業務での生成AIの利用に関する契約条項|禁止・承認制・条件付き許可の読み方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
業務での生成AIの利用について、契約や取引先の規程は、大きく禁止・事前承認・条件付き許可の3つの型に分かれます。どの型でも確かめたいのは、使ってよいサービスとアカウント、入力してよい情報、出力の権利と保証、利用したことの報告の4点です。
契約に何も書かれていない場合でも、自由に使ってよいとは限りません。秘密保持や個人情報の条項に触れる使い方もあるため、作業で使う前に、取引先に書面やメールで確かめておくのが安全です(2026年10月時点)。生成AIを使うエンジニアの技術的な注意点は生成AIエンジニアのスキルの記事で解説しているので、ここでは契約の条項の読み方に絞ります。
生成AIの利用が契約で問題になる理由
生成AIの利用は、既存の契約条項のいくつかと関わります。
| 関わる条項 | 問題になりうる点 |
|---|---|
| 秘密保持 | 取引先の情報をプロンプトに入れることが、秘密情報の目的外利用や第三者への開示に当たらないか |
| 個人情報の取扱い | 個人データを外部のサービスに入力することが、委託の範囲を超えないか |
| 成果物の権利 | AIが生成した部分に著作権が生じるか。発注者に譲渡できるか |
| 保証・損害賠償 | 生成物が既存の著作物に似ていた場合の責任 |
| 再委託 | 外部のサービスに作業の一部を任せることが再委託に当たると読まれないか |
これらは契約書にAIの条項がなくても関わってくる点です。AIの条項は、こうした不安を前もって整理するために置かれます。
条項の3つの型
| 型 | 文言の例 | 確かめること |
|---|---|---|
| 禁止型 | 「乙は、本業務において生成AIを利用してはならない」 | 何が「生成AI」に当たるか。コード補完や翻訳などの機能も含むか |
| 承認型 | 「乙は、甲の事前の書面による承諾を得た場合に限り、生成AIを利用できる」 | 承認の単位(サービスごとか、作業ごとか)、承認の窓口 |
| 条件付き許可型 | 「甲が認めるサービスを、甲の定める利用基準に従って利用できる」 | 認められたサービスの一覧、利用基準の中身と更新の通知 |
禁止型の場合、どこまでが対象かがあいまいなことがあります。開発環境に組み込まれたコード補完、文書作成ソフトの要約機能、翻訳サービスなど、生成AIの技術を使った機能は身近に増えています。対象が分からないときは、使っているツールを挙げて、どれが対象かを確かめます。
条件付き許可型では、「利用基準」が契約書の外の規程やガイドラインになっていることがあります。その規程を受け取っているか、改定されたときに知らされる仕組みかを確かめます。
入力の条項:秘密情報と個人情報
個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しています。個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は法律に違反する可能性があるため、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること、とされています。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版が公表されています。事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者を「AI利用者」と位置づけ、AIシステム・サービスに個人情報や機密情報などを不適切に入力しないよう注意を払うこと、AI提供者が定めたサービス規約を守ることなどを挙げています。
契約の入力に関する条項では、次の点を見ます。
- 入力してはいけない情報が具体的に書かれているか(顧客データ、ソースコード、設計書など)
- 入力してよい場合の条件(学習に使われない設定、取引先が契約しているサービスのみなど)
- 取引先のアカウントを使うのか、自分のアカウントでよいのか
秘密情報の範囲そのものはNDAの記事、個人データを扱う委託の考え方は個人情報を扱う契約の記事で解説しています。
出力の条項:権利と保証
AIが作った部分に著作権が生じるか
文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」の概要では、AI生成物が著作物に当たるかは、AI利用者の行為のうち、単なる労力にとどまらない「創作的寄与」がどの程度積み重なっているかなどを総合的に考慮して、個別に判断されるとしています。人間がAI生成物に創作的表現といえる加筆・修正を加えた場合は、通常、その部分に著作物性が認められるとしています。
契約書で「成果物の著作権を発注者に譲渡する」と定めていても、AIが生成しただけの部分には、譲渡の対象となる著作権がそもそも生じていない場合がありえます。権利の帰属の条項が、AIを使った成果物を想定した書き方になっているかを見ておきます。条項全体の読み方は成果物の著作権の記事をご覧ください。
既存の著作物に似ていた場合
同じ概要では、生成物に既存の著作物との「類似性」と「依拠性」が認められ、権利制限規定の対象外であれば、著作権侵害になるとしています。また、AIの開発・学習の段階で既存の著作物が学習されていた場合は、AI利用者がその著作物を知らなくても、通常は依拠性があったと推認されるとしています。
「成果物が第三者の権利を侵害しないことを保証する」という条項がある場合、AIの出力をそのまま納品すると、自分では把握しきれない部分まで保証する形になります。コードであれば既存のOSSに似た部分が混ざる可能性もあり、その扱いはOSSのライセンスの記事で整理しています。生成物の確認の方法や、保証の範囲を相談しておくことを検討します。
報告と記録の条項
条項によっては、生成AIを使った場合に、その事実や使ったサービス、使った範囲を報告するよう求めることがあります。AI事業者ガイドラインも、AIの出力結果を事業の判断に使った場合に、関係するステークホルダーへ合理的な範囲で情報提供することを、AI利用者の取り組みとして挙げています。
報告を求められる場合は、どの単位で何を残すか(成果物ごとか、作業日報に書くか、プロンプトの記録まで要るか)を最初に決めておくと、後から記録を作り直す手間が省けます。
契約に定めがないときに確かめること
AIの条項がない場合は、作業で使う前に、次の点をメールなどで確かめておくと、後で説明が必要になったときの記録になります。
- 業務で生成AIを使ってよいか。使ってよい作業と使ってはいけない作業はあるか
- 使ってよいサービスとアカウント(取引先が用意するものか、自分で用意するものか)
- 入力してはいけない情報
- 成果物に生成AIの出力を含めてよいか。含める場合の確認方法
- 使ったことの報告が必要か
利用料を誰が負担するかも、あわせて確かめておくとよい点です。新たに条項を入れてもらう場合の相談の仕方は、契約書のひな形に修正を求めるときの考え方で整理しています。
よくある質問
契約にAIの記載がなければ、自由に使ってよいですか?
AIの条項がなくても、秘密保持や個人情報の取扱いの条項は適用されます。取引先の情報を外部のサービスに入力することがそれらの条項に触れる可能性があるため、使う前に取引先の方針を確かめてください。
生成AIで作業時間が短くなったら、報酬を下げられることはありますか?
報酬は契約で決めた条件によります。契約の更新時に条件を見直すこと自体はありえますが、すでに定めた報酬を、フリーランスに責任がないのに後から一方的に減らすことは、フリーランス新法で禁止される行為に当たる可能性があります。禁止される行為はフリーランス新法の禁止行為の記事で整理しています。
AIで作った成果物の著作権は誰のものになりますか?
AIが生成しただけの部分に著作権が生じるかは、人の創作的寄与の程度によって個別に判断されるとされています。人が加筆・修正した部分は、通常その部分に著作物性が認められます。権利の帰属をどう定めるかは契約で決めることになるため、判断に迷う場合は弁護士などの専門家にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- AIと著作権について(文化庁)
- 「AIと著作権に関する考え方について」【概要】(文化庁著作権課)
- 「AI事業者ガイドライン」掲載ページ(総務省)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)概要(総務省・経済産業省)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会)
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