合意管轄・準拠法の条項とは|どこの裁判所・どの国の法律で解決するか
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
合意管轄の条項は、契約をめぐって訴訟になったときに、第一審をどこの裁判所で行うかを決める条項です。準拠法の条項は、契約の成立や効力をどの国の法律で判断するかを決めます。どちらも契約書の最後のほうに置かれ、ふだんは意識しない条項ですが、未払いなどで争いになったときの負担を左右します。
国内の案件では、「◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」として、発注者の本店所在地の裁判所が指定されることがよくあります。確かめたいのは、専属的な合意か、自分から遠い裁判所ではないか、海外の相手ならどの国の裁判所と法律かの3点です(2026年10月時点)。
条項がない場合の原則
まず、合意がない場合にどこの裁判所に訴えるのかを知っておくと、条項の意味が分かりやすくなります。
民事訴訟法第4条では、訴えは、被告の普通裁判籍(個人なら住所、法人なら主たる事務所や営業所など)の所在地を管轄する裁判所に起こすのが原則です。あわせて第5条第1号は、財産権上の訴えについて、義務履行地を管轄する裁判所にも訴えを起こせるとしています。
お金の支払いの場所について、民法第484条は、特に意思表示がなければ、債権者の現在の住所で弁済するとしています。報酬の支払いを求める訴えなら、債権者であるフリーランスの住所地が義務履行地となり、その地の裁判所にも訴えを起こせる場合がある、というのが一般的な考え方です。ただし、契約で支払方法や場所を定めている場合などは扱いが変わりうるため、具体的な事案では専門家にご相談ください。
合意管轄の条項の読み方
民事訴訟法第11条では、当事者は第一審に限り、合意で管轄裁判所を定めることができます。この合意は、一定の法律関係にもとづく訴えについて、書面でしなければ効力を生じません。電磁的記録でした合意は、書面でしたものとみなされます。電子契約で結んだ契約書の管轄条項も、この扱いになります。
「専属的」かどうか
管轄の合意には、一般に、指定した裁判所だけで争うとする専属的な合意と、法律上の管轄に加えて指定した裁判所でも争えるとする付加的な合意があると説明されます。契約書に「専属的」とあれば、指定した裁判所以外での訴えを排除する意図だと読まれやすくなります。
| 文言の例 | 読み方の目安 |
|---|---|
| 「◯◯地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」 | 指定した裁判所に限る意図 |
| 「◯◯地方裁判所を第一審の管轄裁判所とすることができる」 | 法律上の管轄に加える意図と読める余地がある |
| 「甲の本店所在地を管轄する裁判所」 | 発注者が移転すると裁判所も変わりうる |
情報処理推進機構(IPA)の「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」も、訴訟を前提にする場合の案として、地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする条項を示しています。
専属的な合意があっても移送されることがある
民事訴訟法第17条は、訴訟がその裁判所の管轄に属する場合でも、当事者や証人の住所などを考えて、著しい遅滞を避けたり当事者間の衡平を図ったりするために必要と認めるときは、ほかの管轄裁判所に移送できるとしています。専属管轄の場合に移送を制限する第20条は、当事者が合意で定めた専属管轄を制限の対象から除いています。
つまり、合意で定めた裁判所でも、事情によっては別の裁判所に移す申立てができる場合があります。認められるかどうかは裁判所の判断です。
プログラムの著作権に関する訴えは扱いが違う
IPAのモデル契約の解説では、プログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えなどは、地域に応じて東京地方裁判所または大阪地方裁判所の管轄とされている(民事訴訟法第6条第1項)一方、合意管轄も認められていると説明しています。報酬の未払いのような争いと、成果物の権利をめぐる争いとでは、どこの裁判所が扱うかの考え方が異なる場合がある、という点は知っておくとよいでしょう。
仲裁や話し合いの条項
紛争解決の方法として、裁判ではなく仲裁を定める契約もあります。IPAのモデル契約は、仲裁機関の仲裁規則による仲裁を定める案と、専属的合意管轄を定める案を並べ、どちらかを選ぶ形にしています。その前段として、紛争を話し合いや調停で解決する手順を置いています。
仲裁の条項があると、原則として裁判所ではなく仲裁で解決することになります。費用や手続の進め方が裁判と違うため、仲裁の条項がある場合は、どの機関の、どこで行う仲裁かを確かめます。
準拠法の条項の読み方
法の適用に関する通則法第7条は、法律行為の成立と効力は、当事者がその当時に選んだ地の法によるとしています。準拠法の条項は、この選択を契約書に書いたものです。
選択がない場合は、第8条により、その法律行為に最も密接な関係がある地の法によります。その法律行為で特徴的な給付を当事者の一方だけが行う場合は、その給付を行う当事者の常居所地法(関係する事業所があればその所在地の法)が、最も密接な関係がある地の法と推定されます。
国内の会社とフリーランスが日本国内で結ぶ契約では、準拠法を書いていないことも多く、ふだん問題になることはあまりありません。意識したいのは、相手が海外の会社の場合です。
なお、通則法には消費者契約や労働契約についての特例(第11条・第12条)がありますが、第11条の「消費者」は事業として契約の当事者となる個人を除いています。業務委託で働くフリーランスは事業者として契約するため、原則としてこの特例の対象にはなりません。
海外の会社と契約するとき
海外の会社と直接契約する場合は、準拠法と管轄の両方が外国になっていることがあります。
民事訴訟法第3条の7は、当事者が合意で、どの国の裁判所に訴えを起こせるかを定められるとし、この合意も一定の法律関係にもとづく訴えについて書面でする必要があるとしています。外国の裁判所だけに訴えを起こせるとする合意は、その裁判所が法律上または事実上裁判権を行えないときは、援用できないとされています。
外国の法律と外国の裁判所が指定されていると、争いになったときに現地の弁護士への依頼や翻訳が必要になり、少額の未払いでは費用が見合わないことがあります。契約の前に、次の点を確かめます。
- 準拠法はどの国(米国なら州)の法律か
- 管轄はどの国のどこの裁判所か、または仲裁か
- 報酬の通貨、為替の扱い、送金手数料の負担
海外からのリモートの働き方については海外からリモートで案件を受ける記事で解説しています。
修正を相談するなら
管轄の条項の修正を相談する場合は、次のような方向があります。
- 「専属的」を外し、付加的な合意にしてもらう
- 「被告の本店所在地または住所地を管轄する裁判所」として、訴えられる側の所在地にそろえる
- 海外の会社との契約で、日本法・日本の裁判所の指定を求める
管轄の条項は、損害賠償や権利の条項に比べると優先度が下がることが多い条項です。どの条項から修正を求めるかの考え方は、契約書のひな形に修正を求めるときの考え方で整理しています。
よくある質問
管轄を自分の住所地の裁判所に変えてもらうことはできますか?
相談することはできますが、取引先は自社の所在地を指定したい事情があることが多く、受け入れられにくい傾向があります。専属的な合意を付加的な合意にする、訴えられる側の所在地にそろえるといった、双方にとって公平な形を提案するほうが話がまとまりやすくなります。
準拠法の定めがない国内の契約は問題がありますか?
国内の会社と日本国内で結ぶ契約では、準拠法の定めがなくても、実務上問題になることは多くありません。相手が海外の会社の場合や、海外に住んで契約する場合は、どの国の法律によるかを明記してもらうと安心です。
管轄の条項があっても、裁判以外の相談窓口は使えますか?
管轄の条項は、訴訟を起こすときの裁判所を決めるものです。行政機関への申出や、裁判外の紛争解決手続を利用することを妨げるものではないと考えられます。使える窓口は取引トラブルの相談先の記事で整理しています。具体的な対応は弁護士などの専門家にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。