契約終了後のデータの返却・削除の義務|何を返し、何を消し、何を手元に残すか
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
契約が終わったときにデータを返す・消す義務は、主に契約の条項から生じます。秘密保持の条項や個人情報の取扱いの条項に「契約終了時に返還または廃棄する」と書かれていれば、その方法と期限に従います。取引先の個人データを扱っていた場合は、取引先に委託先を監督する法律上の義務があるため、削除の報告などを求められることもあります。
実務では、①データがどこにあるかを洗い出す、②返すものと消すものを取引先の指示で分ける、③消したことを報告する、④自分の事業の記録は取引先のデータと分けて残す、の順に進めます(2026年10月時点の情報です)。
返却・削除の義務はどこから来るか
契約の条項
業務委託契約や秘密保持契約には、次のような条項がよく入っています。
| 条項の書き方の例 | 読み取ること |
|---|---|
| 契約終了時または甲の求めがあったときは、秘密情報を返還または廃棄する | 返すか消すかは取引先の指示による |
| 秘密情報の複製物を含めて廃棄する | 自分で作ったコピーやメモも対象になり得る |
| 廃棄したことを書面で報告する | 削除の報告書や証明書を出す |
| 本条の義務は契約終了後も存続する | 終了後も秘密保持の義務が続く |
条項の全体の読み方はNDAの記事、個人情報の条項は個人情報を扱う業務の記事で整理しています。ここでは、契約が終わる場面での具体的な進め方を扱います。
個人情報保護法
取引先の顧客データなど、個人データの取扱いを任されていた場合は、個人情報保護法も関係します。
- 委託先の監督(第25条):個人データの取扱いを委託する事業者は、委託先に対して必要かつ適切な監督をしなければならない
- 利用する必要がなくなったときの消去(第22条):個人情報取扱事業者は、個人データを利用する必要がなくなったときは、遅滞なく消去するよう努めなければならない
個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、個人データの削除や、個人データが記録された機器・電子媒体の廃棄は、復元できない手段で行わなければならないとしています。削除や廃棄の記録を残すことや、それらの作業を委託するときに、委託先が削除・廃棄したことを証明書などで確かめることも重要とされています。
取引先が終了時に削除の報告を求めるのは、こうした監督や安全管理の考え方に沿ったものです。フリーランス自身が個人情報取扱事業者にあたるかは個人情報保護法の記事をご覧ください。
参画中から準備しておくこと
終了時の作業の量は、参画中の扱い方でほぼ決まります。次のような習慣があると、最後に洗い出す場所が少なくなります。
- 取引先のデータは、取引先が用意した環境(貸与端末、指定のストレージ)の中だけで扱う
- 自分の端末で作業するときは、案件ごとに1つのフォルダにまとめ、そこ以外に置かない
- 個人のクラウドや私用のチャットに、取引先のファイルを送らない
- 保存した場所や作ったアカウントを、簡単なメモに書き足していく
自宅での作業環境の整え方は自宅で働くときのセキュリティの記事で解説しています。
手順1:データがどこにあるかを洗い出す
返却・削除で一番起きやすいのは、消し忘れです。自分の端末を使っていた案件では、次の場所を一つずつ確かめます。
- ローカルの作業フォルダ:プロジェクトのフォルダ、ダウンロードフォルダ、デスクトップ、一時ファイル
- ソースコード:手元にクローンしたリポジトリ、ブランチ、スタッシュ
- クラウドストレージ:自分のアカウントに置いた共有ファイルや同期フォルダ
- メールとチャット:添付ファイル、自分宛てに送ったメモ、ダウンロードした画像
- バックアップ:外付けディスク、自動バックアップ、クラウドの履歴
- 認証情報:ブラウザやパスワード管理ツールに保存した取引先のIDとパスワード、APIキー、SSHの鍵
- ツールの履歴:メモアプリ、スクリーンショット、生成AIツールに入力した内容の履歴
- 紙と媒体:印刷した資料、手書きのメモ、USBメモリ
貸与PCだけで作業していた案件なら、返却の手順に従えば多くは片づきます(貸与PCの記事)。それでも、自分の端末で取引先のチャットにログインしていたなど、例外がないかを確かめます。
手順2:返すものと消すものを分ける
返すか消すかは、取引先の指示に従います。自分の判断で先に消してしまうと、取引先が必要としていたデータを失わせることがあります。
| 区分 | 例 | 進め方 |
|---|---|---|
| 返すもの | 貸与PC、紙の資料、媒体、取引先しか持っていない成果物 | 期限と方法を確かめ、記録が残る形で返す |
| 引き継ぐもの | 作業中のファイル、手順書、設定の情報 | 取引先の保存場所に置き、引き継ぎ先に伝える |
| 消すもの | 手元のコピー、ダウンロードしたデータ、保存した認証情報 | 返却・引き継ぎが終わってから消す |
引き継ぎの進め方は引き継ぎの記事で解説しています。引き継ぎが終わる前に消さないことと、消す前に取引先の保存場所にあるかを確かめることが要点です。
削除の方法
ゴミ箱に移すだけでは、データは復元できる状態で残ります。ゴミ箱を空にする、同期フォルダの削除履歴も消す、媒体はデータ削除のソフトや物理的な破壊を使う、など、復元できない形で消します。取引先が削除の方法を指定している場合は、それに従います。
手順3:消したことを報告する
契約で求められていなくても、削除が終わったら、簡単な報告をメールで送っておくと、後で確認を求められたときに役立ちます。
◯◯の業務でお預かりしたデータについて、次のとおり返却・削除を完了しましたのでご報告します。返却:貸与PC1台(◯月◯日発送、送り状番号◯◯)。削除:作業用PC内の作業フォルダ、クラウドストレージ内の共有ファイル、ブラウザに保存した認証情報(◯月◯日)。自動バックアップに残る分は、◯月◯日までに上書きで消去されます。
バックアップのように、すぐには消せないものがある場合は、隠さずにその旨と消える時期を書きます。報告書の書式が決まっている場合は、それを使います。
手順4:自分の事業の記録は分けて残す
取引先のデータを消すことと、自分の事業の記録を残すことは別の話です。次のものは、自分の事業の書類として残しておく必要があります。
- 契約書、個別契約、発注書
- 請求書、入金の記録
- 稼働報告の控え
税務上の書類の保存の考え方は書類の保存の記事にまとめています。ただし、稼働報告に取引先の内部情報が細かく書かれている場合などは、秘密保持の対象と重なることがあります。残し方に迷うものは、取引先に確かめておくと安心です。
実績として経歴に何を書けるかは、データを消した後も秘密保持の条項の範囲で考えます(スキルシートに書ける範囲の記事)。
個別の条項の解釈や、個人データの扱いが法律に合っているかで判断に迷うときは、弁護士や個人情報保護委員会の相談窓口にご相談ください。
よくある質問
契約書に返却・削除の定めがありません。消さなくてもよいですか?
定めがなくても、秘密保持の義務が続く以上、必要のなくなった取引先のデータを手元に置き続ける理由はほとんどありません。個人データであれば、個人情報取扱事業者は、利用する必要がなくなったときに遅滞なく消去するよう努めることが法律で求められています。消す前に、取引先に返却や引き継ぎが必要なものがないかを確かめましょう。
自分が書いたコードを、次の案件の参考に残しておいてもよいですか?
成果物の権利が取引先に移る契約や、コードが秘密情報にあたる契約では、手元に残すことが契約違反になるおそれがあります。権利の扱いは契約書の知的財産の条項で確かめます。汎用的な知識や技術は自分の中に残りますが、取引先のコードそのものは残さないのが基本です。
削除の証明書を出すよう求められました。どう書けばよいですか?
取引先の書式があればそれに従います。書式がなければ、対象のデータ、保存されていた場所、削除の方法、削除した日、すぐ消せないものがあればその扱いを書きます。事実と違うことは書かず、消しきれていないものがあれば正直に伝えます。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。