法人化後の源泉徴収と年末調整|一人会社が役員報酬で行う手続きと期限
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
法人化して自分に役員報酬を払うと、会社は源泉徴収義務者になります。毎月の報酬から所得税を差し引き、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満なら、承認を受けて年2回(7月10日・翌年1月20日)にまとめる「納期の特例」が使えます。
12月には役員本人の分も年末調整をし、翌年1月31日までに源泉徴収票を本人に渡し、市区町村へ給与支払報告書を出します。社員がいない一人会社でも、給与を払う会社としての手続きは一通りそろっています(2026年10月時点)。
法人化すると「引かれる側」から「引く側」になる
個人事業のころは、取引先から支払いを受ける側でした。報酬の種類によっては、取引先が源泉徴収をして残りを振り込み、引かれた分を確定申告で精算していました(報酬から引かれる源泉徴収の記事)。
法人化すると、立場が二つの点で変わります。
- 会社が受け取る報酬:国税庁の案内では、内国法人に支払う報酬で源泉徴収の対象になるのは、馬主である法人に支払う競馬の賞金に限られます。業務委託の報酬を会社で受け取れば、源泉徴収されずに振り込まれるのが基本です
- 会社が払う給与:国税庁によると、会社は給与などを支払う場合に源泉徴収義務者になります。役員報酬は給与にあたるため、自分一人に払う場合でも会社が源泉徴収をします
つまり、税金を「引かれる」場面は減り、自分の会社で「引いて納める」事務が増えます。
最初にそろえる届出と書類
役員報酬を払い始める前後に、次の書類を準備します。
| 書類 | 出す先・渡す先 | 時期 |
|---|---|---|
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 事務所の所在地を所轄する税務署 | 開設から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 同上 | 年2回納付にしたいとき(任意) |
| 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書 | 役員本人が会社に出し、会社が保管 | 給与の支払いを受ける前(年が変わるごとに出し直す) |
扶養控除等申告書を出している人は、源泉徴収税額表の「甲欄」で税額を求め、出していない人は「乙欄」になります。一人会社では本人が書いて本人が受け取る形ですが、出すかどうかで毎月の税額と年末調整の対象かどうかが変わるため、最初に用意しておきます。
設立直後は、法人設立届出書や社会保険の手続きも重なります。設立全体の流れは法人設立の流れの記事、社会保険の手続きは法人化したときの社会保険の記事をご覧ください。
毎月の源泉徴収と納付
毎月やること
- 役員報酬の額から、社会保険料など差し引くものを引く
- 源泉徴収税額表(月額表)で所得税と復興特別所得税の額を求める
- 差し引いた残りを役員本人に支払う
- 預かった税額を、期限までに納付書やe-Taxで納める
役員報酬は定期同額給与にしておくのが原則なので、社会保険料が変わらない限り、毎月の税額も同じになります。定期同額給与の決め方は役員報酬の記事で解説しています。
納付期限と納期の特例
国税庁の案内(令和8年4月1日現在法令等)では、源泉徴収した所得税は、給与を実際に支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満の会社は、納期の特例を使えます。
| 源泉徴収した月 | 原則 | 納期の特例 |
|---|---|---|
| 1月〜6月 | 各月の翌月10日 | 7月10日にまとめて |
| 7月〜12月 | 各月の翌月10日 | 翌年1月20日にまとめて |
納期の特例は、申請書を出した月の翌月に源泉徴収する分から使えます。税務署長から却下の通知がなければ、申請書を出した月の翌月末日に承認されたものとみなされます。納付期限が土日祝日にあたるときは、休日明けの日が期限です。
納期の特例の対象には、給与や退職金のほか、税理士・弁護士・司法書士などへの一定の報酬から源泉徴収した税額も含まれます。会社として個人の税理士に顧問料を払う場合も、源泉徴収した税額をあわせて年2回で納められます。
12月の年末調整
一人会社でも年末調整をする
国税庁の案内では、年末調整は、毎月源泉徴収した税額の合計と、1年間の給与に対する本来の税額を比べて精算する手続きです。対象は、1年を通じて勤務している人や、年の途中で就職して年末まで勤務している人で、扶養控除等申告書を出している人です。1年間の給与の総額が2,000万円を超える人は対象外です。
社長一人の会社でも、役員本人が対象であれば年末調整を行います。
計算の流れ
- 1月1日から12月31日までに支払いが確定した給与の総額を出し、給与所得控除後の金額を求める
- 扶養控除や基礎控除、社会保険料控除、生命保険料控除などの所得控除を差し引く
- 税率をかけて所得税額を出し、住宅ローン控除があれば差し引く
- 102.1%をかけて、所得税と復興特別所得税をあわせた年税額を求める
- 年税額と、1年間に源泉徴収した合計を比べ、多ければ本人に還付し、少なければ不足分を徴収する
控除を受けるには、基礎控除・配偶者控除などの申告書や、保険料控除の申告書を本人から集めます。一人会社では自分で書いて自分で受け取ることになりますが、証明書類も含めて会社の書類として保管しておきます。なお、国税庁の案内には、令和9年分以後は防衛特別所得税も年末調整での精算の対象になることが記されています。
法人化した年の年末調整
年の途中まで会社員として働いていた場合は、前の勤務先の給与も含めて年末調整をします。国税庁の案内では、前の勤務先が発行した源泉徴収票で支払額や源泉徴収された税額を確かめ、確認できない場合は年末調整をせず、本人が確定申告で精算します。
また、年末調整で精算できるのは給与の分だけです。法人化した年に、法人化する前の個人事業の所得があれば、確定申告で全体を精算します。医療費控除のように年末調整で扱えない控除も、確定申告で受けます。
翌年1月に出す書類
源泉徴収票は本人に交付する
給与所得の源泉徴収票は、税務署への提出の要否にかかわらず、すべての受給者に翌年1月31日までに交付します(年の途中で退職した人には退職後1か月以内)。役員本人も受給者です。
税務署・市区町村への提出
国税庁の案内では、令和8年12月31日以前に税務署へ出す源泉徴収票のうち、年末調整をした法人の役員の分は、その年の支払金額が150万円を超える場合に提出の対象でした。
この扱いは変わります。令和9年(2027年)1月1日以後に市区町村へ給与支払報告書を出した場合は、源泉徴収票を税務署に提出したものとみなされ、税務署用の源泉徴収票を別に作って出す必要がなくなります。あわせて、税務署への提出範囲は、年の途中で退職し支払金額が30万円以下の人を除くすべての給与に広がります。2026年分を2027年1月に出す時点から、この新しい扱いになると考えられます。
給与支払報告書は、翌年1月1日に給与を受けている人の住所地の市区町村へ、1月31日までに出します。税理士などに報酬を払った会社は、報酬の支払調書が必要になる場合があり、税務署には法定調書合計表をあわせて出します。
| 書類 | 出す先・渡す先 | 期限 |
|---|---|---|
| 給与所得の源泉徴収票 | 役員本人 | 翌年1月31日 |
| 給与支払報告書 | 本人の住所地の市区町村 | 翌年1月31日 |
| 法定調書合計表(必要な支払調書を含む) | 所轄の税務署 | 翌年1月31日 |
どの書類が自社に必要かは、給与以外の支払いの有無によっても変わります。初めての年は、税理士や税務署に確かめながら進めてください。
自分でやるか、任せるか
一人会社の給与計算は人数が少ない分、作業の量は多くありません。ただ、毎月の税額表の確認、年末調整の控除の判定、1月の法定調書と、年に数回しか触れない作業が続きます。会計ソフトの給与計算の機能を使う方法、年末調整と法定調書だけ税理士に頼む方法など、分担の形はいくつかあります。依頼の判断は税理士に頼むかどうかの記事を参考にしてください。
よくある質問
納期の特例は、いつ申請すればよいですか?
申請書を出した月の翌月に源泉徴収する分から使えます。役員報酬を払い始める月が決まったら、その前の月までに出しておくと、最初から年2回の納付にできます。承認されるまでの月の分は、原則どおり翌月10日までに納めます。
役員報酬を払っていない期間も、源泉所得税の手続きは必要ですか?
給与を払っていなければ、源泉徴収する税額もありません。ただ、届出の要否や、納付書の扱いなどは会社の状況によって変わります。報酬を払わない期間が続く場合や、払い始める時期を変える場合は、税務署や税理士にご確認ください。
法人の口座に入った報酬から、源泉徴収されていないのは問題ないですか?
国税庁の案内では、内国法人に支払う報酬で源泉徴収の対象になるのは、馬主である法人への競馬の賞金に限られます。業務委託の報酬を法人で受け取る場合、源泉徴収されないのが通常です。個人の名義で受け取っていたころの報酬と混ざらないよう、請求書の名義と振込先を法人にそろえておきましょう。
参考にした公的情報・資料
- No.2502 源泉徴収義務者とは(国税庁)
- No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例(国税庁)
- [手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出(国税庁)
- No.2662 年末調整のしかた(国税庁)
- No.2665 年末調整の対象となる人(国税庁)
- No.2674 中途就職者の年末調整(国税庁)
- No.7411 「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と提出枚数等(国税庁)
- No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは(国税庁)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。