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確定申告・所得税

事業主貸・事業主借とは|仕訳の例と年末に元入金へまとめる流れ

公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト

事業主貸(じぎょうぬしかし)は、事業のお金を個人のために使ったときに使う勘定科目です。事業主借(じぎょうぬしかり)は、その逆で、個人のお金を事業のために使ったときや、事業の帳簿に入ってきた事業以外の収入を記録するときに使います。

どちらも、事業の所得の計算には入らない「お金の移動」を記録するための科目です。年末には残高を元入金にまとめ、翌年はゼロから記録を始めます(2026年10月時点で確認できる国税庁の手引きにもとづきます)。

事業用口座とカードを分けたうえでのお金の流れの決め方は事業用口座の記事で整理しています。この記事では、科目そのものの意味と、仕訳・年末の処理を中心に解説します。

2つの科目が必要になる理由

個人事業では、事業のお金と生活のお金を同じ人が扱います。事業用口座から生活費を引き出したり、私用のカードで仕事の本を買ったりすることは避けられません。

こうした取引を、売上や経費として記録してしまうと所得が正しく計算できません。かといって記録しなければ、帳簿の残高と通帳の残高が合わなくなります。そこで、所得に影響させずに、事業と個人の間の移動だけを記録するための科目として、事業主貸と事業主借を使います。

科目意味帳簿上の位置
事業主貸事業から個人へ出ていったお金(事業が事業主に「貸した」)貸借対照表の資産の側
事業主借個人から事業へ入ってきたお金(事業が事業主から「借りた」)貸借対照表の負債・資本の側

名前に「貸」「借」とありますが、実際に返済する貸し借りではありません。事業を一つの会社のように見立てたときの、お金の向きを表した名前です。

事業主借で記録するもの

国税庁の「帳簿の記帳のしかた」では、事業主借は家計用の現金を事業用に充てるような場合に使う勘定科目と説明されています。貸借対照表作成の手引きでは、事業主から受け入れた事業資金や預金利息などの事業以外の収入を事業主借で整理するとし、例として次のものを挙げています。

フリーランスの実務では、次のような場面が当てはまります。

場面仕訳の例(借方/貸方)
私用のカードで技術書を買った新聞図書費/事業主借
事業用口座の残高が足りず、個人口座から入金した普通預金/事業主借
事業用口座に預金利息が入った普通預金/事業主借
開業前の支出を事業に引き継いだ開業費など/事業主借

預金利息を売上にしないのは、利子は事業所得ではなく別の所得として扱われるためです。開業前の支出の扱いは開業費の記事をご覧ください。

事業主貸で記録するもの

事業主貸は、事業のお金が事業以外に出ていったときに使います。国税庁の手引きの記載例でも、生活費として現金を引き出した取引や、通信費のうち家事分を振り替えた取引が事業主貸で記録されています。

場面仕訳の例(借方/貸方)
事業用口座から生活費を個人口座へ移した事業主貸/普通預金
事業用口座から所得税・住民税を納めた事業主貸/普通預金
事業用口座から国民健康保険料・国民年金保険料を払った事業主貸/普通預金
報酬から源泉徴収税額を差し引かれて入金された普通預金・事業主貸/売掛金
年末に通信費のうち私用分を経費から外した事業主貸/通信費

源泉徴収された税額は所得税の前払いなので、経費ではなく事業主貸で記録し、確定申告で精算します。詳しくは源泉徴収の記事で解説しています。国民健康保険料や国民年金保険料は、経費ではなく社会保険料控除で差し引くものです。控除の受け方は社会保険料控除の記事をご覧ください。

家事按分を年末にまとめて行う場合

自宅の家賃や通信費を事業用口座から全額払っている場合、1年分をいったん経費として記録し、年末に私用の割合の分を事業主貸に振り替える方法があります。月ごとに按分してもかまいませんが、年末にまとめると記帳の手間が減ります。割合の決め方は家事按分の記事で整理しています。

年末は元入金にまとめて、翌年はゼロから

事業主貸と事業主借は、1年分の移動を記録したら、年末に元入金に吸収させます。国税庁の手引きでは、元入金は法人の資本金にあたるもので、期末(12月31日)の元入金は期首(1月1日)と同じ額です。翌年の期首の元入金は、次のように計算されます。

翌年の期首の元入金=期首の元入金+青色申告特別控除前の所得金額+事業主借-事業主貸

計算の流れを仮の数字で示します。

項目金額
今年の期首の元入金100万円
青色申告特別控除前の所得金額+500万円
事業主借の合計+20万円
事業主貸の合計-450万円
翌年の期首の元入金170万円

翌年の貸借対照表では、事業主貸と事業主借はゼロから始まります。手引きでは、翌期首の元入金は、翌年の期首の資産の合計から負債の合計を差し引いても求められるとされています。会計ソフトでは、年をまたぐ処理でこの計算が自動で行われることが多いですが、仕組みを知っておくと、残高が合わないときに原因を探しやすくなります。

開業した年の元入金

手引きでは、事業を始めた年や、白色申告から青色申告に変えた年の期首の元入金は、資産の部の現金・預金・減価償却資産(未償却残高)などの合計になるとされています。開業時に事業用口座に入れたお金が、最初の元入金の中心になります。

事業主貸・事業主借の残高は「返す」ものではない

年末に事業主貸の残高が大きくても、事業主が事業に返済する必要はありません。事業主借の残高も同じで、事業が事業主に返すお金ではありません。どちらも元入金に吸収されて、翌年はゼロから記録が始まります。名前に引きずられて、年末に個人口座と事業用口座の間でお金を戻す必要はない、と覚えておきましょう。

貸借対照表と損益計算書の所得が合わないとき

青色申告で貸借対照表を作ると、貸借対照表から求めた所得と、損益計算書の所得が一致するはずです。国税庁の手引きでは、一致しない場合は計算の誤りや事業主貸・事業主借の計上漏れがないか、帳簿を点検して一致させるよう案内しています。

よくある原因は次のとおりです。

  1. 私用のカードで払った経費を記録していない:経費だけ入れて事業主借を入れていない、またはその逆
  2. 生活費の引き出しを記録していない:通帳の残高と帳簿の残高がずれる
  3. 報酬の入金を事業主借にしている:売上の計上漏れになる
  4. 源泉徴収税額を記録していない:売上と入金額の差が説明できない

点検しても一致しない原因が、単純な計算誤りなど軽微なものと認められる場合に限り、当面はその差額を事業主貸または事業主借で調整し、その内容を記録しておくこともやむを得ないとされています。ただ、これは例外の扱いです。毎月、通帳と帳簿の残高を合わせておく方が安心です。

よくある質問

事業主貸が多いと、税金が増えたり税務調査で不利になったりしますか?

事業主貸は所得の計算に入らない科目なので、金額が多くても税額は変わりません。生活費や税金、社会保険料を事業用口座から払っていれば、事業主貸が大きくなるのは自然なことです。大切なのは、経費として扱うべきでないものが事業主貸に正しく分けられていることです。

白色申告でも事業主貸・事業主借は使いますか?

白色申告では貸借対照表の作成は求められていないため、簡易な帳簿では使わないこともあります。ただ、事業用口座の残高と帳簿を合わせるには、事業と個人の間の移動を記録する必要があります。会計ソフトを使う場合は、白色申告でも事業主貸・事業主借で記録する形が一般的です。

法人化した後も事業主貸・事業主借は使いますか?

事業主貸・事業主借は、個人事業の帳簿で使う科目です。法人では、会社と代表者は別の人格として扱われ、お金の移動は役員報酬や貸付金・借入金などで記録します。法人化を考えている場合の帳簿の扱いは、税理士にご相談ください。

参考にした公的情報・資料

記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。

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