電力・エネルギー業界の案件で気をつけたい規制とセキュリティのルール|電気事業法・技術基準・経済安全保障推進法
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
電力業界の案件で押さえておきたいルールは、電気事業法の情報の扱い(送配電の中立性)、電気設備の技術基準のサイバーセキュリティの定め、電力業界のセキュリティガイドライン、経済安全保障推進法の基幹インフラ制度の4つです。どれも直接の義務を負うのは電気事業者で、フリーランスには取引先の社内規程や契約を通じて、作業の範囲や情報の扱いとして表れます。
大事なのは、条文を覚えることより、取引先のルールが「なぜそうなっているか」を知り、迷ったときに自分で決めずに確かめることです。この記事では、2026年10月時点でe-Gov法令検索、内閣府、日本電気技術規格委員会、IPAの公式ページで確認できた内容をもとに整理します。個別の判断が必要な場合は、取引先の担当部門や専門家にご相談ください。
電気事業法:送配電の情報は目的外に使えない
第23条が禁じていること
電気事業法第23条は、一般送配電事業者に対し、託送供給などの業務で知った他の電気供給事業者に関する情報と電気の使用者に関する情報を、その業務などの目的以外のために利用したり提供したりすることを禁じています(経済産業省令で定める、競争を妨げるおそれのない情報を除く)。あわせて、特定の電気供給事業者を不当に優先したり、不利に扱ったりすることも禁じています。
この規定の背景にあるのは、送配電の会社が、小売や発電の事業者の間で中立であるべきという考え方です。法律は、一般送配電事業者の取締役や従業者が、グループの小売や発電の会社の役職を兼ねることも原則として制限しています(第22条の3)。
フリーランスの作業にどう表れるか
送配電の会社の案件では、次のような形でルールが表れます。
- 扱える情報の範囲が、業務ごとに決められる
- システムの権限が細かく分けられ、担当外のデータは見られない
- グループの小売や発電の会社の案件と、掛け持ちや情報の持ち出しが制限される
- 資料の持ち出しや、作業の記録の扱いが細かく決められる
同じ電力のグループの中でも、送配電と小売・発電の間には情報の壁があります。前の案件で送配電の会社にいた場合、そこで知った情報を、小売の会社の案件で使うことはできません。逆の場合も、取引先の規程に従います。
小売の会社の案件で気をつけたいこと
小売電気事業者には、契約を結ぼうとする相手に料金その他の供給条件を説明し、書面を交付する義務があります(第2条の13、第2条の14。情報通信の技術を使った提供も条件つきで認められています)。申込みの画面や契約の通知の仕組みを作る案件では、この説明と書面の要件を満たすことが前提になります。要件の解釈は取引先の法務やコンプライアンスの部門が判断するものなので、開発側は示された要件を正確に実装することに集中します。
電気設備の技術基準:運転を管理する計算機のサイバーセキュリティ
省令の第15条の2
「電気設備に関する技術基準を定める省令」の第15条の2は、事業用電気工作物(小規模なものを除く)の運転を管理する電子計算機について、人に危害を及ぼしたり物を損傷したりするおそれや、一般送配電事業・配電事業の電気の供給に著しい支障を及ぼすおそれがないよう、サイバーセキュリティを確保しなければならないと定めています。
つまり、発電所や変電所などの設備を動かすシステムのセキュリティは、電力の保安の一部として位置づけられています。電気事業法は、保安に関わるサイバーセキュリティの重大な事態が起きた場合に、経済産業大臣がIPAに原因究明の調査を要請できる規定も置いています(第105条の2)。
電力業界のセキュリティガイドライン
電力業界には、日本電気技術規格委員会(JESC)の規格として、次のセキュリティのガイドラインがあります(2026年10月時点の規格一覧で確認)。
| 規格 | 制定・改定 |
|---|---|
| JESC Z0004 電力制御システムセキュリティガイドライン | 2016年5月制定、2019年7月と2025年2月に改定 |
| JESC Z0003 スマートメーターシステムセキュリティガイドライン | 2016年3月制定、2019年7月と2025年2月に改定 |
JESCのページでは、スマートメーターシステムのガイドラインの2025年の改定で、経営層の責任のもとでセキュリティを確保する考え方、サプライチェーンのリスクへの対応、管理主体の異なる外部の機器やシステムと接続する場合の対策などが加えられたと説明されています。ガイドラインの本文は有償の規格で、取引先がそれを受けて社内の規程を作っていることがあります。案件では、ガイドラインそのものより、取引先の規程として示されたルールに従います。
制御システムのセキュリティ全般については、IPAがリスク分析のガイドなどの資料を公開しています。制御系の案件に入る前に目を通しておくと、取引先のルールの意味が理解しやすくなります。
フリーランスの作業にどう表れるか
- 制御系の作業は、決められた場所と端末でしか行えない
- USBメモリなどの外部記憶媒体や私物の機器の持ち込みが制限される
- 作業の手順と変更の内容を事前に申請し、承認を受けてから行う
- 制御系と情報系の境界をまたぐ通信は、取引先のセキュリティ部門の確認が要る
貸与された端末の扱いは貸与PCの記事、自宅で作業する場合の注意は在宅作業のセキュリティの記事で整理しています。
経済安全保障推進法:基幹インフラの設備と委託の審査
制度の概要
経済安全保障推進法には、基幹インフラ役務の安定的な提供を確保するための制度があります。内閣府の説明では、国が基幹インフラの事業を定め、一定の基準に当てはまる事業者を特定社会基盤事業者に指定し、指定された事業者が特定重要設備を導入したり、その重要維持管理等を委託したりするときに、事前に届け出て審査を受けるしくみです。対象の事業には電気事業が含まれ、内閣府のページでは2024年5月17日に制度の運用が始まったと案内されています。
法律の第52条では、届け出る計画書に、重要維持管理等の委託の相手方に関する事項や、相手方が再委託する場合の再委託に関する事項を記載することとされています。審査の期間中は、原則として導入や委託を行えません。
フリーランスの作業にどう表れるか
対象の設備の維持管理や操作を、委託や再委託の形で担う場合、自分が直接届出をすることはありませんが、発注元の事業者が届け出る計画書の中で、委託先や再委託先に関する情報を求められることがあります。その結果として、次のような形で表れる可能性があります。
- 参画前に、所属や体制について追加の情報の提出を求められる
- 体制の変更(メンバーの交代や再委託先の追加)に事前の手続きが要る
- 参画の時期が、発注元の手続きの進み具合に左右される
どの設備が対象で、どの作業が重要維持管理等にあたるかは、主務省令などで定められ、事業者ごとに判断されます。自分の作業が対象かどうかは自分で判断せず、取引先から説明を受けた内容に従います。取引先の規程への向き合い方は取引先の社内規程の記事で整理しています。
4つのルールを実務に落とすチェックリスト
参画前と参画中に、次の点を確かめておくと安心です。
| 時期 | 確かめること |
|---|---|
| 参画前 | 発注元が小売・送配電・発電のどの事業者か |
| 参画前 | 見てよい情報の範囲と、他の案件との掛け持ちの制限 |
| 参画前 | 制御系に触れるか。作業の場所、端末、持ち込みの制限 |
| 参画前 | 基幹インフラ制度に関わる手続きで、提出を求められる情報があるか |
| 参画中 | 担当外のデータや資料に触れそうなときは、作業を止めて確認する |
| 参画中 | 作業の変更や体制の変更は、事前に取引先の手順で申請する |
| 終了時 | 資料・データ・権限の返却と削除を、取引先の手順どおりに済ませる |
秘密情報の扱いの約束は、契約の秘密保持条項で決まります。どこまでが秘密にあたるかの考え方は秘密保持契約の記事をご覧ください。
よくある質問
電気事業法の情報の規制は、フリーランスにも直接かかりますか?
第23条で義務を負うのは一般送配電事業者です。ただし、取引先はこの義務を守るために、委託先にも情報の扱いのルールを契約や規程で求めます。フリーランスは、そのルールを守る義務を契約を通じて負うことになります。具体的な範囲は、取引先の規程と契約の内容でご確認ください。
基幹インフラ制度の対象になる作業かどうかは、どう判断すればよいですか?
自分で判断せず、取引先からの説明に従います。どの設備が特定重要設備にあたり、どの作業が重要維持管理等にあたるかは、主務省令などで定められ、事業者ごとに確認されるものです。参画前に手続きの有無や提出を求められる情報を確かめておくと、参画の時期の見込みも立てやすくなります。
電力業界のセキュリティガイドラインは、読んでおく必要がありますか?
ガイドラインの本文は有償の規格で、案件ではそれを受けて作られた取引先の規程に従うのが基本です。参画前に読んでおきたいのは、取引先から示される規程と、IPAが公開している制御システムのセキュリティの資料です。ガイドラインの考え方を知りたい場合は、JESCのページで改定の要点を確認できます。
参考にした公的情報・資料
- 電気事業法(e-Gov法令検索)
- 電気設備に関する技術基準を定める省令(e-Gov法令検索)
- JESC Z0004(2025) 電力制御システムセキュリティガイドライン(日本電気技術規格委員会)
- JESC Z0003(2025) スマートメーターシステムセキュリティガイドライン(日本電気技術規格委員会)
- 制御システムのセキュリティ(情報処理推進機構)
- 基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度(内閣府)
- 経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(e-Gov法令検索)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。