項 |
確認ポイント1:秘密情報の定義と例外
最初に読むのは「秘密情報とは何か」の定義です。書き方は大きく2つに分かれます。
- 指定型:開示する側が「秘密」と表示した資料や、口頭で秘密と伝えたうえで後から書面で特定した情報だけを対象にする
- 包括型:「業務に関して知り得た一切の情報」のように、広く対象にする
情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書」の秘密保持の条項は、指定型の考え方で書かれています。書面で秘密と指定した情報と、口頭で秘密と示して一定日数内に書面で特定した情報を対象にしています。
あわせて、例外として次の4つを挙げています。
- 秘密保持義務を負わずに、すでに持っていた情報
- 秘密保持義務を負わずに、第三者から正当に手に入れた情報
- 相手から受け取った情報を使わずに、自分で作った情報
- 契約に違反せずに公知になった情報
包括型の定義でも、こうした例外が書かれていれば範囲は絞られます。例外の条項がない契約書は、対象がどこまでも広がりやすいので、追加を相談する価値があります。法令に基づいて開示が求められる場合の扱いも、あわせて確認しておきましょう。
確認ポイント2:使ってよい目的と、見せてよい相手
秘密情報は「この契約の目的の範囲内でだけ使う」と定めるのが一般的です。IPAのモデル契約でも、目的の範囲を超える複製や改変には事前の書面承諾が必要としています。
フリーランスが気をつけたいのは、次のような場面です。
- 業務の資料を、自分の個人用クラウドやメモアプリに保存する
- 生成AIなどの外部サービスに、業務のコードや資料を入力する
- 自分の作業を手伝ってもらう人(再委託先)に資料を見せる
どれも、契約や発注者の情報管理ルールで禁止・制限されていることがあります。迷ったら作業の前に発注者に確認し、許可はメールなどで残しておきましょう。再委託をする場合の考え方は再委託の記事にまとめています。
確認ポイント3:契約が終わった後、いつまで守るか
秘密保持の義務は、業務委託契約が終わった後も一定期間続くと定めるのが通常です。「本契約終了後も◯年間有効とする」といった「存続条項」を探してください。
期間は法律で決まっているわけではなく、契約によって違います。期間の定めがない場合は、終わりがない義務と読まれるおそれがあります。期間がどこに書いてあるか、何年なのかを確かめておきましょう。
確認ポイント4:終了時の返還・廃棄
契約が終わったときに、資料をどう返すか、どう消すかも決めておきます。
- 紙の資料、貸与されたPCやアカウントの返却
- 自分のPCやクラウドに残ったファイルの削除
- 削除したことを書面で報告するかどうか
貸与PCだけで作業する案件では問題になりにくい一方、自分の端末で作業した案件では消し忘れが起きやすくなります。参画の時点で「どこに保存してよいか」を決めておくと、終了時の作業が楽になります。
確認ポイント5:違反したときの責任
NDAに違反したときの損害賠償や、違約金の定めも確認します。違約金の額があらかじめ決まっている場合は、実際の損害の大きさにかかわらず、その額を請求されることがあります。賠償の上限の考え方は損害賠償の条項の記事で解説しています。
実績として話せる範囲を決めておく
フリーランスにとって、過去の案件は次の案件を得るための大事な材料です。ところが、NDAの範囲が広いと、スキルシートや面談で「どの会社で何をしたか」を話してよいのか迷うことになります。
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月1日改定版)は、発注者に役務を提供したという事実が新たな発注者を得るうえで重要な情報になっているのに、合理的に必要な範囲を超えて、一方的にその事実の公表を制限する秘密保持義務を設けることを、優越的地位の濫用として問題となり得る例に挙げています。
一方で、取引先の社名や未公表のプロジェクトを伏せる必要があるのは、多くの案件で共通です。現実的には、次のように書き分けると扱いやすくなります。
| 書きやすいこと | 伏せることが多いこと |
|---|---|
| 業界(例:製造業、金融機関) | 取引先の社名、エンドユーザーの社名 |
| プロジェクトの規模(人数・期間) | 未公表の製品名・サービス名 |
| 自分の役割と担当工程 | 社内の数値、取引条件、セキュリティ構成 |
| 使った技術・ツール | 取引先固有の業務ルールや資料 |
迷うものは、契約の時点で「実績として業界・規模・役割を記載してよいか」を確認しておくと安心です。スキルシートの書き方はスキルシートと守秘義務の記事をご覧ください。
一方的に重いNDAは、独占禁止法上の問題になり得る
ガイドラインは、秘密保持義務・競業避止義務・専属義務について、発注者が合理的に必要な範囲で設けることは直ちに独占禁止法上問題になるものではない、としています。秘密を守ってもらうことは、取引の前提として必要だからです。
ただし、取引上の地位が優越している発注者が、一方的に合理的な範囲を超えた義務を課し、フリーランスが今後の取引への影響を心配して受け入れざるを得ない場合は、優越的地位の濫用として問題になるとしています。合理的な範囲を超えるかどうかは、義務の内容や期間が目的に照らして過大か、補償の有無や水準、他の取引先との差、通常の義務との違いなどを総合して判断するとされています。
公正取引委員会の競争政策研究センターの報告書をまとめた資料でも、対象範囲が不明確な秘密保持義務・競業避止義務は、役務の提供者がほかの発注者と取引することを萎縮させる場合があり、競争政策上望ましくないと整理されています。
NDAを受け取ったときの確認の順番
- 定義と例外:秘密情報は指定型か包括型か。4つの例外はあるか
- 目的と開示先:目的外の使用禁止の範囲、外部サービスや再委託先の扱い
- 期間:契約終了後に何年続くか
- 返還・廃棄:何を、いつまでに、どう消すか
- 違反時の責任:損害賠償・違約金の定め
- 実績の扱い:業界・規模・役割をスキルシートに書いてよいか
よくある質問
面談の前にNDAへの署名を求められました。署名してよいですか?
面談で案件の詳細を聞く前に、NDAを求められることはあります。署名の前に、対象となる情報と期間、例外の有無を確認してください。面談だけで終わった場合にも義務が続くかどうかも見ておくと安心です。内容に迷うときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
前の案件で身につけた技術やノウハウは、次の案件で使えますか?
一般的なプログラミングの技術や、業務を通じて身につけた経験そのものを使うことまで、NDAで一律に禁止されるわけではありません。一方で、前の取引先の資料、ソースコード、固有の設計や数値をそのまま使うことは、秘密保持義務に反するおそれがあります。契約の定義と例外の条項を確認し、判断に迷う場合は専門家にご相談ください。
NDAの期間が書かれていない場合はどうなりますか?
期間の定めがないと、契約終了後も期限なく義務が続くと読まれるおそれがあります。署名前であれば「契約終了後◯年」のように期間を明記してもらうよう相談しましょう。すでに署名している場合は、どの情報をいつまで守る必要があるか、発注者に確認しておくと安心です。
参考にした公的情報・資料
- 不正競争防止法(e-Gov法令検索)
- フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)
- 競業避止義務に係る競争政策・独占禁止法上の考え方(公正取引委員会・規制改革推進会議 資料)
- 情報システム・モデル取引・契約書 第二版(情報処理推進機構)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(公正取引委員会・厚生労働省)
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