法人化のメリットとデメリット|フリーランスが比べておきたい税金・社会保険・手間
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
フリーランスが法人化する主なメリットは、所得税と法人税の税率の構造の違い、役員報酬に給与所得控除が使えること、赤字を繰り越せる期間が長いこと、出資の範囲で責任を負う有限責任です。主なデメリットは、社会保険への加入が原則になること、赤字でも法人住民税の均等割がかかること、設立・決算の費用と手間、会社と個人のお金を厳密に分ける必要があることです。
どちらが大きいかは、所得、家族構成、経費の状況で変わります。この記事では、比べるための材料を一覧にして整理します。何年目に考えるかは法人化のタイミングの記事で扱っています(2026年10月時点)。
メリットとデメリットを一覧で見る
| 項目 | メリットになりうる点 | デメリットになりうる点 |
|---|---|---|
| 税金 | 法人税は2段階の税率。役員報酬に給与所得控除がある | 役員報酬には個人の所得税・住民税がかかる。税理士への報酬が増えることが多い |
| 赤字 | 青色申告法人は欠損金を10年繰り越せる | 赤字でも法人住民税の均等割がかかる |
| 社会保険 | 厚生年金に入り、将来の年金に上乗せがある | 会社負担分も含めて保険料を負担する |
| 責任 | 会社の債務は出資の範囲で負う(有限責任) | 借入れでは代表者の保証を求められることがある |
| お金の扱い | 会社と個人の区別がはっきりする | 会社のお金を自由に使えない。役員報酬は年の途中で変えにくい |
| 手続き | 契約や請求を会社名義でできる | 設立登記、決算、法人の申告、社会保険の手続きが増える |
以下、順に見ていきます。
メリット1:税率の構造が変わる
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。法人税は、国税庁の税率表(令和8年4月1日現在法令等)によると、資本金1億円以下の普通法人なら、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円を超える部分が23.2%です。このほか、法人住民税・法人事業税などがかかります。
個人の所得税率の一覧と、所得がいくらから違いが出やすいかの考え方は法人化のタイミングの記事にまとめています。ここで押さえておきたいのは、法人化すると「利益を会社に残す部分」と「役員報酬として個人が受け取る部分」に分けられ、それぞれに別の税金がかかるという点です。この分け方を設計できることが、法人化の税金面の特徴です。
メリット2:役員報酬に給与所得控除が使える
会社から受け取る役員報酬は給与所得になり、国税庁の給与所得控除の表に沿って、収入に応じた額を差し引いて所得を計算します。個人事業の事業所得では、実際にかかった経費を差し引きますが、給与所得控除のような一定額の控除はありません。
会社の側では、役員報酬は条件を満たせば損金(法人の経費)になります。ただし、国税庁の案内では、損金にできるのは定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかにあたるものに限られ、不相当に高額な部分は損金になりません。決め方は役員報酬の記事で解説しています。
メリット3:赤字を長く繰り越せる
事業がうまくいかない年に備える点でも違いがあります。
| 区分 | 赤字の繰越 |
|---|---|
| 個人(青色申告) | 純損失を翌年以後3年間繰り越して控除できる |
| 法人(青色申告) | 平成30年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は10年間繰り越せる |
国税庁の説明では、法人の欠損金の繰越控除は、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出していることなどが条件です。資本金1億円以下の中小法人等は、控除の上限の扱いでも中小法人以外と区別されています。
メリット4:有限責任になる
会社法では、株式会社の株主の責任は引き受けた株式の価額が限度とされ(会社法104条)、合同会社の社員も全員が有限責任社員です(同576条4項)。個人事業では、事業の債務はそのまま個人の債務になるのと比べると、会社の債務と個人の財産を分けられる点は利点です。
ただし、金融機関からの借入れやオフィスの賃貸借では、代表者個人の保証を求められることがあります。有限責任があるからといって、個人の負担がなくなるとは限りません。
デメリット1:社会保険への加入が原則になる
日本年金機構の案内では、株式会社などの法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人の事業所は常時5人以上の従業員がいる場合などに限られるのと比べると、大きな違いです。
役員報酬を受け取ると、原則として会社の健康保険・厚生年金に入り、保険料は会社と本人で半分ずつ負担します。一人の会社では、どちらの負担も事業の利益から出ることになります。厚生年金に入ることで将来の年金に上乗せがあるという面もあり、負担と給付の両方で考える必要があります。一人で運営する会社の注意点はマイクロ法人の記事で解説しています。
デメリット2:赤字でも均等割がかかる
東京都主税局の案内では、法人住民税の均等割は、決算の状況にかかわらず、資本金等の額と従業者の数に応じて課税されます。赤字決算でも申告と納付が必要です。個人事業なら所得が少ない年は住民税も少なくなりますが、法人では毎年一定の負担が残ります。
デメリット3:設立と運営の費用・手間
設立の段階で、次のような費用がかかります。
| 費用 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 設立登記の登録免許税 | 資本金×1,000分の7(最低15万円) | 資本金×1,000分の7(最低6万円) |
| 定款認証の手数料 | 資本金に応じて3万〜5万円(資本金100万円未満で一定の要件を満たせば1万5,000円) | 不要 |
登録免許税は国税庁の税額表、定款認証の手数料は日本公証人連合会の案内によります。会社の形による違いは合同会社と株式会社の違いの記事で詳しく比べています。
設立後は、事業年度ごとの決算、法人税・法人住民税・法人事業税の申告、役員報酬の源泉徴収、社会保険の届出などが続きます。個人の確定申告より作業が増え、税理士に依頼する場合はその報酬も毎年の費用になります。
消費税の扱いも確かめる
国税庁の案内では、基準期間がない設立1期目・2期目でも、期首の資本金が1,000万円以上の法人は消費税の納税義務が免除されません。資本金の額を決めるときは、消費税への影響も確かめておきましょう。インボイス登録との関係はインボイス登録の判断の記事をご覧ください。
デメリット4:お金の扱いが厳しくなる
法人化すると、会社のお金と個人のお金は別のものになります。個人事業のように、事業の口座から生活費を自由に引き出すことはできません。個人が受け取れるのは、決めた役員報酬などに限られます。
役員報酬は、国税庁の案内では、原則として事業年度の開始から3か月以内に改定し、その後は毎月同額で支払うことが損金にする条件です。業績が良かったからといって、年の途中で報酬を増やしても、その増額分は損金になりません。売上の変動が大きい人ほど、この点が負担に感じやすくなります。
自分にとってどちらが大きいかを確かめる手順
- 直近2〜3年の確定申告書を並べる:所得の水準と、年ごとの変動の大きさを見る
- 生活に必要な手取りを決める:役員報酬の下限の目安になる
- 税理士に複数の案で試算を頼む:役員報酬の額を変えて、税金と社会保険料の合計を比べる
- 費用を足す:設立費用、均等割、税理士の報酬を年あたりで見込む
- 数字以外の要素を書き出す:有限責任、厚生年金、手続きの手間をどう評価するか
よくある質問
法人化すると税金は安くなりますか?
必ずしも安くなるとは限りません。法人税の税率だけでなく、役員報酬にかかる所得税・住民税、社会保険料、均等割、税理士の報酬などを合計して比べる必要があります。所得や家族構成によって結果が変わるため、税理士に試算を依頼してください。
法人化したあと、個人事業に戻ることはできますか?
会社を解散・清算する手続きを取れば、個人事業として仕事を受けることはできます。ただし、解散と清算には登記や決算の手続きと費用がかかります。法人化の前に、続けられる見通しがあるかを考えておくことが大切です。具体的な手続きは司法書士・税理士にご相談ください。
個人事業の赤字の繰越は、法人に引き継げますか?
個人事業の純損失の繰越控除は、個人の所得税の制度です。会社は別の人格のため、個人で生じた赤字を会社の所得から差し引くことはできません。法人化する年の個人の確定申告で、どう扱うかを税理士にご確認ください。
参考にした公的情報・資料
- No.5759 法人税の税率(国税庁)
- No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除(国税庁)
- No.2070 青色申告制度(国税庁)
- No.1410 給与所得控除(国税庁)
- No.5211 役員に対する給与(国税庁)
- No.6503 基準期間がない法人の納税義務の免除の特例(国税庁)
- No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)
- 定款認証(日本公証人連合会)
- 会社の定款認証手数料の改定(日本公証人連合会)
- 会社法(e-Gov法令検索)
- 適用事業所と被保険者(日本年金機構)
- 法人事業税・法人都民税(東京都主税局)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。