直接契約の禁止・競業避止の条項をどう読むか|対象・期間・範囲の確認
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
競業避止の条項は「契約が終わった後、一定期間、発注者と競合する仕事をしない」、直接契約の禁止の条項は「紹介を受けた取引先と、紹介者を通さずに直接契約しない」という約束です。読むときは、誰が対象か、何の仕事が対象か、いつまでか、破ったらどうなるかの4点を確認します。
こうした義務を合理的に必要な範囲で設けること自体は、直ちに問題になるものではありません。ただし、取引上優越した立場の発注者が、合理的な範囲を超えて一方的に課す場合は、独占禁止法上の優越的地位の濫用として問題になり得ます。
似ているけれど違う3つの義務
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(2026年1月1日改定版)は、秘密保持義務・競業避止義務・専属義務を次のように説明しています。
| 義務 | 内容 | 主にかかる時期 |
|---|---|---|
| 秘密保持義務 | 業務を通じて知った技術や顧客情報などの秘密を漏らさない | 契約中と契約終了後 |
| 競業避止義務 | 契約終了後、発注者と競合する事業を自ら行わない、または競合する者に一定期間役務を提供しない | 契約終了後 |
| 専属義務 | ほかの発注者への役務の提供を制限し、自分とだけ取引させる | 主に契約中 |
これとは別に、フリーランスの契約でよく見られるのが直接契約の禁止(引き抜き禁止とも呼ばれます)です。紹介者や元請けを通じて参画した取引先と、一定期間、直接または別の経路で契約しないことを約束するものです。
直接契約の禁止は、ガイドラインの定義では「競業避止義務」とは別のものですが、フリーランスがほかの取引をする機会を制限する点では共通しています。そのため、ガイドラインが示す「取引条件の一方的な設定」の考え方が参考になります。
条項を読むときの4つのポイント
1. 誰が対象か
- 競業避止:「甲と競合する事業者」とは誰か。業界全体か、特定の会社か
- 直接契約の禁止:「本件の取引先」だけか、そのグループ会社や関連会社まで含むか
対象が広く曖昧なほど、次の案件探しで判断に迷います。
2. 何の仕事が対象か
「競合する業務」がどこまでを指すのかを確認します。同じ業界の別の会社でまったく違う業務をする場合まで含むのか、同じ製品・同じ業務に限るのかで、影響は大きく変わります。
3. いつまでか
契約終了後◯か月、◯年といった期間が書かれているかを確認します。期間の長さは法律で一律に決まっているわけではありません。期間の定めがない場合は、期限なく続くと読まれるおそれがあります。
4. 破ったときにどうなるか
違約金の額が決められているか、損害賠償の定めがあるかを確認します。違約金は民法上、賠償額の予定と推定されます(民法第420条)。考え方は損害賠償の条項の記事で解説しています。
契約中の「専属」「兼業の制限」も見ておく
契約が終わった後だけでなく、契約期間中の制限も確認が必要です。次のような書き方があると、ほかの案件の掛け持ちや自分のサービスの提供が制限されることがあります。
- 「乙は、本契約期間中、甲の事前の承諾なく、第三者の業務を受託してはならない」
- 「乙は、甲の競合他社の業務に従事してはならない」
週5日の稼働を前提にした案件では、実際に掛け持ちが難しいことも多いため、気づかないまま署名しがちです。一方で、週2〜3日の案件を組み合わせて働く場合は、この条項があると働き方そのものが成り立たなくなります。どんな仕事が制限されるのか、承諾を得れば可能なのかを確認し、予定している働き方と合わない場合は、参画前に相談しましょう。
独占禁止法の考え方:合理的な範囲かどうか
ガイドラインの整理
ガイドラインは、これらの義務の目的を、発注者が秘密情報の漏えいを心配せずに取引すること、自社への役務の提供に専念させること、フリーランスの育成にかけた費用を回収することなどと説明しています。そのうえで、合理的に必要な範囲で設けることは、直ちに独占禁止法上問題となるものではないとしています。
一方で、これらの義務はフリーランスがほかの発注者に役務を提供する機会を失わせ、不利益をもたらす場合があります。取引上の地位が優越している発注者が、一方的に合理的な範囲を超えて課し、フリーランスが今後の取引への影響を心配して受け入れざるを得ない場合は、優越的地位の濫用として問題になるとしています。
合理的な範囲を超えるかどうかは、次のような事情を総合して判断するとされています。
- 義務の内容や期間が、目的に照らして過大かどうか
- フリーランスに与える不利益の内容
- 補償金などの有無と、その水準
- ほかの取引先の条件と比べて差別的かどうか
- 通常の義務の内容や期間とどれだけ離れているか
想定例としては、育成の費用をすでに回収し終わっているのに、その回収を理由に一方的に競業避止義務や専属義務を設けることなどが挙げられています。
対象範囲が不明確な義務は望ましくない
公正取引委員会の競争政策研究センターが2018年2月に公表した「人材と競争政策に関する検討会」の報告書の内容をまとめた公正取引委員会の資料では、発注者が義務の内容を実際と違って説明したり、あらかじめ十分に明らかにしないまま受け入れさせたりした場合も、独占禁止法上問題となり得るとしています。
また、対象範囲が不明確な秘密保持義務・競業避止義務は、どんな場合に違反になるのかがわからないため、役務の提供者がほかの発注者と取引することを萎縮させる場合があり、競争政策上望ましくないと整理されています。
契約の有効性が争われることもある
憲法第22条は、公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を保障しています。また、民法第90条は、公の秩序や善良の風俗に反する法律行為を無効としています。
契約で競業避止や直接契約の禁止を約束した場合でも、制限の範囲や期間、代償の有無などによっては、争いになったときに効力が問題とされることがあります。ただし、どこまでが有効かは個別の事情によって判断されるため、「この条項は無効だから守らなくてよい」と自分で決めるのは避けましょう。気になる条項がある場合は、署名前に修正を相談し、判断に迷うときは弁護士などの専門家にご相談ください。
修正を相談するときの具体例
競業避止や直接契約の禁止は、範囲を絞ることで双方が納得しやすくなる条項です。相談するときは、次のような形で具体的に提案すると話が進みやすくなります。
- 対象を絞る:「競合する事業者」ではなく「本件の取引先」に限る
- 業務を絞る:「同一の業務」「同一のプロジェクト」に限る
- 期間を決める:契約終了後の期間を明記する
- 例外を決める:取引先から公募で案件が出た場合や、取引先の同意がある場合の扱い
複数の案件紹介サービスを使っている場合は、同じ取引先に複数の経路から応募していないかにも注意が必要です。詳しくは複数登録の記事をご覧ください。直接契約と紹介経由の違いは直接契約とエージェント経由の違いの記事で整理しています。
よくある質問
契約終了後に、同じ業界の別の会社の案件を受けてもよいですか?
競業避止の条項がなければ、原則として契約による制限はありません。条項がある場合は、「競合する事業者」の範囲、対象となる業務、期間を確認してください。範囲が曖昧で判断できない場合は、発注者に確認し、回答を書面で残しておくと安心です。判断に迷うときは弁護士などの専門家にご相談ください。
案件中に、ほかの案件を掛け持ちしてもよいですか?
契約に専属義務や兼業の制限がなければ、掛け持ち自体は契約で禁止されていません。ただし、稼働時間の約束や秘密保持の義務は守る必要があります。契約に制限がある場合は、その範囲を確認し、必要に応じて事前に承諾を得ましょう。
直接契約の禁止の期間が過ぎた後なら、取引先と直接契約できますか?
契約で定めた期間が過ぎていれば、その条項による制限はなくなるのが通常です。ただし、秘密保持の義務など、ほかの条項が続いている場合があります。期間の起算日(契約終了日か、最後の稼働日か)も含めて、契約書を確認してから進めましょう。
参考にした公的情報・資料
- フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省)
- 競業避止義務に係る競争政策・独占禁止法上の考え方(公正取引委員会・規制改革推進会議 資料)
- 人材と競争政策に関する検討会 報告書の公表について(公正取引委員会)
- 日本国憲法(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
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