電子契約で業務委託契約を結ぶときの注意点|署名前の確認と締結後の保存
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
業務委託契約は、紙に押印しなくても、電子契約で有効に結べます。民法では、法令に特別の定めがある場合を除き、契約の成立に書面の作成などの方式は必要ないとされているためです。注意したいのは、署名する前に条件と添付書類を見比べること、署名の方式と相手を確かめること、締結後に契約書のデータを保存することの3つです。
この記事では、電子契約の流れに沿って確認する点と、電子署名法・印紙税・電子帳簿保存法・フリーランス法との関係を整理します(2026年10月時点)。
電子契約の基本的な流れ
業務委託で使われる電子契約は、多くの場合、電子契約サービスを使って次のように進みます。
- 発注側(またはエージェント)が契約書のPDFをサービスにアップロードし、署名を依頼する
- フリーランスにメールなどで署名依頼の通知が届く
- 通知のリンクから契約書を開き、内容を確認して署名(同意)する
- 双方の署名が終わると、締結済みの契約書のデータが発行される
- 締結済みのデータをダウンロードし、保存する
フリーランス側がサービスに登録しなくても署名できる形式もあり、操作そのものは数分で終わります。だからこそ、内容を読まずに署名ボタンを押してしまわないことが大切です。
署名の前に確かめる3つのこと
1. 交渉で決めた条件と見比べる
紙の契約書と同じく、署名したら内容に同意したことになります。面談や条件のすり合わせで決めた内容が、契約書に正しく書かれているかを見比べます。
| 見比べる項目 | 確かめること |
|---|---|
| 業務の内容・範囲 | 聞いていた役割と合っているか。範囲が広く書かれていないか |
| 報酬 | 金額、税込か税別か、精算幅と超過・控除の条件 |
| 支払期日 | 締め日と支払日が具体的な日で書かれているか |
| 契約期間 | 開始日・終了日、更新の方法 |
| 解約 | 予告期間、損害賠償の上限 |
契約書全体の読み方は契約書のチェックポイントの記事で整理しています。
2. 添付ファイルと別紙を開く
電子契約では、本文のPDFとは別に、仕様書・業務内容の別紙・秘密保持の誓約書などが添付されていることがあります。画面に最初に表示されるのが本文の1ページ目だけ、ということもあるため、すべてのページと添付ファイルを最後まで開いてから署名します。基本契約と個別契約が同時に送られてくる場合は、両方の関係も確かめます。2つの契約の役割は基本契約と個別契約の記事で説明しています。
3. 送り主と署名する名義を確かめる
署名依頼のメールが、取引先や担当者から届いたものかを確かめます。普段のやり取りと違うアドレスから届いた、急いで署名するよう強く求められる、といった場合は、リンクを開く前に担当者に別の手段で確認すると安心です。
また、署名する名義(個人名か、屋号か、法人か)が、契約の当事者として正しいかも見ておきます。法人化している場合は、個人名で署名してよいのか、会社として署名するのかで、契約の相手が変わります。
電子署名の方式と法律上の扱い
電子署名法の「推定」とは
電子署名法第3条では、本人による電子署名(本人だけが行うことができるものに限る)が行われている電子データは、真正に成立したもの(本人の意思で作られたもの)と推定するとされています。紙の契約書で、本人の押印があれば本人が作ったものと推定されるのと似た役割です。
立会人型(事業者署名型)と当事者型
電子契約サービスには、大きく2つの方式があります。
| 方式 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 立会人型(事業者署名型) | 利用者の指示にもとづき、サービス事業者が自分の署名鍵で電子署名を行う | 受け取る側は事前の準備がほとんど要らない |
| 当事者型 | 当事者がそれぞれ自分の電子証明書を用意して署名する | 本人の確認の度合いは高いが、証明書の準備が必要 |
立会人型について、総務省・法務省・経済産業省のQ&Aは、利用者とサービス事業者の間の手続と、事業者内部の手続の両方で十分な固有性が満たされる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当し得るとしています。利用者側の手続の例として、登録したメールアドレスとパスワードに加え、SMSなどで受け取るワンタイムパスワードを入力する2要素の認証が挙げられています。
同じQ&Aは、サービスによって身元確認の水準やなりすましへの備えはさまざまであり、契約の重要性や金額に応じて適切なサービスを選ぶことが適当としています。最終的に推定が認められるかは、個別の事情を踏まえて裁判所が判断する事柄です。
フリーランスが受け取る側の場合、サービスを選ぶのは発注側であることがほとんどです。それでも、2要素の認証を求められたら設定する、署名用のメールアドレスを他人と共有しない、といった基本は自分で守れます。
印紙税:電子契約のデータには課税されない
紙の契約書では、内容によって印紙税がかかります。例えば国税庁は、仕事の完成に対して報酬を支払う請負の契約書を「請負に関する契約書(第2号文書)」としており、記載された契約金額に応じて印紙税がかかります。営業者間で継続する取引の基本的な条件を定める契約書は、「継続的取引の基本となる契約書(第7号文書)」にあたることがあります。
一方、国税庁の質疑応答事例では、印紙税の課税対象は課税物件表に掲げられた「文書」であり、電磁的記録は文書に含まれないため、電子データには印紙税は課税されないとしています。
ただし、どの文書にあたるか、紙と電子をどう使い分けたかで扱いが変わることがあります。紙の契約書を作る場合や判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認してください。
締結後は契約書のデータを保存する
電子帳簿保存法の「電子取引」にあたる
電子帳簿保存法では、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書などに通常書かれる取引情報を、電子的な方法でやり取りする取引を「電子取引」としています。所得税や法人税の保存義務者は、電子取引を行った場合、その取引情報のデータを保存しなければなりません(同法第7条)。
電子契約で締結した契約書は、この電子取引のデータにあたります。締結が終わったら、完了通知のリンクなどから締結済みのPDFをダウンロードし、自分の手元に保存しておきます。保存の要件と、個人で回せる手順は電子帳簿保存法の記事で整理しています。
サービスに残っているから大丈夫、とは限らない
締結済みの契約書は、電子契約サービスの上にも残ります。ただし、フリーランス側がサービスのアカウントを持っていない場合、あとから見られる期間が限られていることがあります。契約が終わってから数年後に内容を確かめたくなることもあるため、自分で保存しておくのが安全です。
保存するときは、ファイル名に「取引先名・契約の種類・締結日」を入れ、取引先ごとのフォルダに分けておくと、あとで探しやすくなります。
フリーランス法の「明示」との関係
フリーランス法第3条では、業務委託をした発注者は、仕事の内容・報酬の額・支払期日などを、書面または電磁的方法で直ちに明示しなければなりません。この義務は、従業員の有無にかかわらず、すべての発注者にかかります。
「考え方」では、電磁的方法には電子メールのほか、SMSやSNSのメッセージ機能のうち、送信者が受信者を特定して送るものが含まれるとされています。発注者は、電磁的方法で明示することについて、事前にフリーランスの承諾を得る必要はありません。一方、フリーランスは、電磁的方法で明示された場合でも、その内容を記載した書面の交付を求めることができ、発注者は原則として遅滞なく交付しなければならないとされています。
つまり、電子契約や発注メールで条件を受け取ること自体は問題ありません。紙でも手元に置いておきたい場合は、書面の交付を求められます。明示が必要な事項は取引条件の明示の記事で確認できます。
よくある質問
電子契約を断って、紙の契約書にしてもらうことはできますか?
相談することはできます。契約の方式は当事者の合意で決められるため、発注側が応じれば紙の契約書で結べます。ただし、発注側の社内の手続が電子契約に統一されていることもあります。条件の明示については、フリーランス法で書面の交付を求めることができるので、紙で手元に置きたい場合はその方法も使えます。
署名した後で、内容の間違いに気づきました。どうすればよいですか?
すぐに相手に連絡し、どこが合意した内容と違うかを具体的に伝えます。修正の方法は、契約を結び直す、変更の合意書を交わすなど、相手と相談して決めます。修正が済むまでのやり取りは、メールなど記録が残る形で行っておきましょう。
電子契約サービスのアカウントを作らないと署名できませんか?
立会人型のサービスでは、受け取る側がアカウントを作らなくても、届いたメールのリンクから署名できる形式があります。ただし、本人確認のためにワンタイムパスワードの入力を求められることがあります。アカウントを作らない場合は、締結済みのPDFを自分でダウンロードして保存しておくことが大切です。
参考にした公的情報・資料
- 民法(e-Gov法令検索)
- 電子署名及び認証業務に関する法律(e-Gov法令検索)
- 利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)(総務省・法務省・経済産業省/デジタル庁掲載)
- 取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い(国税庁 質疑応答事例)
- No.7102 請負に関する契約書(国税庁)
- 電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(e-Gov法令検索)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(公正取引委員会・厚生労働省、令和8年10月1日改正)
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