複数の案件を掛け持ちするときの注意点|契約・時間・情報管理の確認
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
複数の案件の掛け持ちは、契約で他の仕事が制限されていないか、稼働の時間帯が重ならないか、情報を案件ごとに分けて扱えるかの3つを先に確かめておけば、進めやすくなります。収入の入り口が複数になる分、1つの案件が終わったときの影響を小さくできる一方、確認を怠ると、契約違反や稼働の破綻につながることがあります。
この記事では、掛け持ちを始める前に確認したいことと、掛け持ち中に気をつけたい進め方を整理します。
掛け持ちのよくある組み合わせ
掛け持ちといっても、組み合わせ方によって注意点が変わります。代表的な形は次のとおりです。
| 組み合わせ | 例 | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 日数で分ける | 週3日の案件+週2日の案件 | 稼働しない日にもう一方の会議や連絡が入らないか |
| 時間帯で分ける | 午前は案件A、午後は案件B | 会議の時間変更や急ぎの対応で重なりやすい |
| 本業+スポット | 週5日の案件+月数回の技術相談 | 合計の稼働が過重にならないか。メイン案件の契約で制限されていないか |
| 継続+短期 | 継続案件+数週間の単発の作業 | 短期案件の納期が継続案件の繁忙期と重ならないか |
稼働日数と稼働率の読み方は稼働率の記事、週3日の案件の探し方は週3日の業務委託案件の記事で解説しています。
確認1:契約で他の仕事が制限されていないか
業務委託契約は雇用契約ではないため、受けた側が複数の取引先と契約することは、本来は自由です。ただし、契約書に次のような条項があると、掛け持ちの範囲が制限されることがあります。
- 専属・兼業の制限:契約期間中、他の発注者の業務を受けないこと、または事前の承諾を求めること
- 競業避止:同業他社や競合する事業の業務を受けないこと
- 直接契約の禁止:紹介を受けた取引先と、間に入った会社を通さずに直接契約しないこと
掛け持ちを考えているなら、署名の前に、どの範囲が制限されるのかを読み、必要なら修正を相談します。範囲や期間が広すぎる条項の考え方や、修正の相談のしかたは直接契約の禁止・競業避止の条項の記事で詳しく解説しています。
確認2:稼働の時間帯と会議が重ならないか
掛け持ちで最もつまずきやすいのが、時間の重なりです。参画前に、それぞれの案件について次の点を書き出し、並べて見ておきます。
- 稼働する曜日と時間帯
- 定例の会議の曜日と時間
- 連絡が取れるようにしておく時間帯の決まり
- 繁忙期(リリース前、月末・期末など)の時期
- 障害対応や緊急時の連絡の有無
特に、時間帯で分ける掛け持ちでは、片方の会議が延びたり、急に時間が変わったりするだけで、もう一方の予定に影響が出ます。また、障害対応のように「いつ呼ばれるか分からない」業務を含む案件は、ほかの案件と組み合わせにくい傾向があります。
確認3:情報を案件ごとに分けて扱えるか
掛け持ちでは、複数の発注者の情報を同時に扱います。秘密保持の条項を守るために、次のような分け方を決めておくと安心です。
- 端末:発注側から貸与された端末は、その案件の業務だけに使う。私物の端末を使う場合も、案件ごとにユーザーやフォルダを分ける
- アカウント:チャットやクラウドストレージは、案件ごとのアカウントで使い分ける。画面共有のときに、別の案件の通知や画面が映らないようにする
- 資料とコード:ある案件で作ったコードや資料を、別の案件に流用しない。自分で用意した汎用的な道具を使う場合も、権利の扱いを契約で確かめる
- 話す内容:別の案件の取引先名や進捗を、会議や雑談で話さない
秘密保持の対象や、契約終了後の扱いは秘密保持契約(NDA)の記事で解説しています。
確認4:稼働時間を正しく記録できるか
準委任の案件では、稼働した時間をもとに報酬を精算する形がよく使われます。掛け持ちをしていると、どの時間をどの案件に使ったのかがあいまいになりがちです。
- 稼働の記録は、案件ごとに分けて、その日のうちに付ける
- 移動中や合間の短い対応も、どの案件の作業かを分けて記録する
- 同じ時間を両方の案件で稼働として報告しない
記録の付け方は、1日の終わりに案件ごとの開始・終了時刻と作業内容を書き出すだけでも足ります。後からまとめて思い出そうとすると、どちらの案件の作業だったかが分からなくなりがちです。稼働の報告は、精算の根拠になるものです。正確に記録しておけば、精算幅を超えたときに超過を請求する根拠にもなります。精算の仕組みは精算幅の記事をご覧ください。
掛け持ち中に1つの案件が終わるとき
掛け持ちの利点の1つは、1つの案件が終わっても収入がゼロにならないことです。ただし、終わり方によっては、もう一方の案件の稼働を急に増やせず、収入が下がる期間が出ることもあります。
2024年11月1日に施行されたフリーランス法では、6か月以上の業務委託を発注側が中途解除したり、更新しなかったりする場合、原則として少なくとも30日前までに予告することが求められています(公正取引委員会「フリーランス法特設サイト」、2026年10月時点で確認)。公正取引委員会のQ&Aでは、同じ当事者間で内容に一定の同一性がある契約を、空白期間1か月未満で更新している場合は、最初の始期からの通算で期間を数えるという考え方も示されています。
予告を受けたら、もう一方の案件で稼働を増やせるか、新しい案件を探すかを早めに判断します。予告の考え方はフリーランス新法の中途解除の記事、空白期間を短くする探し方は案件が途切れたときの記事をご覧ください。
掛け持ちを伝えるか、伝えないか
掛け持ちしていることを各発注者に伝える義務は、契約で定めていない限り、一般にはありません。ただし、次のような場合は、伝えておいたほうが話がこじれにくくなります。
- 稼働する曜日や時間帯に制約があり、会議の時間に影響する
- 契約に兼業の承諾や届け出の条項がある
- 同じ業界の案件を受けている
伝えるときは、取引先の名前や業務の内容に触れず、「別の案件で週2日稼働しているため、火曜と木曜は対応できません」のように、稼働の制約だけを伝えれば足ります。
体力と確定申告も見落とさない
掛け持ちは、案件の数だけ会議や報告が増えます。業務委託では、労働時間の上限のような仕組みで守られるわけではないため、合計の稼働時間と休みは自分で管理する必要があります。週に1日以上は、どの案件の連絡も入らない日を作っておくと、体調を崩しにくくなります。
また、複数の取引先から報酬を受け取ると、請求書の発行や入金の確認、源泉徴収の有無の管理も増えます。確定申告では、すべての取引先からの収入をまとめて計算します。入金と請求は取引先ごとに一覧にしておくと、申告のときに集計しやすくなります。
よくある質問
週5日の案件を受けながら、夜や週末に別の案件を受けてもよいですか?
契約で制限されていなければ受けることはできます。ただし、メインの案件の契約に兼業の制限や承諾の条項がないかを先に確認してください。また、合計の稼働が長くなるとメインの案件に影響が出やすいため、無理のない範囲にとどめるのが現実的です。
掛け持ちしている案件どうしの情報を参考にしてもよいですか?
取引先から得た情報は、秘密保持の条項の対象になるのが一般的です。一方の案件で知った情報を、もう一方の案件で使うことは避けてください。自分の経験や一般的な知識として身についた技術を使うことと、取引先の情報を持ち込むことは分けて考えます。
掛け持ちしている案件の片方から、稼働を増やしてほしいと頼まれたらどうしますか?
もう一方の案件の稼働に影響が出ないかを確かめてから答えます。増やせる場合は、報酬や精算の基準時間も変わるため、条件の変更をあらためて確認してください。増やせない場合は、その理由を稼働の制約として伝えれば足ります。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。