賃貸住宅で事業をするときの注意点|契約の使用目的と、確かめておきたい使い方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
賃貸住宅で事業をするときに最初に確かめるのは、賃貸借契約書の「使用目的」です。国土交通省の賃貸住宅標準契約書では、使用目的は「居住のみ」とされています。そのうえで解説には、特約を結べば、居住しながら居住以外の目的にも使えると書かれています。
パソコンで作業するだけなら住まい方と大きく変わらないことが多いものの、来客、看板、法人の登記、回線の工事など、使い方によっては貸主の承諾が要る場面があります。どこまでが問題になるかは契約の内容と貸主の判断によるため、気になる使い方があれば、始める前に貸主や管理会社に確かめておくのが安全です。この記事では、確かめておきたい使い方と、その聞き方を整理します(2026年10月時点)。
契約書の「使用目的」と、守る義務の根拠
標準契約書は「居住のみ」
国土交通省は、民間の賃貸住宅の契約に使える賃貸住宅標準契約書を公開しています。平成30年3月版の第3条は、借主は「居住のみを目的として本物件を使用しなければならない」としています。解説では、民間賃貸住宅の契約書であるため使用目的を居住に限っていること、特約をすれば居住しつつ居住以外の目的にも使えることが説明されています。
実際の契約書は、標準契約書をもとにしたものもあれば、貸主や管理会社が独自に作ったものもあります。まず手元の契約書で、使用目的の条項と特約の欄を読み直してください。
民法の「用法遵守」
民法は、借りた物を、契約やその物の性質によって定まった用法に従って使うことを求めています(第594条第1項。賃貸借には第616条で準用)。使用目的の条項は、この「定まった用法」を契約で具体的に決めたものです。
標準契約書の第10条では、使用目的を守る義務に借主が違反し、貸主が相当の期間を定めて履行を求めてもその期間内に履行されず、契約を続けることが難しいと認められるに至ったときに、貸主が契約を解除できるとしています。在宅での作業がすぐにこれにあたるわけではありませんが、使い方によっては話し合いが必要になることを知っておきましょう。
問題になりやすい使い方
フリーランスのエンジニアやコンサルの仕事は、パソコンと回線があればできることが多く、住まいの使い方が大きく変わらない場合もあります。一方、次のような使い方は、契約の条項や近隣への影響から確かめておきたい点です。
| 使い方 | 関係しやすい条項・点 | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 自宅で一人でパソコン作業をする | 使用目的 | 契約上の扱いと、気になる点がないか |
| 取引先や外注先が打ち合わせに来る | 使用目的、共用部の使い方、近隣への影響 | 来客を前提にしてよいか |
| 表札・郵便受け・ドアに屋号を出す | 標準契約書の別表第2(共用部分への看板・広告物の掲示は書面の承諾が要る行為) | 表示してよい場所と方法 |
| 法人の本店所在地にする | 使用目的、特約 | 登記に使ってよいか |
| 光回線の引き込みなど工事をする | 第8条第2項(増改築・模様替・工作物の設置は書面の承諾が要る) | 工事の可否と原状回復の扱い |
| 重い機材や大型の棚を置く | 別表第1(大型の金庫など重量の大きな物品の搬入・備付けは禁止) | 床の荷重など |
| 人を雇って一緒に作業する | 使用目的、近隣への影響 | 事務所としての利用にあたるか |
来客と登記は「住まい以外の使い方」に見えやすい
一人で作業しているだけなら外から見えにくいのに対し、来客や法人の登記は、住まい以外の目的で使っていることが外から分かる使い方です。法人化を考えている場合は、登記の住所をどうするかを、会社を作る前に決めておきます。会社を作る流れは法人設立の流れの記事で解説しています。
共用部と近隣への配慮
共用の廊下や階段に荷物を置くこと、共用部分に看板を掲示することは、標準契約書では書面の承諾が要る行為とされています。宅配便が頻繁に届く、夜間にオンライン会議の声が響くといった点も、近隣との関係に影響します。仕事の時間帯や会議をする部屋を決めておくと、トラブルを避けやすくなります。
貸主・管理会社への確かめ方
聞く前に整理しておくこと
貸主や管理会社に確かめるときは、「事務所として使いたい」と抽象的に聞くより、実際の使い方を具体的に伝える方が判断してもらいやすくなります。
- 仕事の内容(パソコンでの作業が中心か)
- 来客の有無と頻度
- 表札・郵便受けへの屋号の表示の有無
- 法人の登記に使うかどうか
- 工事や大きな機材の搬入の有無
- 一緒に作業する人の有無
承諾は書面で残す
標準契約書では、転貸や増改築、共用部分への看板の掲示などに「書面による承諾」を求めています。口頭で了解を得ただけだと、担当者が変わったときや、更新・退去のときに話が伝わらないことがあります。承諾を得たら、メールや書面で残しておきましょう。特約として契約書に書き加えてもらえれば、より明確になります。
住所と書類の扱い
税務署への届出は住所地が原則
開業届などに書く納税地は、通常は住所地です。賃貸住宅に住んでいれば、その住所を書くのが一般的です。開業届の期限は、事業を始めた年分の確定申告期限までです(国税庁 No.2090)。届出に住所を書くこと自体は、契約の使用目的とは別の話です。
公開する住所は分けられる
名刺やWebサイトに自宅の住所を載せたくない場合は、載せない、外部の住所を使うなどの選択肢があります。選び方は事業用住所の記事で整理しています。外部の住所を使う場合は、取引先から届く書類の受け取り方も決めておきます。
家賃を経費にするときの考え方
賃貸住宅の一部を仕事に使っていれば、家賃のうち業務に使った分を必要経費にできる場合があります。国税庁の所得税基本通達45-2は、家事関連費のうち業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分を必要経費に算入できるという考え方を示しています。
経費にできるかは、契約書の使用目的ではなく、実際に業務で使っているかと、その割合を説明できるかで考えます。面積や使う時間をもとにした計算の方法は家事按分の記事で解説しています。割合の決め方に迷う場合は、税理士・税務署にご相談ください。
敷金・更新料・保険料の扱い
戻ってくる敷金は経費になりません。更新料や仲介手数料、火災保険料などは、内容や金額で扱いが変わることがあります。賃貸の契約で払うお金は、領収書と契約書をまとめて保存しておくと、申告のときに判断しやすくなります。
引っ越しや新しく借りるときに確かめること
これから部屋を探す場合は、仕事で使うことを前提に条件を決めます。
- 使用目的:事務所としての利用を認める物件か、特約に応じてもらえるか
- 回線:光回線を引けるか、工事に承諾が要るか
- 間取り:会議ができる個室があるか、生活の場と分けられるか
- 審査:独立後は収入の証明の方法が変わるため、在職中に契約するかどうかも考える
審査とローンの考え方は独立前の準備の記事、作業環境の整え方は自宅を仕事場にする記事をご覧ください。申込書には、事実と違う職業や使い方を書かないようにしましょう。
よくある質問
自宅でパソコン作業をするだけでも、貸主に伝える必要がありますか?
一律の決まりはなく、契約書の使用目的と特約の内容によります。来客や看板、登記などがなく、住まい方が変わらない作業であれば、問題にならないことが多いと考えられます。ただし、契約書に事務所としての利用を禁じる定めがあるなど気になる点があれば、事前に貸主や管理会社に確かめておくと安心です。
賃貸住宅を法人の本店所在地にしてもよいですか?
登記の手続きと、賃貸借契約で認められるかは別の問題です。登記に使うと、住まい以外の目的で使っていることが外から分かるため、契約の使用目的や特約に関わります。登記に使う前に貸主の承諾を得ておくか、外部の住所を使うかを決めておきましょう。
契約で居住用とされている部屋の家賃は、経費にできませんか?
経費にできるかどうかは、契約書の使用目的ではなく、実際に業務で使っている部分を明らかに区分できるかで考えます。一方で、契約に合った使い方をしているかは、経費とは別に確かめておく必要があります。経費にする割合や根拠の残し方に迷うときは、税理士・税務署にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- 賃貸住宅標準契約書(国土交通省)
- 賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型(国土交通省)
- 民法(e-Gov法令検索)
- 所得税基本通達45-1・45-2 家事関連費(国税庁)
- No.2090 新たに事業を始めたときの届出など(国税庁)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。