取引先の就業規則やセキュリティ規程に従う必要はある?|業務委託で守るルールの見分け方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
取引先の就業規則は、会社が雇っている労働者に向けたルールです。業務委託で参画するフリーランスに、そのまま適用されるものではありません。一方、セキュリティ規程や入館のルールは、業務委託契約や秘密保持契約で「守る」と合意していれば、契約上の義務として守る必要があります。
見分けるときのポイントは2つです。そのルールを守ることが契約に書かれているか。そして中身が施設や情報の管理なのか、働く時間や働き方そのものの管理なのか、です。2026年10月時点の法令と厚生労働省の資料をもとに整理します。
就業規則は「雇用する労働者」に向けたルール
労働基準法は、労働者を「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています(第9条)。就業規則は、常時10人以上の労働者を使う使用者が作成し、届け出るものです(第89条)。記載する事項は、始業・終業の時刻や休日、賃金の決め方、退職、表彰・制裁など、雇用している人の労働条件が中心です。
業務委託は雇用ではないため、取引先の就業規則がフリーランスの労働条件を決めることはありません。報酬・業務の範囲・契約期間は、業務委託契約と個別契約で決まります。何がどちらに書かれるかは基本契約と個別契約の記事で解説しています。
ただし、契約の名前が業務委託でも、実態として取引先の指揮命令を受けて働いていれば、労働者と判断されることがあります。判断の基準は労働者性の記事で詳しく扱っています。
守る根拠になるのは契約の条項
フリーランスが取引先のルールを守る義務は、契約から生まれます。業務委託契約書には、次のような条項が入っていることがよくあります。
- 「乙は、甲の定める情報セキュリティに関する規程を遵守する」
- 「乙は、甲の事業所に立ち入る場合、甲の定める入館手続および施設内の規則に従う」
- 「乙は、甲から貸与された機器を、甲の定める利用条件に従って使用する」
こうした条項がある場合、引用されている規程の中身も、守るべき約束の一部になります。注意したいのは、規程の本文を見ないまま契約を結んでしまうことです。条項に規程名が書かれているときは、本文か要点を受け取り、自分の働き方で守れる内容かを確かめておきましょう。
仲介会社を通じて参画している場合、契約の相手は仲介会社で、取引先とは直接の契約がないことが一般的です。その場合、取引先の規程を守る約束は、仲介会社との契約や、取引先に出す誓約書に書かれています。三者の関係はエージェント経由の契約の記事で整理しています。
ルールの種類ごとの見分け方
取引先から示されるルールは、大きく「施設や情報を守るためのもの」と「働く人を管理するためのもの」に分けられます。前者は契約に基づいて守るのが基本です。後者は、業務委託の働き方と合うかを確かめる必要があります。
| ルールの例 | 主な目的 | 考え方 |
|---|---|---|
| 入館証の着用、入退室の記録、立入禁止区域 | 施設の管理・安全 | 契約で合意していれば守る |
| 情報セキュリティ規程、持ち出し禁止、私物端末の持ち込み制限 | 情報の保護 | 契約・秘密保持契約に基づいて守る |
| 貸与PCの利用条件、ソフトの導入制限 | 機器と情報の管理 | 契約に基づいて守る |
| 指定の作業服・名札の着用 | 安全・機密保持など | 合理的な理由と事前の合意があるかを見る |
| 安全衛生上の指示(避難、危険箇所への立入禁止など) | 災害の防止 | 安全のために従う |
| 始業・終業の時刻、休憩、残業の申請 | 働く時間の管理 | 契約の条件と実態を確かめる |
| 人事評価、懲戒、服務の細かな指示 | 雇用する人の管理 | 業務委託には本来なじまない |
情報の扱いについては、秘密保持契約の記事、貸与PCの記事、自宅で働くときのセキュリティの記事もあわせてご覧ください。
作業服や氏名の提出は「理由」と「事前の合意」がポイント
厚生労働省の37号告示に関する疑義応答集は、請負会社の労働者について次の考え方を示しています。
- 発注者が作業服を直接指示することは、原則として偽装請負と判断される。ただし、企業の機密を守るためや安全衛生のためなど特段の合理的な理由があり、双方合意のうえで事前に契約で定めているだけなら、そのことのみで偽装請負とは判断されない
- 施設の保安や秘密保持など事業運営上の必要から、従事する人の氏名を事前に発注者へ出しても、そのことのみで配置に関与しているとは言えない
- 施設管理や安全衛生管理などの合理的な理由で、結果として発注者と同じ就業時間・服務規律などになっても、それだけで直ちに労働者派遣と判断されるわけではない
これは請負会社に雇われている労働者についての整理で、個人のフリーランスの場合は「労働者にあたるか」という別の物差しで判断されます。ただ、施設や情報を守るための決まりと、働き方そのものを管理する指示を分けて見るという考え方は、フリーランスが自分の状況を点検するときの参考になります。
安全のための指示は従ってよい
厚生労働省は令和7年3月の通達で、注文者などが法令に基づく義務として、業務委託を受けた個人事業者に危険箇所への立入禁止などの措置をとったり、災害防止のための指導・指示をしたりすることについて、基本的に、それだけで労働者性を肯定する方向に働く事情にはならないとの考え方を示しています。避難の指示や安全上の注意は、ためらわずに従いましょう。
「時間」と「場所」のルールは理由を確かめる
判断に迷いやすいのが、始業・終業の時刻や出社日など、時間と場所に関するルールです。
取引先の入館できる時間が決まっている、定例会議に合わせて作業する、といった事情で、結果的に取引先の社員と同じような時間帯で働くこと自体は珍しくありません。一方、遅刻・早退の届出を求められる、休憩の時間を指定される、作業の空き時間に別の仕事を割り当てられる、といった管理が続く場合は、働き方が雇用に近づいていないかを確かめる必要があります。
確かめるときは、次の3つを見ます。
- 契約に何と書いてあるか:稼働時間の目安、作業場所、報告の方法
- そのルールの理由は何か:施設の利用時間、セキュリティ、会議の都合なのか、勤務の管理なのか
- 自分で調整できる余地があるか:作業の順番や時間配分を自分で決められるか
違和感が続くときの考え方は偽装請負の記事で解説しています。
規程を守れないとき・内容に疑問があるとき
参画してから、規程の内容と実際の作業が合わないと気づくこともあります。たとえば、私物のスマートフォンの持ち込みが禁止されていて多要素認証が使えない、指定のツール以外を使えず作業が進まない、といった場面です。
こうしたときは、自分の判断で規程を外れた方法をとらず、契約の相手に状況を伝えて対応を相談します。決まりを破って作業を進めると、契約の定めによっては契約違反として責任を問われたり、契約の解除につながったりするおそれがあります。損害賠償の範囲は契約の条項で変わるため、損害賠償の条項の記事で確かめておきましょう。
逆に、取引先から求められた誓約書や規程に、業務委託の範囲を超える内容(契約にない業務への従事、私生活への制限など)が含まれている場合は、署名の前に内容を確かめ、必要に応じて修正を相談します。判断に迷う場合は、弁護士やフリーランス・トラブル110番などの相談先も使えます。
参画前に確かめておきたいこと
- 契約書に、取引先の規程を守る条項があるか。あれば、どの規程か
- 規程の本文か要点を受け取れるか
- 入館証の発行、アカウントの申請など、参画初日に必要な手続き
- 私物端末の持ち込み、貸与PCの有無、使ってよいツール
- 稼働時間の目安と、出社日・作業場所の決め方
- 規程に違反した場合の扱い(報告先、契約上の責任)
よくある質問
取引先から、社員と同じ始業時刻に出社するよう言われました。従う必要はありますか?
契約に稼働時間や出社の条件がどう書かれているかによります。入館できる時間や定例会議の都合で時間帯が決まることはありますが、遅刻の届出や勤怠の管理まで求められる場合は、働き方が雇用に近づいていないかを確かめましょう。まずは契約の相手に、契約上の根拠を確認するのが出発点です。
規程の本文を見せてもらえません。契約してもよいですか?
規程そのものが社外秘で、全文を渡せない場合もあります。その場合でも、外部の人が守るべき部分の要点や、参画時の説明資料を受け取れないか相談してみましょう。守る内容が分からないまま契約すると、後から想定外の制限が出てくることがあります。
うっかり規程に違反してしまったら、どうなりますか?
まずはすぐに取引先や契約の相手へ報告し、指示に従って対応します。どのような責任を負うかは、契約の条項と違反の内容によって変わります。情報の漏えいにつながるおそれがある場合は、報告の早さが被害の大きさを左右します。個別の判断が必要なときは、弁護士などの専門家にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(37号告示)関係疑義応答集(厚生労働省)
- 37号告示に関する疑義応答集(厚生労働省)
- 37号告示に関する疑義応答集(第2集)(厚生労働省)
- 注文者・事業者等が安全衛生上の指示等を行う場合における留意事項(労働基準法上の労働者性、いわゆる偽装請負との関係)について(厚生労働省 令和7年3月31日)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。