書籍・セミナー・資格の費用は経費になる?|フリーランスの判断の基準と記録の残し方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
書籍・セミナー・資格の費用は、今の業務の遂行に直接必要な知識や技能を身につけるためのもので、そのために通常必要とされる金額であれば、必要経費にできます。所得税基本通達37-24が、業務を営む人の技能の習得や研修の費用について、この考え方を示しています。
一方で、今の業務との関係が薄い学習や、私生活にも役立つ学習は、家事上の費用と業務の費用が混ざったものとして扱われ、判断が分かれます。この記事では、2026年10月時点の国税庁の通達と説明をもとに、学習の費用を経費にするときの考え方と、記録の残し方を整理します。個別の判断は税理士・税務署にご相談ください。
判断のよりどころは「今の業務に直接必要か」
国税庁は、事業所得や雑所得の必要経費を、収入を得るために直接要した費用と、その年に生じた販売費・一般管理費その他業務上の費用と説明しています。学習の費用は、このうち業務上の費用として考えます。
学習の費用について、所得税基本通達37-24は次のように定めています。
- 業務を営む人(またはその使用人など)が
- 業務の遂行に直接必要な技能や知識の習得、研修などを受けるための費用は
- その習得や研修のために通常必要とされるものに限り、必要経費に算入する
ポイントは「直接必要」と「通常必要」の2つです。今の案件で使う技術の書籍や、担当している業務の分野の研修は説明しやすい一方、将来に備えた幅広い教養や、業務と関係のない趣味の学習は説明が難しくなります。
私用の面もある支出は、家事関連費として扱われます。通達45-2は、業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定し、50%以下でも業務に必要な部分を明らかに区分できればその部分を経費にしてよいとしています。経費全体の考え方は経費にできるものの記事、割合の決め方は家事按分の記事で解説しています。
支出の種類ごとの考え方
| 支出 | 考え方の目安 | 迷いやすい点 |
|---|---|---|
| 技術書・電子書籍 | 担当業務の技術や分野の本は説明しやすい | 小説や一般向けの読み物は業務との関係が説明しにくい |
| 技術系の有料記事・学習サービスの月額料金 | 業務で使う技術の学習なら説明しやすい | 動画配信など私用と共通のサービスは按分を考える |
| セミナー・勉強会・カンファレンスの参加費 | 業務の分野の内容なら説明しやすい | 交流会の飲食部分は会議費・交際費の考え方になる |
| オンライン講座・研修 | 今の業務に必要な技能なら説明しやすい | 高額な講座は「通常必要」の範囲かを見る |
| 資格の受験料・対策講座 | 業務の遂行に直接関わる資格は説明しやすい | 今の業務と関係の薄い資格は判断が分かれる |
| 語学の学習 | 英語での会議や資料作成が業務にある場合は説明の材料になる | 日常会話や旅行向けの学習は私用の面が強い |
| 大学・大学院などの学費 | 業務との直接の関係を具体的に説明できるかがポイント | 学位の取得そのものが目的だと説明が難しい |
表は判断の目安で、同じ支出でも、業務の内容や学ぶ中身によって結論が変わります。たとえばクラウドの設計を担当している人のクラウド認定資格の受験料と、今の業務とは別分野の資格の受験料では、説明のしやすさが違います。
勉強会のあとの懇親会の費用や、講師と食事をしたときの費用は、学習の費用ではなく会議費・交際費として考えます(会議費・交際費の記事)。遠方のセミナーやカンファレンスに参加するための交通費・宿泊費は、旅費として扱います(出張の旅費の記事)。
判断が分かれやすい場面
次の案件に向けた新しい分野の学習
今の案件ではまだ使っていないものの、次に入りたい案件のために新しい言語やクラウドを学ぶ、という場面はよくあります。通達37-24の「業務の遂行に直接必要」に照らすと、今の業務との関係が説明できるほど判断しやすく、関係が遠いほど判断が分かれます。
説明の材料になるのは、その学習が今の業務の延長にあるか、すでに受けている問い合わせや案件の条件に関係しているか、といった点です。学ぶテーマの決め方は学習時間の作り方の記事、資格の選び方は資格の記事で解説しています。
独立する前の学習
事業を始める前に、開業の準備のために特別に支出した費用は、開業費として扱われることがあります。開業費は繰延資産で、開業後に償却して経費にします。会社員時代の自己啓発の費用が、すべて開業費になるわけではありません。考え方は開業費の記事をご覧ください。
家族と共有する書籍やサービス
家族も読む本や、家族で使う学習サービスは、業務に使う部分を区分できるかがポイントです。業務用のアカウントを分ける、業務に使う本は仕事部屋に置くなど、使い方を分けておくと説明しやすくなります。
取引先が費用を負担する研修
案件のために取引先が研修の費用を負担してくれる場合、取引先が研修の運営会社へ直接支払ったのであれば、自分は支出していないため、自分の経費にはなりません。いったん自分で立て替えて、あとから取引先に精算してもらう場合は、受け取った額と支払った額の両方をどう処理するかを決めておく必要があります。受け取った分を収入に入れずに、支払った分だけを経費にすると、二重に差し引くことになります。精算の考え方は交通費・経費の負担の記事が参考になります。
会社員の副業の場合
副業で業務委託を受けている会社員も、副業の所得を計算するときは同じ考え方で必要経費を差し引きます。ただし、学習の内容が本業の会社の仕事のためのものなら、副業の経費として説明するのは難しくなります。どちらの仕事のための学習かを分けて考えましょう。
年額のサブスクを払ったときの経費の時期
学習サービスや技術系メディアの年額プランを、年の途中で一括で払うこともあります。必要経費は、その年に債務が確定した金額が原則で、翌年分の役務に対応する前払いの部分は、本来は翌年の経費です。
ただし、所得税基本通達37-30の2は、短期の前払費用について特例的な扱いを示しています。支払った日から1年以内に提供を受ける役務の費用を支払い、その額を継続して支払った年の必要経費にしている場合は、それが認められるとされています。年によって扱いを変えると、この扱いから外れるおそれがあるため、毎年同じ方法で処理します。
勘定科目と記録の残し方
勘定科目
書籍や有料記事は「新聞図書費」、セミナーや研修、受験料は「研修費」で処理するのが一般的です。科目名は帳簿の付け方によって変わり、どの科目を使っても経費になるかどうかの判断は変わりません。毎年同じ科目を使うことが大切です。科目の選び方は勘定科目の記事で解説しています。
残しておきたい記録
- 領収書・購入履歴(電子書籍やサービスは注文確認メール)
- セミナーや講座の内容が分かるもの(案内ページの控え、受講証明、資料)
- 何の業務のための学習かのメモ(例:「担当中の案件でのデータ基盤の設計のため」)
- 資格の受験票・合否通知
あとから「なぜこの支出が業務に必要だったのか」と聞かれたときに、内容と目的を説明できる状態にしておくのが目的です。帳簿や書類の保存期間は書類の保存の記事で確かめてください。
よくある質問
資格試験に落ちた場合も、受験料は経費になりますか?
経費になるかどうかは、合否ではなく、その資格の知識が業務の遂行に直接必要かどうかで考えます。業務との関係が説明できる資格であれば、不合格でも受験料が経費になる余地はあります。ただし、同じ資格の受験を何度も繰り返している場合などは、個別の事情によって判断が変わることがあるため、税理士・税務署にご相談ください。
英会話教室の費用は経費になりますか?
英語での会議や資料作成が業務に含まれていて、そのための学習であれば、説明の材料になります。一方、日常会話や旅行に向けた学習の色合いが強い場合は、私用の面が大きくなります。業務での英語の使い方と、受講した内容の記録を残しておきましょう。判断に迷う場合は税理士・税務署にご相談ください。
業務で使うかもしれない本をまとめて買ったときは?
今の業務や、具体的に見込まれる業務と関係のある本であれば、経費として説明しやすくなります。「いつか役に立つかもしれない」という程度の本は、業務との関係を説明しにくくなります。購入した本ごとに、どの業務のためかを簡単にメモしておくと、後から説明しやすくなります。
参考にした公的情報・資料
- No.2210 必要経費の知識(国税庁)
- 所得税基本通達37-24 技能の習得又は研修等のために支出した費用・37-30の2 短期の前払費用(国税庁)
- 所得税基本通達45-1・45-2 家事関連費(国税庁)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。