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業務委託契約の基礎

偽装請負とは|指揮命令の線引きとフリーランスが注意すること

公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト

偽装請負とは、契約は請負や準委任(業務委託)の形をとっているのに、実態として発注者が働き手に直接、仕事の進め方や働く時間を指示している状態をいいます。派遣か請負かは契約の名前ではなく実態で判断される、というのが厚生労働省の考え方です。

フリーランス本人にとっての論点は、自分の働き方が「労働者」と判断されるほど指揮命令を受けているかどうかです。線引きの基準を知っておくと、参画前の確認や、参画後に違和感を持ったときの判断がしやすくなります。

偽装請負は「契約の形」と「実態」がずれた状態

労働者派遣は、派遣元に雇われた労働者が、派遣先の指揮命令を受けて働く形です。これに対して請負は、仕事の完成を目的とする契約で(民法632条)、注文主と働き手の間に指揮命令関係が生じない点が派遣との違いです。準委任も同じく、発注者が受注者側の働き手に直接指揮命令しないことが前提です。

厚生労働省の「労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド」は、一般に偽装請負と呼ばれるものを次の2つに整理しています。

  1. 実態が労働者派遣であるもの:請負や準委任の契約なのに、発注者が受注者の雇用する労働者に直接指揮命令している。労働者派遣法に違反する
  2. 形式と実態がずれた個人への再委託:雇用契約のない個人事業主に再委託しているが、実態からその人が労働基準法上の労働者と判断されるなど、契約の形式と一致しない

フリーランスが関係しやすいのは2つめです。同じガイドは、フリーランスでも契約の名称にかかわらず、実態から労働者性が認められれば労働基準法などが適用される「労働者」になると説明しています。

指揮命令の線引きは「37号告示」が基準

派遣と請負の区分は、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)で判断されます。受注者が適正な請負・準委任と認められるには、大きく2つの条件を満たす必要があります。

ITの現場に当てはめると、次のように整理できます。

場面適正と考えられる形偽装請負と判断されやすい形
作業の指示発注者は受注者の責任者に要望・注文を伝える発注者の社員が受注者側の担当者に作業手順を直接指示する
働く時間実施日時は事前に取り決め、受注者側で管理する発注者が始業・終業や残業を直接指示する
配置誰を充てるかは受注者が決める発注者が特定の人を指名したり、就業を拒否したりする
不具合への対応発注者が受注者に工程の見直しや作り直しを求める発注者が担当者個人に作り直しを直接命じる

ガイドのQ&Aでは、業務と関係のない日常会話は指揮命令にあたらないこと、発注者から受注者への作り直しの要求は契約当事者間のやり取りであり偽装請負にはあたらないことが示されています。一方で、発注者が担当者に直接、作業工程の変更や作り直しを指示すれば、直接の指揮命令と判断されます。

フリーランス本人の場合は「労働者性」で判断される

フリーランスが発注者と直接、または仲介会社を通じて業務委託契約を結んでいる場合は、労働基準法上の「労働者」にあたるかどうか(労働者性)が問われます。厚生労働省は、契約の形式や名称にかかわらず、実態を見て個別に総合判断するとしています。

判断の中心は「使用従属性」で、次の要素で見ます。

判断の要素見られるポイント労働者性を強める例
諾否の自由仕事の依頼を断れるか特別な理由がない限り、指示された業務を断れない
業務遂行上の指揮監督進め方を具体的に指示されるか予定されていない業務まで指示で担当させられる
拘束性勤務場所・時間が指定され管理されるか業務の性質と関係なく、勤務時間を管理される
代替性自分の判断で他の人に任せられるか補助者を使うことも認められない
報酬の労務対償性報酬が時間の対価になっているか時間給・日給で計算され、働かなかった時間分が減額される

このほか、機械や器具を自分で負担しているか(事業者性)、特定の発注者への専属性の程度なども補強的に考慮されます。

注意したいのは、どれか1つにあたれば即座に労働者になるわけではない点です。「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」は、設計図や仕様書による指示が、通常の注文者が行う程度のものであれば指揮監督関係を肯定する要素にならないとしています。勤務時間の指定も、他の工程との調整など業務の性質によるものか、業務を指揮命令するためのものかを見極める必要があるとされています。

IT案件で線引きが問題になりやすい場面

アジャイル開発・チームへの参画

厚生労働省のQ&A(第3集)は、アジャイル型開発について考え方を示しています。準委任契約でも、実態として発注者と受注者側の担当者の間に指揮命令関係があれば、契約の形式を問わず労働者派遣にあたるとしています。

一方で、発注者側と受注者側が対等な関係で協働し、受注者側の担当者が自律的に判断して開発を進めている実態があれば、偽装請負とは判断されないとされています。具体的には次のような整理です。

Q&Aは、こうした考え方がアジャイル型以外のシステム開発にも当てはまるとしています。

常駐案件・勤怠の扱い

客先に常駐する案件では、入館のルールや情報セキュリティの規程に従うよう求められることがあります。ガイドは、安全衛生や機密保持など合理的な理由で発注者が服務規律に関与しても、それだけで直ちに適正な請負でないとはされないとしています。

気をつけたいのは、発注者が始業・終業時刻を指示して遅刻を管理したり、残業を命じたりする運用です。稼働時間の報告は精算のために必要ですが、時間の「把握」と「指示・管理」は別のものとして扱われます。

偽装請負が問題になるとどうなるか

実態が労働者派遣と判断されれば、受注者・発注者は労働者派遣法違反を問われることになります。フリーランス本人が労働者と判断されれば、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法などのルールが適用される対象になります。

ただし、労働者と認められるかどうかは個別の事情を踏まえた総合判断です。自分で決めつけず、記録を残したうえで相談窓口や専門家に確認することが大切です。

参画前と参画後に確かめておきたいこと

参画前には、次の点を面談や契約書で確認しておくと、ずれを防ぎやすくなります。

  1. 契約形態と業務範囲:準委任か請負か。何を担当し、何は担当しないのか
  2. 依頼の窓口:作業の依頼や変更の相談を誰から受けるのか
  3. 稼働時間の決め方:精算のための時間報告なのか、始業・終業の指示があるのか
  4. 作業場所:常駐か、リモートか。常駐の場合、その理由(機密保持・設備など)は何か
  5. 報酬の決め方:月額と精算幅なのか、時間単価なのか

参画後に「話が違う」と感じたら、まず契約の窓口(仲介会社がいる場合はその担当者)に状況を伝え、業務の進め方を整理してもらうのが現実的です。契約の名前ではなく実態で判断されるため、運用を直すことが一番の予防になります。

困ったときの相談先

取引上のトラブル全般の相談先はフリーランスの相談先の記事にまとめています。個別の判断が必要な場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。

よくある質問

客先の定例会議やチャットに参加すると偽装請負になりますか?

参加するだけでは偽装請負にはなりません。厚生労働省のQ&Aでも、双方の関係者が会議やチャットに参加していても、対等な関係で情報共有や助言が行われ、受注者側が自律的に業務を進めていれば偽装請負とは判断されないとしています。問題になるのは、その場で業務の進め方や労働時間を直接指示される場合です。

稼働時間を報告するのは指揮命令にあたりますか?

精算のために稼働時間を報告すること自体は、直ちに指揮命令にはあたりません。37号告示の判断基準では、労働時間の「単なる把握」と、始業・終業や残業の「指示その他の管理」を分けて考えています。発注者から勤務時間を指示され、遅刻を管理されるような運用になっていないかを確認してください。

偽装請負かもしれないと思ったら、どこに相談すればよいですか?

自分が労働者にあたるのではないかと考える場合は、労働基準監督署の「労働者性に疑義がある方の労働基準法等違反相談窓口」に相談できます。取引上のトラブルとして弁護士に相談したい場合は、無料のフリーランス・トラブル110番も利用できます。相談の前に、指示を受けた記録や契約書を手元にそろえておくと話が進めやすくなります。

参考にした公的情報・資料

記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。

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