本業の取引先から副業を頼まれたとき|受ける前に確かめることと断り方
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
本業の取引先から「個人で手伝ってもらえないか」と頼まれたら、その場では受けずに、就業規則の副業と利益相反の定め、頼まれた仕事が本業の仕事と重なっていないか、本業で知った情報を使わずにできるかの3点を確かめます。そのうえで、本業の会社を通すべき仕事ではないかを考えると、判断を誤りにくくなります。
取引先からの依頼は、相手を知っていて話が早い反面、本業の会社から見ると「取引の相手と個人的にお金のやりとりをしている」状態になります。副業一般より確かめることが多いため、この記事では取引先から頼まれた場面に絞って整理します(2026年10月時点)。副業で業務委託を受けるときの全体の注意点は会社員の副業で業務委託を受けるときの記事をご覧ください。
取引先からの依頼が「ふつうの副業」と違う点
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月改定)は、裁判例をもとに、会社が副業を制限できる例として、労務の提供に支障がある場合、業務上の秘密が漏れる場合、競業で自社の利益が害される場合、自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を壊す行為がある場合を挙げています。
本業の取引先からの依頼は、この4つのうち、後ろの3つに触れやすい組み合わせです。
| 起こりやすいこと | 本業の会社から見える懸念 |
|---|---|
| 本業で知った相手の事情や自社の情報を前提に仕事をする | 業務上の秘密が漏れる |
| 本来なら自社が受注できた仕事を個人で受ける | 競業で自社の利益が害される |
| 取引の担当者が、取引の相手から個人で報酬を受け取る | 取引の公正さが疑われ、信頼関係が損なわれる |
特に3つ目は、仕事の中身に問題がなくても起こります。取引の条件を決める立場にいる人が、その相手から個人で報酬を受け取っていると、本業の取引が公正に決まっているのかを周りが確かめられなくなるためです。
最初に確かめる3つのこと
1. 就業規則の副業と利益相反の定め
副業が届出制か許可制かに加えて、取引先との個人的な取引や、取引先から金品を受け取ることを制限する定めがないかを確かめます。こうした定めは、副業の章ではなく、服務規律や倫理規程、利益相反の規程に置かれていることがあります。副業の届出が通っていても、別の規程で取引先との関係が制限されていることがあるため、両方を読みます。
規則の読み方や、許可を求めるときの進め方は副業禁止の会社で業務委託を受けるリスクの記事で解説しています。公務員の場合は別の決まりがあるため、公務員の副業の記事をご覧ください。
2. 頼まれた仕事が本業の仕事と重なっていないか
依頼の中身を、本業の担当業務と並べて見ます。
- 本業で提供しているサービスや製品と同じ種類の仕事か
- 本業で担当している案件やシステムに関わる仕事か
- 本業の会社に頼めば受注できた仕事か
重なりが大きいほど、競業や利益相反の懸念が強くなります。ガイドラインは、会社の正当な利益が害されない場合は、同じ業種・職種でも副業を認めるべき場合があるとしています。ただ、取引先からの依頼は、本業の会社の売上や取引の関係に直接つながりやすく、正当な利益を害さないと言える場面は狭くなります。
3. 本業で知った情報を使わずにできるか
取引先の社内の事情、システムの構成、本業の会社の見積もりや提案の内容などは、本業を通じて知った情報です。副業の仕事がこれらを前提にしないと進まないなら、秘密保持の点で問題になるおそれがあります。本業の会社との秘密保持の約束に加えて、取引先と本業の会社の間で結ばれている秘密保持契約の対象になっている情報もあります。秘密保持契約の読み方は秘密保持契約の記事で扱っています。
取引先の側の事情も見ておく
確かめるのは自分の会社の規程だけではありません。取引先の会社にも、発注の手続きや、取引のある会社の社員に個人として仕事を頼むことについての社内ルールがあることがあります。担当者が社内の手続きを通さずに頼んでいる場合、後から取引先の社内で問題になり、本業どうしの取引に影響が出るおそれもあります。
相手の会社として正式に発注するのであれば、通常は発注書や契約書が用意されます。「書面は要らない」「社内には伏せておいてほしい」といった頼み方をされた場合は、手続きを通していない可能性があるため、いったん立ち止まって考えることをおすすめします。
「本業の会社を通す」という選択肢
取引先からの依頼の多くは、相手から見れば「この人に頼みたい」というものです。その仕事が本業の会社の事業の範囲にあるなら、本業の会社に案件としてつなぐ方が、取引先・本業の会社・自分の三者にとって筋の通った形になることがあります。
本業の会社を通すと、次の点で負担が軽くなります。
- 秘密保持や契約の条件を、会社どうしの取り決めの中で整理できる
- 自分の働きが本業の実績や評価として残る
- 取引先から見ても、会社としての体制で受けてもらえる安心がある
反対に、本業の会社の事業とは関係のない分野(たとえば、本業はシステム開発で、頼まれたのは趣味で続けてきた分野の執筆や講師)であれば、個人の副業として検討する余地は広がります。
個人で受けると決めたときの進め方
就業規則を確かめ、本業の仕事と重ならず、本業の情報を使わずにできると判断した場合も、次の順で進めると後の行き違いを防げます。
- 本業の会社に届け出る、または許可を得る:届出の様式に、副業先が本業の取引先であることを書く欄がなくても、伏せずに伝えておく方が後で説明しやすくなります
- 本業での自分の立場を見直す:取引の条件を決める立場や、発注先の選定に関わる立場にいる場合は、その相手から個人で仕事を受けること自体を避けるか、上司と相談して担当の分け方を決めます
- 契約の条件を書面やメールで受け取る:業務の内容、報酬、支払期日、契約期間を文字で残します。明示される項目は取引条件の明示の記事で解説しています
- 時間と道具を分ける:本業の勤務時間や、本業の会社のPC・アカウントでは作業しません
時間の配分や、両立を続けるための線引きは正社員と業務委託の掛け持ちの記事で扱っています。
断るとき・保留するときの伝え方
受けないと決めた場合や、確かめる時間が欲しい場合は、相手との関係を保てる伝え方を選びます。
- 保留するとき:「ありがたいお話なので、会社の規程を確かめてからお返事します」と伝え、返事の目安の時期を添える
- 会社を通す提案をするとき:「個人ではお受けできないのですが、会社としてご相談いただければ、社内で検討できます」と伝える
- 断るとき:「会社の規程で、お取引先から個人でお仕事を受けることができません」と、規程を理由にして伝える
規程を理由にすると、相手も事情を理解しやすく、本業での関係に影響しにくくなります。相手の担当者に悪気がない場合も多いため、依頼してくれたことへのお礼を先に伝えます。
退職して独立した後に頼まれた場合
退職後に、在職中の取引先から声がかかることもあります。この場合は副業ではありませんが、退職時の誓約書や競業避止の約束、在職中に知った情報の扱いが問題になります。考え方は退職した会社から業務委託を受けるときの記事と競業避止の条項の記事で整理しています。
よくある質問
副業の届出が通れば、取引先からの仕事も受けてよいですか?
届出が通っていても、服務規律や利益相反の規程で、取引先との個人的な取引が別に制限されていることがあります。届出の際に、副業先が本業の取引先であることを伝え、そのうえで認められているかを確かめてください。規程の解釈に迷う場合は、人事部門や専門家にご相談ください。
取引先の担当者が個人として頼んできた場合も、注意は同じですか?
同じです。加えて、相手の会社として正式な発注なのか、担当者個人の依頼なのかで、契約の相手や報酬の支払元が変わります。誰と契約し、誰から報酬を受け取るのかを書面で確かめてから進めてください。
無償で手伝うなら問題はありませんか?
報酬がなくても、本業で知った情報を使えば秘密保持の問題になり得ますし、本業の会社の受注の機会を減らせば競業の懸念も残ります。無償かどうかより、仕事の中身と本業との関係で判断が必要です。取引の担当者が無償で便宜を図る形も、取引の公正さの点で疑われることがあるため、本業の会社に相談してから決めることをおすすめします。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。