取引先から賠償責任保険への加入を求められたとき|確かめることと進め方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
取引先から賠償責任保険への加入を求められたら、まずどんな補償を、いくらの限度額で、いつまで求めているのかを具体的に確かめます。そのうえで、契約書の損害賠償の条項と照らし合わせ、求められている補償と自分の責任の範囲が見合っているかを見ます。
あわせて、保険料を誰が負担するか、加入をどう証明するかも確認しておきます。取引先が特定の保険を指定して加入させる場合や、取引先がかけた保険の保険料を合意なく報酬から差し引く場合は、フリーランス新法上の問題になりうる点にも注意が要ります。保険の種類や約款の読み方は賠償責任保険の記事で解説しているので、ここでは「求められたときの進め方」に絞ります(2026年10月時点)。
加入を求められる背景
取引先が保険への加入を求める理由は、いくつかあります。
- 取引先自身が、エンドユーザーとの契約で、作業に関わる委託先にも保険の加入を求められている
- 個人データや本番環境を扱う案件で、事故が起きたときの賠償の原資を確保したい
- 社内の取引先管理の規程で、一定の業務を委託する相手に保険の加入を求めている
情報処理推進機構(IPA)の「情報システム・モデル取引・契約書」の総論でも、ユーザーとベンダーの双方がリスクの性質や規模を認識し、責任の負担を検討することで、リスクを減らす対策や保険などによるリスクヘッジの必要性・コストを検討することが期待されるとしています。保険の話は、責任の分け方とセットで出てくるものです。
まず取引先に確かめる6つのこと
「保険に入っておいてください」とだけ言われた場合は、次の点を具体的に聞きます。
| 確かめること | 聞き方の例 |
|---|---|
| 補償の種類 | 業務の過誤による経済的な損害か、情報漏えいか、対人・対物の事故か |
| 支払限度額 | 1事故あたり、保険期間中の合計でいくら以上が必要か |
| 対象業務 | 今回の業務(開発、運用保守、PMOなど)が補償の対象に含まれている必要があるか |
| 期間 | 契約期間中だけでよいか、終了後の一定期間も維持が必要か |
| 証明の方法 | 付保証明書、保険証券の写し、申告だけでよいか。提出の期限 |
| 費用の負担 | 保険料は自分の負担か、報酬や経費で考慮されるか |
期間について「契約終了後も一定期間維持すること」と求められるのは、業務が終わってから損害が見つかり、請求が届くことがあるためです。保険によっては、保険期間中に請求されたものだけを補償の対象とする形もあり、案件の終了と同時に保険を解約すると、その後に届いた請求が対象外になるおそれがあります。求められた維持期間と、加入する保険の補償の時期の考え方を、あわせて確かめておきます。
条件が具体的になると、すでに入っている保険で足りるのか、新たに加入や補償の追加が必要なのかが判断できます。条件はメールなど記録の残る形で受け取っておくと、保険の窓口に相談するときにもそのまま使えます。
契約書の損害賠償の条項と照らし合わせる
保険の条件を聞いたら、契約書の損害賠償の条項と並べて読みます。
- 上限と限度額の関係:契約で賠償の上限を委託料の額などに定めているのに、それを大きく上回る限度額を求められていないか。逆に、契約に上限がないのに、保険の限度額が小さすぎないか
- 責任の範囲:契約で逸失利益まで負う定めになっていると、保険で補償されない部分が残ることがある
- 保険金の範囲を上限とする条項:「損害賠償の額は、乙が加入する保険により支払われる額を上限とする」のように、保険と責任を結びつける定め方もある
上限の考え方と交渉の仕方は損害賠償の記事で解説しています。保険の加入を求められたタイミングは、損害賠償の条項について話をする良い機会でもあります。「保険に入るので、賠償の上限を保険の限度額の範囲にしてほしい」と相談すると、双方の考えをそろえやすくなります。
保険料の負担をどう考えるか
賠償責任保険の保険料は、多くの場合、加入する本人が負担します。取引先が加入を条件にする場合は、その費用を報酬の水準に含めて考えるかどうかを、契約の前に話し合っておくことができます。
注意したいのは、取引先がかけている保険の保険料を、合意なく報酬から差し引かれる場合です。公正取引委員会・厚生労働省の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」は、報酬の減額に当たる例として、発注者が締結した保険契約の保険料の一部をフリーランスが負担する取決めをしていないのに、その相当額を報酬から差し引くことを挙げています。報酬の減額の禁止は、1か月以上の期間の業務委託などが対象です。
取引先が特定の保険を指定してきたら
取引先が「この保険に入ってほしい」と、特定の保険や取扱いの窓口を指定してくることもあります。指定の理由が補償内容をそろえるためであれば、条件を満たす別の保険でもよいかを聞いてみます。
同じ「考え方」は、正当な理由がある場合を除き、発注者が自分の指定する物を強制して購入させたり、役務を強制して利用させたりすることを「購入・利用強制」として禁止される行為に挙げています。ここでいう指定する役務には、発注者やその関連会社などが提供するものが含まれ、取引の条件にする場合や、利用しないことに不利益を与える場合、事実上利用を余儀なくさせている場合も「強制」に含まれるとされています。
求められた保険の指定がこれに当たるかどうかは、指定の理由や取引先との関係、条件の示し方などによって変わります。すぐに違反と決めつけず、まず理由と代わりの選択肢を確かめ、納得できない場合は取引トラブルの相談先の記事にある窓口や、弁護士などの専門家にご相談ください。禁止される行為の全体はフリーランス新法の禁止行為の記事で整理しています。
加入までの流れと、間に合わないときの伝え方
保険の加入は、見積もりの依頼から補償の開始まで、一定の日数がかかることがあります。参画の開始日が決まっている場合は、次の順で進めます。
- 取引先から求められる条件を書面で受け取る
- すでに加入している保険の約款と証券を見て、条件を満たすかを保険の窓口に確かめる
- 足りない場合は、補償の追加や新たな加入の見積もりをとる
- 補償の開始日と、証明書類が出る時期を確かめる
- 取引先に、補償の開始日と書類の提出予定日を伝える
参画の開始日に間に合わない場合は、分かった時点で取引先に伝え、補償の開始日までの扱い(開始日をずらす、補償開始後に本番環境の作業に入るなど)を相談します。黙って作業を始めてしまうと、契約上の条件を満たさないまま作業したことになりかねません。
複数の案件で同じ保険を使うとき
案件を掛け持ちしている場合、1つの保険で複数の取引先の求めに応えられることもあります。その場合は、次の点に注意します。
- それぞれの案件の業務が、保険の対象業務に含まれているか
- 保険期間中の合計の限度額が、複数の案件で同時に事故が起きた場合も足りるか
- 取引先ごとに、証明書類の宛名や記載事項の指定がないか
よくある質問
保険に加入しないと参画できませんか?
取引先が加入を契約の条件にしている場合は、加入しないと参画できないことがあります。ただし、求められている条件が案件の内容に比べて重すぎると感じる場合は、限度額や補償の種類について相談の余地があるかを聞いてみてください。
取引先から求められた限度額が高すぎると感じたら?
まず、その限度額を求める理由を確かめます。エンドユーザーとの契約上の要件である場合は変えにくいこともあります。保険料の負担が大きくなる場合は、報酬に反映できるか、損害賠償の上限をその限度額の範囲にしてもらえるかを、あわせて相談するのが現実的です。
すでに加入している保険があれば、それで足りますか?
足りるかどうかは、取引先が求める補償の種類・限度額・対象業務と、加入している保険の約款によります。保険証券と約款を手元に置いて、保険の窓口に「この業務が対象になるか」「この限度額で足りるか」を確かめてから、取引先に回答しましょう。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。