プリセールス・セールスエンジニアのフリーランスの将来性とキャリアの広げ方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
プリセールス・セールスエンジニアの仕事は、製品の機能を見せる役割から、顧客が比べて決めるための材料をそろえる役割へ重心が移っています。SaaSを比較して調達する仕組みが公的にも整い、AIを使う製品にはリスクや利用ルールの説明が求められるようになったためです。
フリーランスとして選択肢を広げるには、得意な製品領域を軸に、「比較される場面での説明」「AIを使う製品の検証と説明」「導入後までつなぐ支援」のどれかを掛け合わせていくのが現実的です。この記事では、公表されている国の動きを手がかりに整理します。
公表されている動き
行政機関がSaaSを比べて調達する仕組み
デジタル庁は、行政機関がSaaSを速く公平に調達できるようにする「デジタルマーケットプレイス(DMP)」を進めています。SaaSの製品と、その導入支援サービスを事業者がカタログサイトに登録し、行政機関がセキュリティ、機能、価格などを横断的に検索・比較して選ぶ仕組みです。中小企業やスタートアップも登録の対象とされています。
2026年5月29日には行政機関・事業者向けの導入サポートの相談窓口が開設され、7月8日には活用ガイドブックが更新されています(2026年10月時点のデジタル庁のページによる)。
プリセールスの目で見ると、ここで大事なのは、製品だけでなく導入支援サービスも比較の対象になっている点です。カタログで比べられる時代には、機能の一覧で差をつけることが難しくなります。顧客の業務に合わせてどう導入し、どう使い続けるかを具体的に示す力の比重が上がると考えられます。公共分野のITの全体像は公共分野のIT案件の記事で扱っています。
AIを使う製品への説明の求め
総務省と経済産業省が公表している「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に1.2版が公表されています(2026年10月時点)。2024年4月の1.0版から、改定が続いています。
業務SaaSやセキュリティ製品などに、AIを使う機能が組み込まれることが増えています。顧客の側では、こうした指針をもとに社内のルールを整える動きがあり、商談でも「入力したデータはどう扱われるか」「誤った出力にどう備えるか」といった質問が出やすくなります。機能のデモに加えて、リスクと使い方のルールを説明できるプリセールスが求められる場面は増えていくと考えられます。AIを使う業務の契約の注意点はAIの利用と契約の記事で解説しています。
取引と契約の型の整理
IPA(情報処理推進機構)は、ユーザー企業とITベンダーの取引の構造を分かりやすくするため、「情報システム・モデル取引・契約書」の第二版とアジャイル開発版を公開しています。開発の各段階で誰が何を担うかを整理したもので、契約書のひな型も示されています。
プリセールスは、受注前の提案の段階で、導入の進め方や体制を顧客に示す役割を持ちます。段階ごとの役割分担と契約の型を知っていると、提案書の体制やスケジュールの章に説得力が出ます。準委任と請負の違いは準委任と請負の違いの記事で整理しています。
プリセールスの役割はどう変わるか
| これまでの中心 | 広がりつつある仕事 |
|---|---|
| 製品の機能をデモで見せる | 顧客の業務に沿って、比べる観点ごとの判断の材料を示す |
| 一つの製品の提案 | 複数の製品やサービスを組み合わせた構成の提案 |
| 受注までの技術支援 | 導入後の使われ方まで見すえた提案、導入チームへの引き継ぎ |
| 技術の質問への回答 | AIやデータの扱いのリスクとルールの説明 |
SaaSは試用版や公開資料で事前に調べやすくなり、顧客は商談の前にかなりの情報を持っています。プリセールスに求められるのは、顧客がすでに知っている情報を、自社の業務に当てはめたらどうなるかに置き換える力です。
選択肢を広げる4つの方向
1. 比較される場面での説明
公共や大企業の調達のように、複数の製品が並べて比べられる商談で、RFPの回答やセキュリティの質問票、比較の観点ごとの説明資料を担う方向です。要件への対応可否を正確に書き分けた経験が生きます。
2. AIを使う製品の検証と説明
AIを使う機能について、PoCで精度や制約を確かめ、データの扱いやリスクを顧客に説明する方向です。検証の計画を立てた経験と、指針の内容を読んで顧客の質問に答える準備が材料になります。
3. 導入後までつなぐ支援
受注前の提案と、導入後の定着の支援をつなぐ方向です。カスタマーサクセスや導入コンサルの経験がある方は、提案の段階から導入後の姿を具体的に示せるため、プリセールスとの組み合わせで強みを出しやすくなります。
4. 業界に特化した技術支援
金融、製造、医療、公共など、業界の業務と規制を知るプリセールスは、どの方向でも強みを持てます。上の3つのどれかと業界を掛け合わせると、「公共向けSaaSの比較説明」「製造業のAI製品の検証」のように、繰り返し語れる型ができます。
今の案件でできる準備
方向を変える前に、今の案件の中でもできる準備があります。
- 公的な文書に目を通す:DMPの案内、AI事業者ガイドライン、IPAのモデル取引・契約書など、顧客が参照する文書を知っておく
- 比べられた場面を記録する:顧客が何を基準に比べ、自分がどんな材料を出したかを、社外に出せない情報を伏せて書き留める
- 導入の担当と話す:受注後に導入を担う人から、提案の段階で何が足りなかったかを聞き、次の提案に生かす
経験・年代に応じた広げ方
技術職から移ってきた時期
PoCや技術検証から入る方が多い時期です。検証の結果を自分で顧客に説明する場面を意識して増やすと、デモや提案書の型へ広げやすくなります。
経験を積んだ時期(30代後半〜40代)
製品領域と業界の組み合わせを決める時期です。上の4つの方向から主軸を一つ選び、案件を重ねて型を作ります。この時期に、大型の商談で技術の取りまとめを一度経験しておくと、その後の選択肢が広がります。報酬との関係はプリセールスの報酬の記事で扱っています。
責任者を経た時期(50代以降)
プリセールス部門や営業部門の責任者を経た経験は、提案の方針づくりや、大型RFPの全体の取りまとめで生かせます。一方で、業務委託では自分で資料を作り、デモを動かす場面も多いため、扱う製品の最新の画面や機能には触れ続けておく必要があります。50代のフリーランスの記事もあわせてご覧ください。
よくある質問
SaaSが増えると、プリセールスの仕事は減りますか?
試用版や公開資料で顧客が自分で調べられる範囲は広がっています。一方で、既存のシステムとの連携、データの移行、セキュリティの要件など、顧客ごとに確かめる必要がある点は残ります。単純な機能の説明は減っても、顧客の環境に当てはめて判断の材料をそろえる仕事は、引き続き求められると考えられます。
AIに詳しくないと、今後のプリセールスは難しいですか?
AIのモデルを作る知識までは求められないことが多いです。求められやすいのは、扱う製品のAI機能が何をするか、データをどう扱うか、誤りにどう備えるかを顧客に説明する力です。AI事業者ガイドラインに目を通し、扱う製品の公式の説明と照らし合わせておくと、商談での質問に備えられます。
プリセールスからITコンサルへ進むことはできますか?
製品の比較や構成の提案の経験は、ITコンサルのシステム選定の局面と重なります。ただし、ITコンサルでは特定の製品に偏らず中立に比べる立場が求められるため、評価の基準を自分で作った経験を示せるかが鍵になります。ITコンサル側の変化はITコンサルタントの将来性の記事で解説しています。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。