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独立・開業の準備

退職した会社から業務委託で仕事を受けるときの注意点|競業・秘密・指揮命令

公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト

退職した会社から業務委託で仕事を受けること自体は、珍しいことではありません。注意したいのは、①退職時の誓約書や就業規則にある競業避止・秘密保持の定め、②在職中に知った情報をどこまで使えるか、③元の上司の指示で会社員と同じように働く「偽装請負」の3点です。

元の会社との関係が良いほど、「いつもどおり」で話が進み、契約の中身があいまいになりがちです。この記事では、よくある場面ごとに確かめたいことを整理します。個別の契約の有効性や違反にあたるかの判断は、弁護士などの専門家にご相談ください。

よくある3つの場面

場面主な論点
元の上司から「辞めた後も、今のプロジェクトを手伝ってほしい」と頼まれる指揮命令(偽装請負)、契約条件の書面化
在職中に担当していた顧客から「個人で直接受けてくれないか」と声がかかる退職時の誓約書・競業避止、元の会社との関係
元の会社の資料やノウハウを、独立後の仕事で使いたくなる秘密保持、営業秘密

場面1:元の上司から「辞めた後も手伝ってほしい」と頼まれる

退職を伝えたときに、元の上司から業務委託での継続を打診されることがあります。引き継ぎが終わっていない、後任が見つからないといった事情があり、会社にとっても本人にとっても合理的な話になりやすい場面です。

会社員のときと同じ働き方になっていないか

注意したいのは、契約の名前が業務委託に変わっても、実態が会社員のときと同じケースです。たとえば次のような状態です。

厚生労働省は、労働基準法上の「労働者」に当たるかどうかを、契約の形式や名称にかかわらず、仕事の依頼への諾否の自由、業務遂行上の指揮監督、時間や場所の拘束性などから個別の事案ごとに総合的に判断するとしています。また、労働者派遣と請負の区分についても、契約の形式ではなく実態に即して判断されるとしています。請負や準委任の形をとりながら、発注者が直接指揮命令する実態は「偽装請負」として問題になり得ます。

確かめておきたいこと

「引き継ぎが終わるまで」とだけ決めて始めると、期間がずるずると延び、別の案件を受ける時期を決められなくなります。最初の契約期間を区切り、続ける場合は更新の時点で条件を見直す形にしておくと、元の会社にとっても予定が立てやすくなります。

元の上司は、社員に対する指示の出し方に慣れています。最初に「業務委託なので、作業の進め方はこちらで決めて、進み具合と成果で報告させてください」と話しておくと、お互いに線引きしやすくなります。線引きの考え方は偽装請負の記事で詳しく解説しています。

場面2:在職中の顧客から直接声がかかる

在職中に担当していた顧客から、「辞めたなら個人で受けてくれないか」と声がかかることもあります。この場面では、元の会社との約束を確かめるのが先です。

退職時の誓約書と就業規則を読み返す

退職時に、競業避止や顧客との取引の制限、秘密保持について誓約書に署名していることがあります。就業規則に定めがある場合もあります。読み返すときは、次の点を見ます。

退職後の競業避止の定めは、職業選択の自由との関係で、範囲や期間、代わりの措置の有無などから有効性が争われることがあります。ただし、有効かどうかは個別の事情で判断されます。自分で「無効だろう」と決めつけず、気になる場合は弁護士に相談してから動く方が安全です。条項の読み方は競業避止の条項の記事で解説しています。

元の会社に先に話を通す選択肢

元の会社が今も取引を続けている顧客であれば、直接受けることは元の会社と顧客の関係に影響します。誓約書などに定めがない場合でも、元の会社に事情を説明し、了承を得てから受ける方が関係はこじれにくくなります。元の会社を通して業務委託を受ける形に整理できることもあります。

場面3:在職中の情報やノウハウを使いたくなる

元の会社の仕事を受けるときも、別の会社の仕事を受けるときも、在職中に知った情報の扱いは問題になりやすい点です。

法律上の「営業秘密」

不正競争防止法は、「営業秘密」を、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもの、と定めています(第2条第6項)。顧客リスト、システムの設計資料、ソースコード、価格の情報などは、管理の状態によってはこれに当たる可能性があります。

身につけた技術と、会社の情報を分けて考える

在職中に身につけた一般的な技術や経験を、独立後の仕事に生かすことは通常の範囲です。一方、元の会社の資料やコードを手元に持ち出して使うこと、顧客の情報をもとに営業することは、誓約書や秘密保持の約束、法律に反するおそれがあります。

元の会社から業務委託を受ける場合は、在職中の約束とは別に、業務委託としての秘密保持契約を結ぶことがあります。その際は、秘密情報の範囲、守る期間、終了時の返却・廃棄、実績としてどこまで話せるかを確かめます。確認のポイントは秘密保持契約の記事をご覧ください。

元の会社からの一方的な条件に注意する

元の会社との力関係は、退職後も残りやすいものです。報酬を在職中の給与から逆算されたり、他の会社の仕事を受けないよう求められたりすることもあります。

公正取引委員会などのガイドラインは、秘密保持義務・競業避止義務・専属義務を合理的に必要な範囲で設定すること自体は、直ちに独占禁止法上の問題にはならないとしています。一方で、取引上の地位が優越している発注者が、合理的に必要な範囲を超えてこれらの義務を一方的に課し、フリーランスが受け入れざるを得ない場合には、優越的地位の濫用として問題となるとしています(令和8年1月1日改定版)。

報酬についても、会社員の給与には社会保険料の会社負担や福利厚生が含まれていたことを踏まえ、業務委託として妥当な額かを考えます。会社員の年収と比べる方法は年収と単価の比べ方の記事で解説しています。

困ったときの相談先

元の会社との契約や支払いでトラブルになったときは、厚生労働省の委託事業「フリーランス・トラブル110番」で、弁護士に無料で相談できます。電話やメールなどで受け付けており、匿名での相談もできます。ただし、相手方との交渉の代理は行っていません。相談先の全体は取引トラブルの相談先の記事にまとめています。

競業避止の有効性や、秘密情報の範囲など、契約の解釈が問題になる場合は、弁護士に個別に相談することをおすすめします。

よくある質問

元の会社から業務委託を受けるのに、会社の許可は必要ですか?

元の会社自身が発注者になる場合は、会社と契約を結ぶこと自体が合意になります。注意が必要なのは、元の会社の顧客や競合他社の仕事を受ける場合で、退職時の誓約書や就業規則の定めを確かめます。判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

元の上司から毎日指示を受けていますが、問題はありますか?

打ち合わせや進み具合の共有そのものは、業務委託でも一般的に行われます。問題になり得るのは、作業の手順や時間まで細かく指示され、断る余地もないなど、会社員と同じように指揮命令を受けている実態がある場合です。気になる場合は、窓口や報告の方法を契約で決め直すよう相談してみてください。

在職中に作ったツールやコードを、独立後に使ってもよいですか?

在職中に業務として作ったものは、会社のものとして扱われることがあり、無断で使うと問題になるおそれがあります。就業規則や誓約書の定めを確かめ、使いたい場合は元の会社の了承を得てください。権利の扱いは個別の判断が必要なため、弁護士などの専門家にご相談ください。

参考にした公的情報・資料

記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。

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