事業用の銀行口座とクレジットカードの分け方|お金の流れの決め方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
事業用の銀行口座とクレジットカードは、それぞれ1つずつ決めて、報酬の入金と事業の経費の支払いをそこに集めるのが基本です。生活費は事業用口座から個人口座へ毎月決まった額を移し、私用の支払いは個人のカードで行います。
個人事業主が私用の口座で事業のお金を扱っても、法律上の問題はありません。ただ、分けておくと、帳簿付けの手間が減り、経費や家事按分について説明を求められたときに根拠を示しやすくなります。この記事では、口座とカードの選び方と、お金の流れの決め方を整理します。
分けた方がよい3つの理由
1. 記帳の材料がそのまま揃う
国税庁は、事業所得を生ずべき業務を行うすべての個人に、取引の記帳と、請求書や領収書などの書類の保存を求めています。事業用の口座とカードに取引を集めておけば、その明細がそのまま記帳の材料になります。私用と混ざった明細から事業の取引を拾い出す作業がなくなります。
2. 経費の説明がしやすくなる
国税庁のタックスアンサー(No.2210)によると、家事と業務の両方にかかわる費用(家事関連費)は、業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる部分だけが必要経費になります。事業の支払いを事業用カードにまとめておくと、「これは業務の支払い」という区分が明細の段階でできます。
3. 事業の資金の残りが分かる
事業用口座の残高を見れば、税金や保険料の支払いに使えるお金がどれだけあるかがすぐに分かります。私用と混ざっていると、使ってよいお金と取っておくべきお金の境目があいまいになります。
事業用口座の選び方
事業用口座は、個人名義の口座を事業用と決めて使う方法と、屋号付きの名義で作る方法があります。
| 比べる点 | 個人名義の口座 | 屋号付き名義の口座 |
|---|---|---|
| 作りやすさ | 手持ちの口座を使える | 開業届の控えなどを求められることがある |
| 取引先から見た名義 | 個人名 | 屋号と個人名 |
| 私用口座との区別 | 自分で決めて守る | 名義で区別できる |
どちらでも、事業用として使う口座は1つに絞るのが管理しやすい方法です。選ぶときは、次の点を確かめます。
- 入出金明細のデータ:明細をファイルで取り出せるか、会計ソフトと連携できるか
- 振込の手数料:経費の振込や個人口座への移し替えが多い場合に効いてくる
- 取引先からの振込:取引先が振り込む際に名義の確認で手間取らないか
- 税金・保険料の引き落とし:口座振替に対応しているか
口座を用意する時期は、最初の業務委託契約で振込先を伝える前が目安です。契約のあとで振込先を変えると、取引先の側でも登録の変更が必要になります。新しく口座を作る場合は、審査や書類の確認に日数がかかることもあるため、参画日から逆算して早めに手続きを始めておきます。
屋号を付けるかどうか迷っている場合は、屋号の記事を参考にしてください。
事業用クレジットカードの選び方
事業用カードは、事業の経費だけを払う1枚を決めます。選ぶときに見たいのは次の点です。
- 引き落とし口座:事業用口座を指定する。こうすると支払いのお金の流れが事業の中で完結します
- 明細のデータ:明細をファイルで取り出せるか、会計ソフトに取り込めるか
- 利用限度額:クラウドサービスの利用料、出張の交通費、機器の購入などをまかなえるか
- 年会費:使う頻度に見合うか
クレジットカードの代わりに、事業用口座のデビットカードを使う方法もあります。支払いと同時に口座から引き落とされるため、残高の管理はしやすくなります。独立直後にカードの審査が心配な場合は、在職中に検討しておくと安心です。詳しくは独立前の準備の記事で解説しています。
お金の流れの決め方
口座とカードを決めたら、どのお金をどこから払うかのルールを決めます。
| お金の種類 | 入金・支払いの口座やカード | 帳簿での扱いの例 |
|---|---|---|
| 業務委託の報酬 | 事業用口座に入金 | 売上(売掛金の入金) |
| 事業の経費(ソフト・通信費・交通費など) | 事業用カード・事業用口座 | 各経費の勘定科目 |
| 家賃・電気代など私用と共用の費用 | どちらかに決めてそろえる | 業務に使う割合だけ経費にする |
| 生活費 | 事業用口座から個人口座へ毎月移す | 事業主貸(経費ではない) |
| 所得税・住民税 | 事業用口座から払ってもよい | 事業主貸(経費にならない) |
| 国民健康保険料・国民年金保険料 | 事業用口座から払ってもよい | 事業主貸(社会保険料控除で差し引く) |
| 私用のお金を事業用口座に入れた | 個人口座から事業用口座へ | 事業主借 |
「事業主貸」「事業主借」は、事業のお金と個人のお金の間の移動を記録する勘定科目です。事業用口座から生活費を移したときは事業主貸、個人のお金で事業の経費を払ったときは事業主借で記録します。経費にならない支出の考え方は経費にできるものの記事で整理しています。
生活費は「給料日」を決めて移す
生活費は、使うたびに事業用口座から引き出すのではなく、毎月決まった日に決まった額を個人口座へ移すと、帳簿の記録が月1回で済みます。会社員の給料日のように、自分の「給料日」を決めておく方法です。
家賃・通信費など共用の費用
自宅を仕事場にしている場合の家賃や、私用と兼ねている通信費は、業務に使う割合だけを経費にします。どちらの口座から払うかはそろえておき、年間の支払額に業務の割合をかけて経費にします。割合の決め方は家事按分の記事で解説しています。
税金と保険料のお金を取り分けておく
フリーランスになると、所得税、住民税、個人事業税(対象となる場合)、消費税(課税事業者の場合)、国民健康保険料、国民年金保険料を自分で払います。報酬が入るたびに、その一部を税金・保険料用として取り分けておくと、支払いの時期にあわてずに済みます。
取り分ける方法は2つあります。
- 事業用口座の中で「使わない額」を決めておく:口座は増やさず、残高の一部を手を付けないお金とする
- 納税用の口座をもう1つ作る:報酬が入ったら、決めた割合を納税用口座に移す
どの程度を取り分けるかは、所得や控除によって大きく変わります。住民税の計算と支払いの時期は住民税の記事をご覧ください。
帳簿と書類の保存
口座とカードの明細は、帳簿の裏付けになる書類です。国税庁のタックスアンサー(No.2070)によると、青色申告者の帳簿と書類は原則7年間、請求書・見積書・納品書などは5年間の保存が必要です。
明細をネットで見る形の口座やカードは、一定期間を過ぎると過去の明細が見られなくなることがあります。月に1回、明細のファイルを取り出して保存しておくと安心です。帳簿の付け方と会計ソフトの選び方は会計ソフトの記事で整理しています。
よくある質問
事業用の口座を作らないと青色申告はできませんか?
口座を分けることは青色申告の条件ではありません。私用の口座で事業のお金を扱っても申告はできます。ただし、事業と私用の取引を帳簿で振り分ける手間が増えるため、事業用の口座を分けておく方が記帳は楽になります。
事業用カードの年会費は経費になりますか?
事業のためだけに使っているカードであれば、年会費は業務に必要な費用として経費にできると考えられます。私用でも使っている場合は、業務の割合で考えることになります。個別の判断に迷う場合は、税理士・税務署にご相談ください。
開業前に買ったパソコンの代金は、私用のカードで払ってしまいました。どう記録しますか?
事業のために買ったものであれば、個人のお金で事業の支払いをしたものとして、事業主借で記録するのが一般的です。高額な機器は減価償却が必要な場合があります。扱いはパソコンの減価償却の記事をご覧ください。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。