S/4HANA移行のフリーランス案件の仕事内容|案件の種類と働き方
公開 2026-11-04 監修:株式会社エージェントベスト
S/4HANA移行のフリーランス案件の仕事は、旧環境で動いているものを調べ、新環境で動く形に直し、移した結果を照合で確かめ、決められた停止時間の中で切り替えることの積み重ねです。ただし、移行は職種ではなくプロジェクトの種類なので、計画・管理、業務モジュール、データ移行、アドオン改修、Basisのどの役割で入るかによって、1日の中身も、向き合う相手も、手元に残る成果物も変わります。
さらに、同じ役割でも、現行調査の時期とリハーサルや本番切替の時期では、毎日の過ごし方が別の仕事のように違います。この記事では、移行の案件を役割で5つに分け、それぞれの1日と1か月の流れ、関わる相手、成果物を整理します。報酬の決まり方はS/4HANA移行の報酬の記事、求められるスキルはS/4HANA移行のスキルの記事で扱っているので、ここでは「参画したら実際に何をしているか」に絞ります。
仕事の中身は「役割」と「段階」で決まる
S/4HANA移行の案件が続いている背景には、旧環境の保守期限があります。SAPは2020年2月の発表で、SAP Business Suite 7の主要なアプリケーションの標準保守を2027年末まで、オプションの延長保守を2030年末までとし、S/4HANAの保守を2040年末まで約束するとしています(2026年10月時点で確認したSAPの発表による。個別の企業の期限は契約によって変わります)。
この期限に向けて、業種も規模もさまざまな企業が移行のプロジェクトを進めています。フリーランスが入る役割は、おおむね次の5つです。
| 役割 | 主な相手 | 時間を多く使う仕事 |
|---|---|---|
| 移行の計画・管理 | 発注元の責任者、各チームのリーダー、ベンダーの責任者 | 日程と課題の管理、リハーサルと切替の段取り |
| 業務モジュールの担当 | 業務部門、同じ領域のベンダーの担当者、データ移行チーム | 旧環境の設定の調査、変わる点の判断、テストの支援 |
| データ移行の担当 | 業務部門のデータの持ち主、モジュール担当、Basis | 移行対象の整理、変換ルールの作成、照合 |
| アドオンの調査・改修 | モジュール担当、業務部門、ほかの開発者 | 追加開発の棚卸し、改修、改修後の確認 |
| Basis(基盤) | 計画・管理の担当、データ移行の担当、インフラの運用者 | 前提の更新、変換作業の実施、停止時間の見積もり |
そして、どの役割にも共通する「段階」があります。現行調査、設計と改修、テストとリハーサル、本番切替、稼働後の支援です。以下では、役割ごとの1日と1か月の流れを、典型的な例として紹介します。配分は案件と段階で大きく変わるため、目安として読んでください。
移行の計画・管理の仕事
1日の流れ(例)
朝は、各チームから前日の課題と進み具合を集め、課題管理表を更新します。午前は、データ移行チームやモジュール担当との短い確認で、期限が近い課題の持ち主と期日を決めます。午後は、発注元との定例会議や、方式や範囲に関わる判断の会議の準備と進行に使います。夕方は、次のリハーサルに向けた手順書の更新や、関係者への依頼事項の整理に時間を使います。
自分でSAPの設定をすることはほとんどなく、課題が止まっている場所を見つけ、決める人に決めてもらうのが中心です。
1か月の流れ(例)
- 現行調査の時期:調査の範囲と担当を決め、調査結果を移行の対象・対象外・作り直しに分ける会議を回す
- 設計・改修の時期:領域をまたぐ課題を整理し、優先順位を発注元と合意する
- リハーサルの時期:リハーサルごとに所要時間と問題を集め、手順書と日程を見直す
- 切替の前後:切替の時刻表、判断の会議の設計、進めるか戻すかの基準の合意、当日の進行
成果物
移行の全体計画、工程ごとの日程、課題とリスクの一覧、リハーサルの結果のまとめ、切替の手順書と時刻表、判断の基準の合意文書、稼働後の支援の体制表などです。PMOとしての書き方はPMOの仕事に近い部分もありますが、移行では「切替の時刻表」と「進めるか戻すかの基準」が特有の成果物です。
業務モジュールの担当の仕事
1日の流れ(例)
現行調査の時期は、旧環境の設定とアドオンの一覧を読み、自分の領域で使われている機能と、S/4HANAで扱いが変わる点を書き出す作業が1日の大半を占めます。午後に業務部門と会い、「この機能は今も使っているか」「この帳票はなくせるか」を確かめます。設計の時期に入ると、変わる点への対応方針を決める打ち合わせと、新環境の設定の確認が中心になります。
テストの時期は、業務部門のユーザーテストに付き添い、「前と画面が違う」「この帳票が出ない」という声を、仕様どおりか不具合かに切り分けます。
1か月の流れ(例)
- 月初:担当領域の課題の一覧を見直し、業務部門への確認事項をまとめる
- 毎週:領域の定例会議でデータ移行チームやアドオン担当と、互いの前提をそろえる
- 月の半ば:確認が終わった項目を対応方針に落とし、設計の文書を更新する
- 月末:移行の計画・管理の担当に、領域の進み具合と判断が要る事項を報告する
成果物
担当領域の現行調査の結果、変わる点と対応方針の一覧、新環境の設定の文書、テストのシナリオと結果、業務部門向けの変更点の説明資料などです。会計・販売購買・基盤それぞれの日々の仕事は、SAP FI/COコンサルの仕事内容、SAP SD/MMコンサルの仕事内容で解説しています。
データ移行の担当の仕事
1日の流れ(例)
午前は、旧環境から抜き出したデータの中身を見て、重複や、使われていないデータ、項目の不足を洗い出します。午後は、業務部門のデータの持ち主と「どのデータを移すか」「この取引先は統合してよいか」を確かめ、変換のルールに反映します。リハーサルの時期になると、移行を流した結果の件数と金額の照合に1日を使い、合わない原因を変換のルール、元のデータ、作業の手順のどこにあるかで切り分けます。
1か月の流れ(例)
- 現行調査の時期:移行対象のデータの種類と件数の規模を整理し、対象・対象外の案を作る
- 設計の時期:項目の対応、コードの読み替え、除外の条件を変換のルールとして文書にする
- リハーサルの時期:リハーサルごとに照合を行い、差異の原因を直し、照合の基準を固める
- 切替の前後:本番の照合を担当し、結果を判断の会議に報告する
成果物
移行対象のデータの一覧、変換のルールの文書、データの整理の依頼と結果、照合の設計(件数・金額・抜き取り・業務での確認)、リハーサルごとの照合結果と差異の記録、本番の照合報告です。移行の中でも、成果物がそのまま品質の証明になる役割です。
アドオンの調査・改修の仕事
1日の流れ(例)
現行調査の時期は、追加開発のプログラムの一覧と実行の記録を見て、使われているものと使われていないものを分けます。使われているものは、変わったデータの構造や廃止された機能に触れていないかを調べ、改修の要否を判定します。改修の時期は、プログラムを直して動作を確かめる時間が長く、1日の多くをシステムの前で過ごします。
業務部門との会話は少なめですが、「この帳票はもう使っていないので廃止してよいか」の合意は、モジュール担当と組んで進めます。
1か月の流れ(例)
- 月初:改修の対象の一覧と優先順位を、モジュール担当と確かめる
- 毎週:改修の進み具合と、新しく見つかった影響をチームで共有する
- 月の半ば:改修したものを業務のシナリオで確かめ、結果を記録する
- 月末:廃止できたもの、改修したもの、残っているものの数を報告する
成果物
アドオンの棚卸しの一覧(使用・不使用、改修要否)、影響調査の結果、改修したプログラムと設計の文書、改修後のテスト結果です。ABAPの立場からの日々の仕事はSAP ABAPエンジニアの仕事内容で解説しています。
Basisの仕事
1日の流れ(例)
移行の前提となるバージョンの更新や、変換に使うツールの準備、検証環境の構築が中心です。リハーサルの時期は、変換の作業を実際に流し、どの工程にどれだけ時間がかかったかを記録して、停止時間を縮める工夫を検討します。切替の週末は、時刻表に沿って作業を進め、各工程の完了を計画・管理の担当に報告する立場になります。
1か月の流れ(例)
- 準備の時期:環境の構成、前提の更新、ツールの準備と検証
- リハーサルの時期:変換作業の実施、所要時間の記録、手順の改善
- 切替の前後:本番の作業、稼働直後の性能や接続の問題の対応
成果物
環境の構成の文書、変換作業の手順書、所要時間の実績、停止時間の見積もりと実績の比較です。詳しくはSAP Basisエンジニアの仕事内容をご覧ください。
どの役割にも共通する仕事
役割が違っても、移行の案件には共通する仕事があります。
- 課題の持ち主と期日を決める:領域をまたぐ課題が多く、誰が決めるかがあいまいなまま止まりやすい
- リハーサルの振り返り:かかった時間、詰まった手順、次に直すことを短くまとめて報告する
- 照合の結果を数字で出す:件数、金額、数量の旧新の比較を表で共有し、差があれば理由を添える
- 切替の週の体制に入る:夜間や休日をまたぐ作業や待機があり、自分の担当の時刻と完了の報告の仕方が決まっている
フリーランスならではの仕事として、自分の稼働の記録もあります。リハーサルや切替の週は稼働が大きく振れるため、作業と待機の時間を日々つけておき、精算の条件と照らし合わせる必要があります。精算の仕組みは精算幅の記事をご覧ください。
段階によって1日はこう変わる
同じ役割でも、段階によって働き方がこれだけ変わります。参画する時期を決めるときの目安にしてください。
| 段階 | 1日の特徴 | 稼働の振れ |
|---|---|---|
| 現行調査 | 資料とシステムの調査が中心。業務部門への確認は週に数回 | 小さい |
| 設計・改修 | 打ち合わせと作業が半々。領域をまたぐ調整が増える | 小さい〜中くらい |
| テスト・リハーサル | 業務部門の支援と照合に時間を使う。リハーサルの週は長時間になりやすい | 中くらい〜大きい |
| 本番切替 | 時刻表に沿った作業と待機。夜間や休日をまたぐ | 大きい |
| 稼働後の支援 | 問い合わせの切り分け、最初の月次の締めの支援 | 中くらい。初月の締めで増える |
リモートで進めやすい段階と、現地に集まりやすい段階の違いはS/4HANA移行のリモートの記事で解説しています。
よくある質問
移行の案件では、自分でSAPの設定をする時間はどのくらいありますか?
役割によります。業務モジュールやBasisの担当は、新環境の設定や変換作業で手を動かす時間が多くあります。計画・管理やデータ移行の担当は、調整と照合が中心で、設定そのものは少なめです。面談で「1日のうち手を動かす時間はどのくらいか」を聞いておくと、想定とのずれを防げます。
現行調査から稼働後の支援まで、一人で全部を担当することはありますか?
小さな規模の移行や、役割をまたいで動ける経験者には、複数の段階を通して担当する案件もあります。ただし、本番切替の週は役割ごとに人が付くのが一般的です。通しで関わる場合は、段階ごとに自分の役割がどう変わるかを、参画前に確かめておきましょう。
参画して最初の1か月は何をすることが多いですか?
方式と現在の段階の把握、担当領域の資料の読み込み、課題の一覧と判断の流れの確認から始めるのが一般的です。進め方はS/4HANA移行の参画初月にやることで解説しています。面談で聞かれやすい質問はS/4HANA移行の面談の記事をご覧ください。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。