所得補償保険とは|フリーランスが働けなくなったときの収入の備え方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
所得補償保険は、病気やケガで働けなくなった期間の収入の減少を補う民間の保険です。会社員なら健康保険の傷病手当金が出ますが、フリーランスが加入する国民健康保険では、傷病手当金は市町村などが任意で行う給付にとどまり、通常の病気やケガでは受け取れないことが一般的です。
そのため、フリーランスは働けない期間の生活費を自分で用意する必要があります。所得補償保険はその手段の一つです。加入を考える前に、公的な給付で何が受け取れるか、貯蓄で何か月しのげるかを確かめ、足りない分を保険で補うかどうかを考えると、過不足のない備えになります(2026年10月時点の制度にもとづきます)。
会社員とフリーランスで「働けない間の収入」が違う
会社員には傷病手当金がある
協会けんぽの健康保険に入っている会社員は、業務外の病気やケガで仕事を休み、給与が出ないときに傷病手当金を受け取れます。協会けんぽの案内では、主な仕組みは次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 業務外の病気・ケガの療養のために仕事に就けないこと |
| 待期 | 連続して休んだ3日間のあと、4日目以降が支給の対象 |
| 1日あたりの額 | 直近12か月の標準報酬月額の平均 ÷ 30 × 3分の2 |
| 支給期間 | 支給を始めた日から通算して1年6か月 |
給与の3分の2程度が、長ければ1年6か月にわたって支給される仕組みです。
国民健康保険の傷病手当金は「任意」
国民健康保険法では、出産育児一時金や葬祭費は市町村などが行うものとされる一方、傷病手当金は「条例又は規約の定めるところにより」「行うことができる」給付と書かれています(第58条)。実施するかどうかは市町村や国民健康保険組合に任されていて、通常の病気やケガで傷病手当金を出す市町村国保は一般的ではありません。お住まいの市町村や加入している国保組合の扱いは、窓口でご確認ください。
つまり、フリーランスが病気で1か月休むと、その月の報酬がほぼそのまま減り、それを補う公的な給付はないと考えておく必要があります。
独立前から療養している場合の継続給付
会社員のときから傷病手当金を受けていた人は、条件を満たせば退職後も受け取り続けられます。協会けんぽの案内では、退職日までに継続して1年以上の被保険者期間(任意継続の期間などを除く)があり、退職日に傷病手当金を受けているか受けられる状態であることが条件です。なお、任意継続の被保険者になってから発生した病気やケガは、傷病手当金の対象になりません。任意継続については任意継続と国民健康保険の記事で比べています。
フリーランスにも残る公的な備え
傷病手当金がなくても、公的な制度がまったくないわけではありません。ただし、どれも対象が限られます。
障害基礎年金
病気やケガで一定の障害の状態になった場合は、障害基礎年金を受け取れることがあります。日本年金機構の案内による主な要件は次の3つです。
- 初診日(その病気やケガで初めて医師の診療を受けた日)に国民年金に加入していること(20歳前などの例外あり)
- 障害等級の1級または2級に該当すること
- 初診日の前日に保険料の納付要件を満たしていること(加入期間の3分の2以上が納付済みか免除、または直近1年間に未納がない、など)
対象になるのは重い障害が残った場合で、数か月の療養で回復するような場合には当てはまりません。また、国民年金の保険料に未納があると、納付要件を満たせないことがあります。払うのが難しいときは、未納のままにせず免除や猶予を申請しておくことが、この備えを保つことにつながります。手続きは国民年金の記事で解説しています。
労災保険の特別加入
業務中や通勤中のケガ・病気であれば、労災保険に特別加入している場合に休業の給付を受けられます。ただし、業務と関係のない病気やケガは対象外です。仕組みは労災保険の特別加入の記事をご覧ください。
所得補償保険の仕組みで確かめたい項目
所得補償保険は、損害保険会社などが扱う保険で、保険によって条件が大きく違います。商品名や保険料の比較はここでは扱わず、どの保険でも確かめておきたい項目を整理します。
| 確かめる項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 支払われる条件 | 「入院中のみ」か「医師の指示による自宅療養も含む」か。どの状態を「働けない」と判断するか |
| 免責期間 | 働けなくなってから何日後から支払いが始まるか |
| 支払対象期間 | 1回の就業不能について、最長で何か月・何年まで支払われるか |
| 保険金額 | 月いくらを受け取れるか。所得をもとに上限が設けられることが多い |
| 対象外になる病気 | 精神疾患や、加入前から治療している病気の扱い |
| 告知と所得の確認 | 加入時に健康状態や所得をどのように申告するか |
短期の補償と長期の補償
所得補償保険には、支払対象期間が1〜2年程度の短期のものと、長期にわたる就業不能に備えるものがあります。短期のものは、数か月の療養で収入が途切れることへの備えです。長期のものは、回復に時間がかかる病気や障害への備えで、障害基礎年金を受け取れない程度の状態をどう補うかという観点で考えます。
「働けない」の判断はフリーランスの仕事に合っているか
フルリモートで設計やドキュメント作成をしている人は、ケガで出歩けなくても作業ができることがあります。反対に、体力的には動けても、集中して頭を使う作業ができない状態もあります。保険の「就業不能」の定義が、自分の仕事の実態とずれていないかを約款で確かめておきましょう。
必要な備えの額を見積もる手順
保険に入るかどうかは、次の順で考えると判断しやすくなります。以下の金額はすべて仮の数字です。
- 働けない間も出ていくお金を書き出す:家賃、食費、通信費などの生活費に加え、国民健康保険料、国民年金保険料、前年の所得にかかる住民税。収入がなくなっても、前年の所得をもとにした税金と保険料は届きます
- 公的な給付を差し引く:労災の特別加入をしているか、障害年金の対象になりうるか
- 貯蓄で何か月しのげるかを出す:仮に毎月の支出が30万円、取り崩せる貯蓄が180万円なら、6か月はしのげる計算
- 足りない期間と額を保険で補うか決める:6か月を超える療養に備えたいなら、免責期間を長めにして保険料を抑える考え方もある
貯蓄が十分にある人は、短期の補償は貯蓄でまかない、長期の補償だけ保険で備える方法もあります。反対に、独立して間もなく貯蓄が少ない時期は、短期の補償の意味が大きくなります。
ほかの備えとの組み合わせ
働けなくなったときの備えは、保険だけではありません。
- 生活防衛資金:まずは数か月分の支出を、すぐ引き出せる形で持っておく
- 小規模企業共済:廃業や退職に備える積み立てで、掛金の範囲内で貸付を受けられる制度もある(小規模企業共済の記事)
- 労災保険の特別加入:業務中・通勤中のケガに備える
- 稼働の調整がしやすい案件:週3日などの案件は、体調に合わせて働き方を組み直しやすい面がある
事業そのものの損害(取引先に与えた損害など)への備えは、所得補償保険とは別の話です。賠償責任保険の記事で整理しています。会社員とフリーランスの手取りや保障の違いを全体で比べたい場合は、手取りの違いの記事をご覧ください。
よくある質問
フリーランスでも傷病手当金を受け取れる場合はありますか?
国民健康保険の傷病手当金は、市町村や国保組合が条例や規約で定めた場合に行う任意の給付です。通常の病気やケガでは対象外のことが一般的ですが、加入している国保組合によっては設けていることもあります。また、会社員のときから受けていた人が条件を満たせば、退職後も継続して受け取れます。
所得補償保険と就業不能に備える保険は何が違いますか?
どちらも働けない間の収入減に備える保険で、呼び方は保険によって違います。比べるときは名前ではなく、支払われる条件、免責期間、支払対象期間、受け取れる額といった中身で比べることをおすすめします。
所得補償保険にはいつ入るのがよいですか?
一般に、健康状態の告知が必要で、加入前からの病気は対象外になることがあります。そのため、健康なうちに検討する方が選択肢は広がります。独立直後は収入の見通しが立ちにくい時期でもあるため、貯蓄の額とあわせて、どの期間を保険で補うかを決めてから検討しましょう。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。