マイクロ法人とは|一人で作る小さな会社の仕組みと、社会保険・税務の注意点
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
マイクロ法人は、従業員を雇わず、自分一人(または家族だけ)で運営する小さな会社を指す通称です。法律で決まった言葉ではなく、会社の作り方は株式会社や合同会社と変わりません。
フリーランスの間では、法人化の形の一つとして、また「個人事業と小さな会社を両方持つ働き方」として話題になることがあります。ただし、社会保険や税金は、契約や報酬の形式ではなく働き方の実態で判断されます。仕組みを理解したうえで、税理士・社会保険労務士に相談して判断することが大切です(2026年10月時点)。
一人の会社でも社会保険の適用事業所になる
日本年金機構の案内では、株式会社などの法人の事業所は、事業主だけの場合も含めて健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人事業所は常時5人以上の従業員がいる場合などに限られるのと比べ、法人は一人でも対象になる点が大きな違いです。
役員の扱いについては、日本年金機構の疑義照会回答で、昭和24年の通知をもとに「役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者とする」とされています。一人の会社で自分が役員報酬を受け取る場合、原則として次のようになります。
- 会社として、事実の発生から5日以内に新規適用届を出す
- 自分が健康保険・厚生年金の被保険者になる
- 保険料は役員報酬をもとに決まり、会社負担分と本人負担分を合わせて納める
- 国民健康保険・国民年金の第1号被保険者からは外れる
一人の会社では、会社負担分も本人負担分も、結局は自分の事業の利益から出ることになります。
話題になる「個人事業+法人」の形
マイクロ法人が話題になるときによく取り上げられるのは、個人事業を続けながら、別の事業を行う小さな会社を作り、その会社から役員報酬を受け取るという形です。
この形では、次のような仕組みになると説明されることが多くあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険・年金 | 会社の健康保険・厚生年金に加入し、保険料は会社からの役員報酬をもとに決まる |
| 個人事業の所得 | 個人の確定申告で申告する。健康保険・厚生年金の保険料の計算には含まれない |
| 会社の利益 | 法人税などの対象になる |
国民健康保険料は世帯の前年の所得で決まるため、個人事業の所得が大きいほど高くなります。一方、会社の健康保険・厚生年金の保険料は、会社から受ける報酬をもとに決まります。この違いから、全体の社会保険料の負担が変わることがあるとして話題になります。
ただし、次の章で整理するように、この形には実態の判断や税務の面で注意すべき点が多くあります。社会保険料の負担を下げることだけを目的に形を整えることは、おすすめできません。
注意点1:報酬の額だけでは判断されない
一人の会社の役員報酬を低く設定した場合の扱いについて、日本年金機構の疑義照会回答では次の考え方が示されています。
- 役員報酬について、最低の金額を決めて、それを下回れば被保険者の資格がないとするのは妥当ではない
- 業務の内容に対して報酬が見合っているか疑わしい場合は、報酬を決めた経過や、常用的な使用関係といえる働き方かどうかを調べて判断する
- 会議の旅費など、立て替えた経費を弁償するだけの支払いは、もともと報酬にはあたらない
つまり、社会保険の加入や保険料は、報酬の額という形式だけでなく、会社の経営にどう関わり、どのような対価を受けているかという実態で判断されます。個別の判断は、年金事務所でご確認ください。
注意点2:会社と個人事業の切り分け
個人事業と会社を両方持つ場合は、次の点を明確にしておく必要があります。
- 事業の中身:会社と個人事業で、何の事業をしているのかが分かれているか
- 契約と請求:取引先との契約の名義、請求書の発行元が、実際に仕事をした側と一致しているか
- 帳簿と口座:会社と個人の売上・経費・預金を混ぜずに管理しているか
- 経費の負担:同じパソコンや事務所を使う場合、どちらの経費にするか合理的に分けているか
業務委託の案件では、取引先と結ぶ契約の名義が個人か会社かで、契約書や請求の流れが変わります。同じ案件の報酬を、実態と関係なく会社と個人に分けて受け取ることはできません。
注意点3:将来の年金と給付への影響
会社の厚生年金に加入すると、国民年金だけの場合と比べて、将来の年金に厚生年金の分が加わります。ただし、厚生年金の額は報酬をもとに計算されるため、役員報酬を低くすれば、その分だけ将来の年金も少なくなります。
健康保険の傷病手当金なども、報酬をもとに計算されます。保険料を抑えることは、病気やけがで働けなくなったときの給付や、老後の年金が小さくなることと裏表の関係にあります。
また、国民年金の第1号被保険者でなくなるため、付加年金や国民年金基金は使えなくなり、iDeCoの区分も変わります。付加年金は付加年金の記事、iDeCoはiDeCoの記事で解説しています。
注意点4:会社を持つ費用と手間
一人の会社でも、会社としての費用と手間がかかります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立登記の登録免許税 | 株式会社は資本金×1,000分の7(最低15万円)、合同会社は同じく最低6万円 |
| 法人住民税の均等割 | 決算の状況にかかわらず、資本金等の額と従業者数に応じて毎年かかる(東京都主税局) |
| 決算と申告 | 事業年度ごとに決算と法人税などの申告が必要。税理士への報酬がかかることが多い |
| 社会保険の手続き | 新規適用届、毎年の報酬の届出など |
| 役員報酬の決め方 | 原則として毎月同額。改定は事業年度の開始から3か月以内(国税庁) |
法人税の税率は、資本金1億円以下の普通法人で、所得のうち年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(国税庁)。会社に利益を残すか、役員報酬として受け取るかで、税金と社会保険料の合計が変わります。役員報酬の決め方は役員報酬の記事で解説しています。
注意点5:ほかの会社でも働く場合
一人の会社の役員でありながら、別の会社でも役員や社員として社会保険の加入要件を満たす場合は、日本年金機構への届出が必要です。
日本年金機構の案内では、2か所以上の事業所で加入要件を満たした場合、本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を出し、主たる事業所を選びます。保険料は、それぞれの事業所の報酬月額を合算した額で標準報酬月額を決め、各事業所の報酬に応じて按分して決まります。
法人化の一つの形として考える
マイクロ法人は、特別な制度ではなく、一人で運営する会社を法人化の一つの形として呼んだものです。考えるときは、次の順で整理するとよいでしょう。
- 会社で何の事業をするかを決める:実態のある事業として説明できるか
- 役員報酬の考え方を決める:仕事の内容に見合った報酬か、生活費をまかなえるか
- 税金と社会保険料の合計を試算する:個人事業のままの場合と比べる
- 給付と年金への影響を確かめる:傷病手当金や将来の年金がどう変わるか
- 専門家に相談する:税理士・社会保険労務士に、実態に照らして問題がないか確認する
法人化全体の考え方は法人化のタイミングの記事、会社の形の選び方は合同会社と株式会社の違いの記事で解説しています。
よくある質問
マイクロ法人を作れば、社会保険料は安くなりますか?
必ずしも安くなるわけではありません。会社の健康保険・厚生年金の保険料は役員報酬をもとに決まり、会社負担分も自分の事業から出ることになります。法人住民税の均等割や税理士への報酬などの費用もかかります。どうなるかは、所得や家族構成、報酬の決め方で変わるため、税理士・社会保険労務士に試算を依頼して比べてください。
会社から役員報酬を受け取らない場合、社会保険はどうなりますか?
日本年金機構の考え方では、法人から労務の対償として報酬を受けている役員が被保険者になります。無報酬の役員しかいない場合などの扱いは個別の判断になるため、年金事務所でご確認ください。報酬を受けない場合は、国民健康保険・国民年金に加入し続けることになるのが一般的です。
退職後に任意継続に入っている間に会社を作るとどうなりますか?
自分の会社で健康保険の被保険者になると、ほかの健康保険の被保険者になったことになり、任意継続の資格を失います。任意継続と国民健康保険の比べ方は任意継続と国民健康保険の記事で解説しています。
参考にした公的情報・資料
- 適用事業所と被保険者(日本年金機構)
- 新規適用の手続き(日本年金機構)
- 疑義照会回答(厚生年金保険 適用)(日本年金機構)
- 兼業・副業等により2カ所以上の事業所で勤務する皆さまへ(日本年金機構)
- No.5211 役員に対する給与(国税庁)
- No.5759 法人税の税率(国税庁)
- No.7191 登録免許税の税額表(国税庁)
- 法人事業税・法人都民税(東京都主税局)
- 任意継続(全国健康保険協会)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。