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業務委託契約の基礎

損害賠償の条項|上限の考え方とフリーランスが確認するポイント

公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト

業務委託契約の損害賠償の条項で確認したいのは、どんなときに責任を負うか(帰責事由)、どこまでの損害を払うか(範囲)、いくらまでか(上限)、いつまで請求されるか(期間)の4点です。民法には賠償額の上限の定めがないため、上限を設けたいなら契約に書いておく必要があります。

上限がない契約では、ミスで生じた損害が受け取った報酬を大きく超えることもあり得ます。上限の決め方には、その個別契約に定める金額を基準にする形などがあり、どの金額を基準にするかは当事者の合意で決まります。

民法の基本:責任を負うのは「責めに帰すべき事由」があるとき

債務不履行による損害賠償

民法第415条では、債務者が約束どおりに履行しないときや、履行ができなくなったとき、債権者はそれによって生じた損害の賠償を請求できるとしています。ただし、その不履行が、契約や取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賠償しなくてよいとされています。

準委任の場合、受任者は善良な管理者の注意をもって業務を行う義務を負います(民法第644条)。成果が出なかったことだけで責任を負うわけではなく、専門家として通常求められる注意を怠ったかどうかが問題になります。請負の場合は、契約内容に合わない成果物を引き渡したときの責任(契約不適合責任)も関わります。違いは準委任と請負の記事で解説しています。

賠償の範囲

民法第416条では、損害賠償は通常生ずべき損害の賠償を目的とし、特別の事情によって生じた損害でも、当事者がその事情を予見すべきであったときは請求できるとしています。

また、損害の発生や拡大について債権者(発注者)側にも過失があったときは、裁判所はそれを考慮して責任や額を決めます(民法第418条、過失相殺)。

賠償額の予定・違約金

当事者は、あらかじめ損害賠償の額を決めておくことができます(民法第420条)。契約に「違約金」と書かれている場合は、賠償額の予定と推定されます。違約金の定めがあると、実際の損害の大きさにかかわらず、その額が基準になる点に注意が必要です。

上限の定め方の例

公的な機関が示すひな形として、情報処理推進機構(IPA)の「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」があります。その損害賠償の条項は、次のような組み立てになっています。

月数や基準の金額は空欄(◯)になっていて、当事者が決める形です。フリーランスの業務委託契約でも、上限の定め方としては次のような書き方を目にします。

上限の書き方の例読むときのポイント
「当該個別契約の委託料を上限とする」個別契約の期間が長いと上限も大きくなる
「直近◯か月分の委託料を上限とする」何か月分か、税込か税別か
「直接かつ通常の損害に限る」逸失利益などの特別な損害が除かれるか
「故意または重大な過失による場合を除く」上限が外れる場面がどこまでか

上限の定めがあっても、故意や重大な過失がある場合にまで上限が及ぶかは、契約の書き方や事情によって争いになることがあります。IPAの第二版でも、見直しのポイントのひとつに「重大な過失」の明確化が挙げられています。

フリーランスが確認したい6つのポイント

1. 責任を負う条件

「乙の責めに帰すべき事由により」のように、帰責事由がある場合に限られているかを見ます。「乙は、本業務に関して甲に生じた一切の損害を賠償する」のような書き方は、範囲が広く読めるおそれがあります。

2. 範囲

「直接かつ通常の損害」に限るのか、間接損害や逸失利益(得られたはずの利益)まで含むのかを確認します。システムの停止による売上の減少などは、金額が大きくなりやすい損害です。

3. 上限

上限があるか、あればどの金額が基準かを確認します。上限がない場合は、追加を相談する価値があります。

4. 請求できる期間

業務の終了からいつまで請求されうるかを確認します。期間の定めがないと、終了後もしばらく責任を負う可能性が残ります。請負の契約不適合責任については、民法第637条の期間制限や、契約での定めも見ておきましょう。

5. 第三者からの請求

成果物が第三者の著作権などを侵害していると主張された場合の扱いも、損害賠償の一部として定められることがあります。IPAのモデル契約では、ユーザーが第三者から権利侵害を主張されたときの対応を別の条項で定めています。成果物の権利については著作権の記事をご覧ください。

6. 片方だけの義務になっていないか

IPAのモデル契約の損害賠償の条項は「甲及び乙は」と、発注者と受注者の双方に同じルールが当てはまる書き方です。一方、フリーランス向けの契約書では「乙は甲に対し」と、フリーランス側の責任だけが書かれていることがあります。

発注者側の事情(資料の提供の遅れ、仕様の度重なる変更、報酬の支払遅れなど)でフリーランスに損害が出ることもあります。条項が片方だけに向いている場合は、双方に同じ条件で当てはまる書き方にできないか相談してみましょう。上限も、双方に同じ基準で適用されるかを確認しておくと公平です。

報酬からの一方的な差し引きに注意

損害賠償の話とは別に、報酬から一方的に金額を差し引かれることには注意が必要です。

フリーランス新法の「考え方」では、契約の更新が義務でなく、違約金の合意もないのに、更新を断ったフリーランスの報酬から違約金などの名目で差し引くことを、禁止される報酬の減額の例として挙げています。この禁止は、従業員を使う発注者が1か月以上の業務委託をする場合に適用されます。

また、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、取引上優越した発注者が、取引条件を一方的に設定・変更し、フリーランスに不当に不利益を与える場合は、優越的地位の濫用として問題になり得るとしています。

上限の追加を相談するときの伝え方

損害賠償の上限は、発注者にとっても予測可能性を高める条項です。修正を相談するときは、次のように具体的に伝えると話が進みやすくなります。

  1. 条項番号と現在の文言を示す
  2. 「賠償の累計総額は、当該個別契約に定める委託料を上限とする」など、代わりの文言を提案する
  3. 故意・重大な過失の場合の扱いも含めて確認する
  4. 合意した内容は、契約書の修正か覚書で書面に残す

基本契約と個別契約に分かれている場合は、上限の条項がどちらに書かれているか、個別契約で別の上限が定められていないかも確認します。分け方は基本契約と個別契約の記事をご覧ください。

万が一に備えて、業務の内容に応じて賠償責任保険を検討する方法もあります。補償の範囲は保険によって違うため、加入前に約款で確認してください。

よくある質問

損害賠償の上限がない契約書に署名しても大丈夫ですか?

上限がない場合、責任を負う場面では実際の損害額を基準に賠償することになり、報酬を大きく超えることもあり得ます。署名前に、上限の追加や範囲の限定を相談することをおすすめします。修正が難しい場合でも、責任を負う条件や範囲を確認しておきましょう。個別の判断は弁護士などの専門家にご相談ください。

準委任なら、成果が出なくても損害賠償を求められることはありませんか?

準委任では、成果が出なかったことだけで責任を負うわけではありません。ただし、専門家として通常求められる注意を怠り、それによって損害が生じた場合は、注意義務違反として責任を問われることがあります。業務の範囲と役割を契約で明確にしておくことが、責任の範囲をはっきりさせることにつながります。

発注者側の指示ミスが原因の損害も、賠償しなければなりませんか?

損害の発生や拡大に発注者側の過失がある場合は、裁判所がそれを考慮して責任や額を決めます(民法第418条、過失相殺)。指示や仕様の変更はメールなど記録に残る形で受け取っておくと、後で経緯を説明しやすくなります。責任の有無に争いがある場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

参考にした公的情報・資料

記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。

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