法人化後に取引先との契約を切り替える手順|再契約・インボイス・源泉徴収の扱い
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
法人化しても、個人として結んだ業務委託契約が自動的に会社のものになるわけではありません。会社名義で契約を結び直すか、取引先の承諾を得て契約上の地位を会社に移すのが基本です。
あわせて、請求書の発行者、振込先の口座、インボイスの登録番号が変わります。インボイスは、個人の登録を会社に引き継ぐ仕組みではなく、会社として登録を受け直します。この記事では、切り替えの方法と手順、請求・源泉徴収・フリーランス法で変わる点を整理します(2026年10月時点)。
法人化で取引先との間で変わること
| 項目 | 個人のとき | 法人化した後 |
|---|---|---|
| 契約の当事者 | 自分(個人) | 自分の会社 |
| 請求書の発行者 | 個人名(屋号) | 会社名 |
| 振込先 | 個人(事業用)の口座 | 会社名義の口座 |
| インボイスの登録番号 | 「T」+13桁の番号 | 「T」+会社の法人番号(13桁) |
| 報酬からの源泉徴収 | 報酬の種類によって対象になる | 一部を除き対象外 |
| フリーランス法 | 従業員を使用しなければ対象 | 代表者一人で他の役員・従業員がいなければ対象 |
取引先から見ると、取引の相手が別の人格に変わることになります。経理の取引先登録、契約書、支払の設定をすべて改める必要があるため、取引先の担当者にとっても手間のかかる作業です。早めに伝えるほど切り替えはスムーズに進みます。
切り替えの方法は2つある
法人名義で契約を結び直す
一番分かりやすいのは、個人の契約をある日で終え、同じ日から会社名義の新しい契約を始める方法です。基本契約と個別契約に分かれている場合は、両方を会社名義で結び直すのが一般的です。秘密保持契約を別に結んでいる場合は、それも対象になります。
契約書を新しくするため、業務範囲・報酬・支払期日・契約期間などの条件を見直す機会にもなります。基本契約と個別契約の関係は基本契約と個別契約の記事で解説しています。
契約上の地位を会社に移す
民法539条の2では、契約の当事者の一方が第三者と契約上の地位を譲渡する合意をし、契約の相手方が承諾したときは、契約上の地位がその第三者に移ると定めています。個人から会社に地位を移す場合も、取引先の承諾が必要です。
この方法では今の契約条件を引き継げますが、取引先によっては社内の規程で再契約を求めることもあります。どちらの方法にするかは取引先と相談して決めます。
切り替えの手順
- 取引先に法人化の予定を伝える:設立予定日と、いつから会社名義にしたいかを伝える
- 切り替える日を決める:契約の更新日や月初にそろえると、請求と支払の区切りが分かりやすい
- 取引先登録に必要な情報をそろえる:会社名、本店所在地、代表者、会社名義の口座、インボイスの登録番号など。登記事項証明書を求められることもある
- 新しい契約書の内容を確かめる:当事者が会社になっているか、条件が意図せず変わっていないか
- 個人としての最後の請求を出す:切り替え日の前日までの業務分を、個人名義で請求する
- 会社としての最初の請求を出す:切り替え日以降の業務分を、会社名義・会社の登録番号で請求する
会社の口座は、登記が終わってから開設の手続きをすることになります。口座の開設に時間がかかると、最初の請求の振込先が決まらないことがあるため、設立の段取りと合わせて計画します。設立の手順は法人設立の流れの記事にまとめています。
インボイスの登録は会社として受け直す
登録番号は個人と会社で別のもの
国税庁の公表サイトの案内では、登録番号は、法人番号のある課税事業者は「T」+法人番号(13桁)、個人事業者などは「T」+13桁の数字です。個人として受けていた番号を会社で使うことはできず、会社として登録申請をします。
設立1期目の初日から登録を受ける方法
国税庁のインボイスQ&A(問11)では、新たに設立された法人が、事業を開始した日の属する課税期間の末日までに、課税期間の初日から登録を受けたい旨を書いた登録申請書を出し、登録簿に載せられた場合は、その課税期間の初日に登録を受けたものとみなされます。
設立した会社が消費税の免税事業者の場合、原則は課税事業者選択届出書もあわせて出します。ただし、令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間中に登録を受ける場合は、経過措置により、選択届出書を出さずに課税事業者となることができます。資本金の額などで設立時から課税事業者になるかどうかが変わるため、どの届出が必要かは税理士にご確認ください。
個人の登録は事業廃止届出書で失効させる
同じQ&Aでは、個人事業者が法人を設立して事業を始める場合(個人事業を続ける場合を除く)は、法人としての手続きに加えて、個人として「事業廃止届出書」を出す必要があるとしています。国税庁の新規開業者向けFAQでは、事業廃止届出書を出すと、事業を廃止した日の翌日に個人のインボイス登録が失効すると説明されています。
同じFAQでは、事業用の資産を会社に買い取ってもらった後に事業廃止届出書を出すことで問題ないとされています。法人が設立されるまでの間の売上や仕入れは、原則として個人に帰属します。所得税の廃業の届出(個人事業の開業・廃業等届出書)も別に必要です。インボイス登録の考え方はインボイス登録の判断の記事、請求書の記載事項はインボイスの書き方の記事をご覧ください。
源泉徴収の扱いが変わる
国税庁のタックスアンサー(No.2792)では、源泉徴収が必要な報酬・料金の範囲は、受け取る人が個人(居住者)か法人(内国法人)かで異なります。個人に払う原稿料・講演料や、一定の資格を持つ人への報酬などは源泉徴収の対象になりますが、法人に払う報酬・料金で対象になるのは、馬主である法人に払う競馬の賞金です。
個人のときに報酬の一部から源泉徴収されていた人は、法人化すると、その分が差し引かれずに振り込まれるようになります。一方、システム開発などの業務委託の報酬は、個人のときから源泉徴収の対象外だった場合もあります。自分の報酬がどちらだったかは、支払調書や入金明細で確かめておくと、切り替えの前後で入金額が変わる理由が分かります。仕組みは源泉徴収の記事で解説しています。
フリーランス法の対象かどうか
公正取引委員会の案内では、法人であっても、代表者一人のほかに役員がおらず、従業員を使用していない場合は、その取引でフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の対象になります。一人会社のままなら、発注側には取引条件の明示や、受け取った日から60日以内のできる限り短い期間での支払期日の設定などの義務がかかります。
一方、家族などを役員に加えたり、従業員を雇ったりすると対象から外れることがあります。会社の体制を変えるときは、取引の条件に影響がないかを確かめておきましょう。法律の全体像はフリーランス法の概要の記事をご覧ください。
よくある質問
法人化すると報酬の金額を見直す必要がありますか?
契約の名義が変わるだけなら、報酬の額をそのまま引き継ぐ場合もあります。ただし、消費税の扱い(税込か税抜か)や、源泉徴収の有無が変わると、実際の入金額は変わります。再契約のときに、報酬の額と消費税の書き方を契約書で確かめておくことをおすすめします。
個人のインボイス登録番号を会社で使い続けられますか?
使えません。登録番号は、法人なら法人番号をもとにした番号になり、個人の番号とは別のものです。会社として登録申請をし、取引先には新しい登録番号を伝えます。個人の登録は、事業廃止届出書を出すと廃止日の翌日に失効します。
月の途中で会社名義に切り替えられますか?
できます。ただし、月の途中で切り替えると、同じ月の業務を個人と会社で分けて請求することになり、稼働時間の集計も分ける必要があります。取引先の締め日と合わせて、月初や契約の更新日に切り替えるほうが、請求の間違いを防ぎやすくなります。
参考にした公的情報・資料
- 民法(e-Gov法令検索)
- インボイス制度に関するQ&A 登録手続(国税庁)
- インボイス制度 新規開業者向けよくある質問(国税庁)
- 登録番号とは(国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト)
- No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(国税庁)
- 個人事業の開業届出・廃業届出等手続(国税庁)
- 2026年 フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。