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業務委託契約の基礎

契約書のひな形に修正を求めるときの考え方|優先順位の付け方と伝え方

公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト

取引先から届く契約書のひな形は、相手が用意した交渉の出発点です。内容に気になる点があれば、署名の前に修正を相談してかまいません。コツは、すべての条項を直そうとせず、自分への影響が大きい条項に絞ること、そして条項番号・修正後の文言・理由をそろえて伝えることです。

この記事では、どの条項から優先して見るか、どう書いて送るか、修正が通らなかったときにどう残すかを整理します。各条項の中身の読み方は、業務委託契約書のチェックポイントや各条項の記事に任せ、ここでは「修正を求める進め方」に絞ります(2026年10月時点)。

ひな形は相手の立場で作られている

民法第521条では、契約の当事者は、法令の制限内で契約の内容を自由に決められるとしています。また、契約は申込みと承諾で成立し、法令に特別の定めがない限り書面などの方式は要りません(第522条)。ひな形に書かれていることは、相手からの「この内容でどうか」という申込みであって、決まった内容ではありません。

ひな形は、作った側の事情を前提に書かれるのが自然です。情報処理推進機構(IPA)の「情報システム・モデル取引・契約書」は、ユーザーとベンダーのどちらかに偏らない契約を目指して作られ、著作権の帰属や再委託などでは複数の案を並べ、取引に応じて選ぶ形をとっています。中立を目指した資料でも案が分かれるほどですから、取引先の社内ひな形が発注者寄りになっているのは珍しいことではありません。

「修正をお願いすると失礼では」と感じる方もいますが、取引先の側にも、相手からの修正依頼を受けて検討する手順を持っている会社があります。遠慮して署名し、後で困るほうが双方にとって負担です。

修正を求める条項に優先順位をつける

修正の依頼が十数か所に及ぶと、相手の法務確認に時間がかかり、参画の時期がずれることもあります。まず、影響の大きさで条項を分けます。

優先度条項修正を考える理由
高損害賠償(上限・範囲)万一のときの負担の大きさが決まる。損害賠償の記事
高成果物の権利(従前から持つものの扱い)手持ちのコードやテンプレートを今後使えるかが決まる。著作権の記事
高報酬・支払期日・中途解約収入の見通しに直結する。支払サイトの記事・中途解約の記事
中競業避止・直接契約の禁止次の案件の選び方に影響する。競業避止の記事
中秘密保持の期間・範囲実績として話せる範囲に影響する。NDAの記事
中合意管轄争いになったときの裁判所の場所。合意管轄・準拠法の記事
低用語の揺れ、表記の誤り意味が変わらないなら指摘にとどめる

優先度「高」は、署名後に変えにくく、損失が大きくなりやすい条項です。ここは理由を添えて修正を求めます。「中」は、自分の働き方に照らして影響があるときに相談します。「低」は、意味が変わらないなら修正を求めず、気づいた点として伝える程度で足ります。

修正依頼の書き方

修正の依頼は、口頭よりも、メールや変更履歴付きの文書で出すほうが行き違いを防げます。1つの条項につき、次の4点をそろえます。

  1. 条項の場所:第何条第何項か
  2. 現在の文言:該当する部分をそのまま引用する
  3. 修正後の文言:どう書き換えてほしいかを具体的に示す
  4. 理由:なぜ必要かを1〜2文で書く

「損害賠償の条項が厳しいので見直してください」だけでは、相手は何をどう直せばよいか分かりません。修正後の文言まで示すと、相手は「受け入れる・一部受け入れる・断る」を判断しやすくなります。

理由は、相手の不利益にならない形で書くと通りやすくなります。たとえば次のような書き方です。

相手が受け入れやすい代わりの案を用意しておくのも有効です。上限の金額で折り合わない場合に「故意・重大な過失の場合は上限を適用しない」と加える案など、いくつかの段階を考えておくと、やり取りの回数を減らせます。

修正が通らなかったときの残し方

修正を求めても、取引先の方針で変えられないことがあります。そのときは、次の順で考えます。

条項の解釈をメールで確かめておく

文言は変わらなくても、「この条項は◯◯の場合を想定したもので、△△の場合は対象外という理解でよいか」とメールで確かめ、返信を残しておく方法があります。後で解釈が争いになったとき、当時の双方の理解を示す材料になります。

個別契約や覚書で補う

基本契約は会社共通のひな形で変えられなくても、案件ごとの個別契約や覚書で条件を補えることがあります。その場合は、どちらの定めが優先されるかが契約に書かれているかを確かめます。仕組みは基本契約と個別契約の記事で解説しています。

引き受けるか見送るかを決める

残ったリスクを把握したうえで引き受けるか、見送るかを決めます。損害賠償の上限がないまま引き受ける場合は、賠償責任保険の記事も参考に、備えを考えておきます。

一方的な条件は法律上問題になることがある

ひな形の内容は交渉で決めるのが基本ですが、法律で禁じられた行為は、合意の形をとっても認められないことがあります。

公正取引委員会・厚生労働省の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」では、1か月以上の期間の業務委託などについて、フリーランスに責任がないのに報酬を減らすことは、あらかじめ減額の合意があっても違反になるとしています。また、情報成果物の作成委託で給付の内容に知的財産権が含まれる場合に、その対価をフリーランスと協議せず、一方的に通常より低い額に定めることを、買いたたきに当たるおそれがある例に挙げています。

ひな形にこうした内容が含まれているように読める場合でも、すぐに違反と決めつけず、まず条項の意味を確かめ、修正を相談するのが順序です。禁止される行為の全体はフリーランス新法の禁止行為の記事、取引上の力の差による問題は優越的地位の濫用の記事で整理しています。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

相手から修正版が返ってきたら

修正の依頼に対して、相手が独自の修正案を返してくることもあります。そのときは次の点を見ます。

修正のやり取りが2往復、3往復と続く場合は、残っている論点を一覧にして、どこまで合意できているかを双方で確かめると、話がまとまりやすくなります。

よくある質問

修正をお願いしたら、案件の話がなくなりませんか?

理由と修正案を添えた依頼であれば、通常の交渉として受け止められることが多いと考えられます。ただし、依頼の数が多すぎたり、取引先の方針で変えられない条項を強く求めたりすると、参画の時期が遅れることはあります。影響の大きい条項に絞って相談するのが現実的です。

法律の知識がなくても修正案を書けますか?

文言を一から考える必要はありません。公的なモデル契約の条文や、契約書に書かれている別の条項の書き方を参考に、「何を対象から外したいか」「上限をどうしたいか」を具体的に示せば、相手の法務担当が文言を整えてくれることもあります。金額や責任が大きい契約では、弁護士などの専門家に見てもらうことも検討してください。

署名した後で、修正しておけばよかったと気づいた場合は?

署名後でも、双方が合意すれば覚書などで内容を変えられます。契約の更新のタイミングは、条件を見直す話を切り出しやすい時期です。気づいた時点で、どの条項をどう変えたいかを整理しておきましょう。

参考にした公的情報・資料

記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。

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