基本契約と個別契約の関係|何がどちらに書かれるか
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
基本契約には、その相手との取引全体に共通するルール(秘密保持、知的財産、損害賠償、解除など)を書き、個別契約には案件ごとの条件(業務内容、期間、報酬、支払期日など)を書くのが一般的です。2つは別々の書類でも、合わせて1つの契約として読みます。
そのため、個別契約の金額や期間だけを見て署名するのではなく、基本契約のどの条項がその案件に当てはまるかも確認することが大切です。両者が食い違ったときにどちらが優先されるかも、基本契約に書かれていることが多い部分です。
なぜ契約を2つに分けるのか
同じ相手と何度も取引をする場合、毎回すべての条件を契約書に書くのは手間がかかります。そこで、変わらないルールを基本契約で一度決め、案件ごとに変わる条件だけを個別契約で決める形がよく使われます。
情報処理推進機構(IPA)が公開している「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」も、この形で作られています。基本契約で全体のルールを決め、個々の業務に着手する前に、業務ごとの個別契約を結ぶ構成です。
フリーランスの案件では、次のような流れになることが多くあります。
- 最初の参画のときに、基本契約(業務委託基本契約書)を結ぶ
- 案件ごと、または契約期間ごとに、個別契約(個別契約書、注文書と注文請書、発注書など)を交わす
- 更新のたびに、個別契約だけを新しく交わす
個別契約の名前は「個別契約書」「注文書」「発注書」などさまざまです。名前ではなく、何が書かれているかで判断します。
何がどちらに書かれるか
IPAのモデル契約では、個別契約で定める取引条件として、具体的な作業内容(範囲・仕様など)、契約類型(請負か準委任か)、作業期間または納期、作業スケジュール、役割分担、提供される資料や作業環境、納入物、委託料とその支払方法、検査に関する事項などを挙げています。
これを参考に、フリーランスの案件でよく見る分け方をまとめると次のようになります。
| 主に基本契約に書かれること | 主に個別契約に書かれること |
|---|---|
| 契約の目的、用語の定義 | 具体的な業務内容・担当範囲 |
| 個別契約の結び方、優先関係 | 契約類型(準委任か請負か) |
| 秘密保持、個人情報の扱い | 契約期間・納期 |
| 知的財産権の帰属 | 稼働の目安(時間・日数)、作業場所 |
| 損害賠償、その上限 | 報酬の額、精算幅、超過・控除の単価 |
| 解除・解約の方法、予告期間 | 締め日・支払期日 |
| 再委託、権利義務の譲渡禁止 | 成果物、検収の方法 |
| 競業避止、反社会的勢力の排除 | 個別の特約(基本契約と違う定め) |
ただし、これは一般的な分け方です。報酬の支払期日を基本契約で決めている契約もあれば、損害賠償の上限を個別契約で決める契約もあります。どの条件がどちらに書かれているかは、実際の書面で確かめてください。
食い違ったときは、どちらが優先されるか
基本契約と個別契約の内容が違うときにどちらを優先するかは、契約で決めておくのが通常です。
IPAのモデル契約では、個別契約で基本契約の一部の適用を外したり、基本契約と異なる事項を定めたりでき、その場合は個別契約の条項が優先するとしています。案件ごとの事情に合わせて調整できるようにする考え方です。
一方で、「基本契約が優先する」と定めている契約もあります。どちらの場合でも、次の点を確認しておきましょう。
- 優先関係を定めた条項があるか
- 個別契約に「特約」として基本契約と違う定めがあるか
- 注文書の裏面や添付の約款など、別の書類に条件が書かれていないか
フリーランス新法と基本契約の関係
取引条件の明示は、基本契約で「共通事項」として示せる
フリーランス新法第3条では、発注者は業務委託をしたら直ちに、給付の内容・報酬の額・支払期日などを書面や電子メールなどで明示しなければなりません。
法律の「考え方」によると、一定期間の複数の業務委託に共通して当てはまる事項(共通事項)を、あらかじめ書面や電磁的方法で示している場合は、業務委託のたびにその共通事項を明示する必要はないとされています。ただし、その場合は次の2つが求められます。
- 業務委託のたびの明示(3条通知)に、あらかじめ示した共通事項との関連性を書くこと
- 共通事項を示すときに、その共通事項が有効な期間もあわせて示すこと
また、「業務委託をした場合」とは、共通事項を決めたときではなく、個々の業務委託について合意したときをいうとされています。基本契約を結んだだけでは、まだ個々の業務委託をしたことにはなりません。
明示される内容の詳細は取引条件の明示の記事にまとめています。
契約期間は、基本契約を結んだ日から数えることがある
フリーランス新法では、1か月以上や6か月以上といった期間によって、発注者の義務が変わります。考え方では、基本契約を結ぶ場合、その基本契約が1か月以上の期間であれば、基本契約に基づく業務委託が対象になるとしています。期間の始まりは、基本契約を結んだ日です。
さらに、6か月以上の継続的な業務委託の解除・不更新に必要な30日前予告については、基本契約も「継続的業務委託に係る契約」に含まれ、予告の対象になるとされています。個別契約が短い期間ごとでも、基本契約を通じて長く続いている場合は、この点を思い出してください。詳しくは中途解除の30日前予告の記事をご覧ください。
個別契約が「注文書」や「メール」で届く場合
個別契約は、契約書の形でなく、発注者からの注文書(発注書)にフリーランスが注文請書を返す形や、メールで条件を送ってもらう形で交わされることもあります。どの形でも、案件ごとの条件が書かれていれば個別契約として扱われます。
この場合に気をつけたいのは、次の点です。
- 注文書に書かれていない条件がないか:精算幅や超過・控除の単価、作業場所が抜けやすい
- 注文書の裏面や添付の約款:基本契約と違う条件が小さく書かれていることがある
- メールのやり取りが散らばっていないか:条件が複数のメールに分かれていると、後から探しにくい
どの形であっても、フリーランス新法の取引条件の明示は書面または電子メールなどで行われるため、届いたものは案件ごとにまとめて保管しておくと、更新や解約のときに読み返しやすくなります。
メールで条件を受け取った場合は、条件を1通にまとめて送ってもらうか、自分で整理して「この内容で承知しました」と返信しておくと、記録として残しやすくなります。
署名前の確認手順
- 基本契約を通して読む:解約、損害賠償、知的財産、秘密保持、競業避止の条項に印をつける
- 優先関係の条項を探す:個別契約と食い違ったときにどちらが優先されるか
- 個別契約の条件を確認する:業務内容、期間、報酬、精算幅、支払期日
- 特約を確認する:個別契約に、基本契約と違う定めがないか
- 更新時は差分を見る:前回の個別契約から何が変わったか
条項ごとの読み方は業務委託契約書のチェックポイントでまとめています。判断に迷う条項がある場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
よくある質問
基本契約だけ結んで、個別契約がまだ届きません。働き始めてよいですか?
基本契約だけでは、業務内容や報酬、期間が決まっていないことがほとんどです。フリーランス新法では、業務委託をしたら直ちに取引条件を明示することになっています。働き始める前に、個別契約や発注書、少なくともメールで条件を受け取りましょう。
更新のときに基本契約も結び直す必要がありますか?
基本契約に有効期間や自動更新の定めがあれば、個別契約だけを更新する運用がよく見られます。基本契約の有効期間が切れていないか、内容が改定されていないかを、更新のときに確認しておくと安心です。
基本契約と個別契約で報酬の支払期日が違う場合はどうなりますか?
まず、どちらが優先されるかを定めた条項を確認してください。IPAのモデル契約のように個別契約を優先する例がある一方、基本契約を優先する契約もあります。どちらを適用するか取引先に確認し、回答はメールなど記録に残る形でもらいましょう。判断に迷うときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- 情報システム・モデル取引・契約書 第二版(情報処理推進機構)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(公正取引委員会・厚生労働省)
- フリーランス法に関するQ&A(公正取引委員会)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 民法(e-Gov法令検索)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。