退職して開業すると失業保険はどうなる?再就職手当と受給期間の特例
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
会社を辞めてフリーランスとして開業し、事業を行っている間は、雇用保険の基本手当(いわゆる失業保険)は受けられません。基本手当は、就職しようとする意思と能力があるのに職業に就けない「失業の状態」にある人のための給付だからです。
一方で、受給の手続きをしたあとに事業を始め、要件を満たせば再就職手当の対象になり得ます。また、事業を始めた期間を基本手当の受給期間に算入しない受給期間の特例もあります。どちらを使えるか、どちらを選ぶかは、退職から開業までの順番で変わります。この記事では、ハローワークと厚生労働省の案内で確かめられた範囲で整理します(2026年10月時点)。
基本手当を受けられる人の条件
ハローワークの案内によると、基本手当を受けるには次の2つが必要です。
- 失業の状態にあること:ハローワークで求職の申込みをし、就職しようとする積極的な意思と、いつでも就職できる能力があるのに、職業に就けない状態
- 被保険者期間があること:原則として、離職の日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算12か月以上(倒産・解雇などによる離職の場合は、離職の日以前1年間に通算6か月以上)
受給できる期間(受給期間)は、原則として離職日の翌日から1年間です。受給資格の決定から通算7日間は待期期間で、この間は支給されません。正当な理由のない自己都合退職の場合は、離職日が2025年4月1日以降なら原則1か月の給付制限があります(例外として3か月になる場合があります)。
独立の準備に専念している間は「失業の状態」にあたらない
開業してフリーランスとして仕事をしている人は、職業に就いているため、失業の状態にはあたりません。ハローワークは、離職後に事業を始めた人、事業に専念し始めた人、事業の準備に専念し始めた人を、受給期間の特例の対象として扱っています。このことからも、退職後すぐに独立の準備に専念するつもりなら、基本手当を受けながら準備するという形にはなりにくいと考えられます。
開業したときの選択肢は3つ
退職してから独立するまでの流れによって、使える制度が分かれます。
| 選択肢 | 流れ | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 再就職手当を申請する | 受給手続き → 待期期間の満了後に開業 → 申請 | 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あるなど、8つの要件をすべて満たす必要がある |
| 受給期間の特例を申請する | 退職後に開業 → 開業などの翌日から2か月以内に申請 | 事業がうまくいかず再就職を目指すときに、基本手当を受けられる期間を残す仕組み |
| 基本手当を受けたあとに独立する | 求職活動をして基本手当を受給 → 受給を終えてから開業 | 受給中は失業の状態であることが前提。開業や準備を申告せずに受給してはいけない |
再就職手当と受給期間の特例は、同じ事業について両方を受けることはできません。特例の要件に「その事業について就業手当または再就職手当の支給を受けていないこと」があるためです。
再就職手当:開業でも対象になり得る
再就職手当は、基本手当の受給資格の決定を受けたあとに、早く安定した職業に就いたり、事業を始めたりした人に支給される手当です。厚生労働省のリーフレット「再就職手当のご案内」(令和8年8月)では、事業を開始した場合も対象として書かれています。
支給の要件
リーフレットに書かれている要件は次の8つで、すべて満たす必要があります。
- 受給手続き後、7日間の待期期間が満了したあとに就職し、または事業を始めたこと
- 就職日の前日までの失業の認定を受けたうえで、基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上あること
- 離職した前の事業主に再び就職したものでなく、前の事業主と資本・資金・人事・取引の面で密接な関わりがない事業主に就職したこと
- 離職理由による給付制限がある人は、待期期間の満了後1か月の間は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介によって就職したものであること
- 1年を超えて勤務することが確実であること
- 原則として、雇用保険の被保険者になっていること
- 過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当を受けていないこと(事業開始による再就職手当も含む)
- 受給資格の決定(求職の申込み)の前から採用が内定していた事業主に雇用されたものでないこと
開業の場合、これらの要件をどう当てはめるかはハローワークが判断します。たとえば、自営を始めた場合について、リーフレットには「待期期間満了後1か月の期間経過後より対象となります」(給付制限がある場合)と書かれています。退職前の勤務先から業務委託を受ける形で独立する場合や、求職の申込みより前に案件が決まっていた場合は、3や8の要件との関係で対象外と判断される可能性があるため、事前にハローワークで確認してください。
支給額の計算
再就職手当の額は、次の式で計算します。
- 支給残日数が所定給付日数の3分の2以上:基本手当日額 × 支給残日数 × 70%
- 支給残日数が所定給付日数の3分の1以上:基本手当日額 × 支給残日数 × 60%
計算に使う基本手当日額には上限があり、離職時の年齢が60歳未満の人は6,745円、60歳以上65歳未満の人は5,454円です(令和9年7月31日までの額)。上限は毎年8月1日に改定されることがあります。早く開業するほど支給残日数が多く残り、給付率も高くなる仕組みです。
支給申請書は、就職した日(事業を始めた日)の翌日から1か月以内に提出します。
就業促進定着手当は開業した人には当てはまりにくい
就業促進定着手当は、再就職手当を受けた人が、再就職先に6か月以上雇用され、その6か月間の賃金の1日分の額が離職前の賃金日額より低い場合に支給される手当です(ハローワークインターネットサービス「就職促進給付」)。
要件が「再就職先に雇用されたこと」と「賃金の低下」で組み立てられているため、自分で事業を始めて業務委託で働くフリーランスには当てはまりにくい手当です。対象になるかどうかは、ハローワークでご確認ください。
事業を始めた場合の受給期間の特例
基本手当の受給期間は原則1年です。離職後に事業を始めた人が、その事業を続けている間に受給期間が過ぎてしまうと、事業をやめて再就職を目指すときに基本手当を受けられません。これを防ぐのが受給期間の特例です。
ハローワークの案内では、次の要件を満たす場合、事業を行っている期間を最大3年間、受給期間に算入しないとされています。
- 事業の実施期間が30日以上であること
- 離職日の翌日以後に始めた事業であること
- その事業について、就業手当または再就職手当を受けていないこと
- その事業で自立することができないと認められる事業ではないこと
- 事業の開始日などから30日を経過する日が、受給期間の末日以前であること
申請は、事業を始めた日・事業に専念し始めた日・事業の準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内に、住所または居所を管轄するハローワークで行います。再就職手当などを申請して不支給になった場合は、その申請日を基準に特例を申請できるとされています。
どれを選ぶかの考え方
| こんな人 | 検討したい制度 |
|---|---|
| 退職後すぐに独立の準備に専念し、開業する | 受給期間の特例(再就職手当を申請しない場合) |
| 受給の手続きをしてから、早めに開業する | 再就職手当(要件をすべて満たす場合) |
| 会社員として再就職するか独立するか決めていない | 求職活動をして基本手当を受給し、方針が決まった時点でハローワークに相談 |
どの選択肢でも、開業日や事業を始めた日の扱いが判断の基準になります。開業届の提出期限は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までです(国税庁 No.2090)。書き方は開業届の記事で解説しています。退職日と独立の時期の決め方は独立のタイミングの記事で整理しています。
よくある質問
開業届を出していると基本手当は受けられませんか?
開業届の有無だけでなく、事業を始めているか、事業の準備に専念しているかといった実態で判断されると考えられます。受給の手続きをする前にすでに開業している場合や、副業で開業届を出していた場合の扱いは、住所地を管轄するハローワークでご確認ください。
業務委託の案件の面談を受けながら、基本手当を受けられますか?
会社員としての就職を目指して求職活動をしていることが基本手当の前提です。業務委託の案件を探して独立の準備に専念している場合は、失業の状態にあたらないと判断される可能性があります。自分の状況をハローワークに伝え、どの制度を使えるかを相談してください。
開業したあと事業をやめたら、基本手当を受けられますか?
受給期間の特例を申請していれば、事業を行っていた期間(最大3年間)は受給期間に算入されないため、事業をやめて再就職を目指すときに基本手当を受けられる可能性があります。特例は事業を始めた日などの翌日から2か月以内に申請が必要です。再就職手当を受けた場合は、残りの日数分を受給できる可能性があるとされているため、まずはハローワークにご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- 基本手当について(ハローワークインターネットサービス)
- 就職促進給付(ハローワークインターネットサービス)
- よくあるご質問 雇用保険について(ハローワークインターネットサービス)
- 再就職手当のご案内(厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク、令和8年8月)
- No.2090 新たに事業を始めたときの届出など(国税庁)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。