簡易課税制度の仕組みとみなし仕入率|ITフリーランスは第5種の50%
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
簡易課税制度は、売上にかかる消費税額に「みなし仕入率」を掛けた額を、仕入れにかかった消費税額とみなして計算する方法です。実際の仕入や経費の消費税を集計しなくてよく、仕入側のインボイスの保存も要りません。
エンジニアやコンサルの業務は、多くが第5種事業(みなし仕入率50%)にあたるため、納める消費税は売上にかかる消費税額のおおむね半分になります。使えるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者で、原則として事前の届出が必要です。この記事では、国税庁の資料をもとに、仕組みと届出のタイミングを整理します(2026年10月時点)。
簡易課税の計算の仕組み
消費税の納税額は、通常は次のように計算します(一般課税)。
- 納める消費税 = 売上にかかる消費税額 − 仕入・経費にかかった消費税額
簡易課税では、引き算の右側を実際の金額ではなく、売上から計算した金額に置き換えます。
- 納める消費税 = 売上にかかる消費税額 − 売上にかかる消費税額 × みなし仕入率
国税庁は、簡易課税を選ぶと実額による仕入税額の計算や、仕入に関するインボイスなどの保存が不要になり、事務の負担が軽くなると説明しています。一方、売上にかかる消費税額は税率ごとに正しく集計する必要があります。
事業区分とみなし仕入率
みなし仕入率は、事業の種類によって6つに分かれています。
| 事業区分 | 主な事業 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% |
| 第2種 | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡) | 80% |
| 第3種 | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡以外)、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業 | 70% |
| 第4種 | 第1〜3種・第5種・第6種以外の事業(飲食店業など) | 60% |
| 第5種 | 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% |
| 第6種 | 不動産業 | 40% |
エンジニア・コンサルの業務は第5種が多い
事業区分は、おおむね日本標準産業分類の大分類をもとに判定します。国税庁の質疑応答事例では、次の業種が第5種事業とされています。
- ソフトウェア業(ソフトウェアの設計・プログラム作成を請け負い、成果物を納める事業を含む)
- 情報処理・提供サービス業
- インターネット附随サービス業
- 経営コンサルタント業などの専門サービス業
- デザイン業
システム開発・インフラ構築・PMO・ITコンサルといった業務の報酬は、多くがこの第5種にあたると考えられます。ただし国税庁は、この表は目安であり、例示のない事業は個別に判定するとしています。出版業などの一部は第3種とされているため、業務の内容に迷うものがあれば確認が必要です。
2種類以上の事業がある場合
本業のほかに別の種類の売上がある場合は、売上を事業ごとに分けて、それぞれのみなし仕入率で計算するのが原則です。国税庁によると、1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上なら、その事業のみなし仕入率を全体に使える特例があります。売上を区分していない部分には、区分していない事業のうち最も低いみなし仕入率が使われるため、取引ごとに区分を記録しておきましょう。
一般課税・2割特例・3割特例との比較
インボイスの登録をきっかけに課税事業者になった個人事業者は、令和8年分は2割特例、令和9年分・令和10年分は3割特例を使えます。同じ売上で、計算方法ごとの納税額を比べてみます。
仮に、1年間の課税売上高が税抜800万円(売上にかかる消費税額80万円)、業務で使った経費などにかかった消費税額が10万円の、第5種事業だけのフリーランスだとします(仮の数字)。
| 計算方法 | 計算 | 納める消費税 |
|---|---|---|
| 一般課税 | 80万円−10万円 | 70万円 |
| 簡易課税(第5種) | 80万円−80万円×50% | 40万円 |
| 3割特例(令和9・10年分) | 80万円×30% | 24万円 |
| 2割特例(令和8年分まで) | 80万円×20% | 16万円 |
エンジニアやコンサルは、売上に比べて仕入や経費の消費税が少ないことが多く、一般課税より簡易課税のほうが納税額が少なくなりやすい業種です。一方で、2割特例・3割特例を使える間は、そちらのほうが少なくなります。特例の対象や期限は2割特例の記事で解説しています。
国税庁の資料では、簡易課税を選んでいる事業者でも、2割特例・3割特例で申告できるとされています。2割特例・3割特例には、簡易課税のような2年間続けて使う要件もありません。
簡易課税を使うための条件と届出の時期
使える条件
- 基準期間(個人は前々年)の課税売上高が5,000万円以下であること
- 「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署に出していること
届出書を出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた年は使えません。その後、再び1,000万円超5,000万円以下になった年は、やめる届出を出していなければ再び簡易課税になります。
届出の期限は3通り
| 状況 | 届出の期限 |
|---|---|
| 原則 | 簡易課税を使いたい年の前の年の12月31日まで |
| 免税事業者が登録して、登録日から課税事業者になった年 | その年の12月31日まで(その年から適用) |
| 2割特例・3割特例を使った年の翌年 | 翌年分の確定申告期限まで(翌年分から適用) |
3つ目は、特例から簡易課税へ移りやすくするための措置です。令和8年度税制改正で3割特例ができたことにあわせて見直され、国税庁の資料では次のような例が示されています。
- 令和8年分に2割特例を使った個人事業者 → 令和10年3月31日(令和9年分の申告期限)までに届出書を出せば、令和9年分から簡易課税を使える
- 令和10年分に3割特例を使った個人事業者 → 令和12年4月1日(令和11年分の申告期限)までに届出書を出せば、令和11年分から簡易課税を使える
簡易課税を選ぶか判断するときの考え方
簡易課税が向いているかどうかは、主に次の点で判断します。
- 経費の消費税が売上の消費税の半分より少ないか:第5種なら、経費などの消費税額が売上の消費税額の50%を下回る限り、簡易課税のほうが納税額は少ない
- 2年先までの売上の見込み:基準期間の課税売上高が5,000万円を超える見込みなら使えない
- 大きな仕入や設備投資の予定:予定がある年は一般課税が有利になることがある
- 事務の負担:仕入側のインボイスを集計しなくてよい分、記帳と申告の手間が減る
売上の多くが報酬で、主な経費がパソコンや通信費、クラウドの利用料程度のフリーランスなら、1の条件を満たしやすいはずです。消費税の申告の流れは消費税の納税の記事をご覧ください。
よくある質問
簡易課税なら、経費の領収書やインボイスは保存しなくてよいですか?
消費税の計算では、仕入側のインボイスの保存は不要です。ただし、所得税の確定申告では経費の記録と領収書などの保存が引き続き必要です。消費税で不要になっても、所得税のために保存しておきましょう。
簡易課税の届出を出した後でも、3割特例を使えますか?
国税庁の資料では、簡易課税を選んでいる事業者でも、2割特例・3割特例の条件を満たせば、それらで申告できるとされています。申告のときに、どちらで計算するかを選べます。
簡易課税をやめたいときはどうすればよいですか?
やめたい年の前の年の12月31日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を出します。ただし、簡易課税を使い始めた年の初日から2年を経過する日を含む年以後でなければ、この届出書は出せません。個別の判断は、税理士・税務署にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- No.6505 簡易課税制度(国税庁)
- No.6509 簡易課税制度の事業区分(国税庁)
- 日本標準産業分類からみた事業区分(大分類G情報通信業ほか)(国税庁 質疑応答事例)
- 日本標準産業分類からみた事業区分(大分類L学術研究、専門・技術サービス業ほか)(国税庁 質疑応答事例)
- インボイス制度の理解のために(国税庁・令和8年4月)
- インボイス制度に関する令和8年度税制改正について(国税庁・令和8年4月)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。