報酬の振込手数料は誰が負担する?フリーランス新法・取適法・民法の整理
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
報酬の振込手数料は、取引によって適用されるルールが違います。従業員を使う発注者が1か月以上の業務委託をしている場合、2026年(令和8年)1月1日以降に委託した取引では、振込手数料をフリーランスに負担させて報酬から差し引くことは、事前に合意していても報酬の減額にあたります(フリーランス新法)。
それ以外の取引では、民法のルールが基本になり、取り決めがなければ支払う側(発注者)の負担が原則です。ただし、契約で「受託者負担」と決めていれば、その取り決めが優先されます。自分の取引がどちらにあたるかを確かめることが大切です(2026年10月時点の情報です)。
まず全体の整理
| 取引の条件 | 振込手数料の差し引き |
|---|---|
| 従業員を使う発注者による1か月以上の業務委託で、2026年1月1日以降に委託したもの | 事前の合意があっても、報酬の減額にあたる |
| 上と同じ条件で、2025年12月31日以前に委託したもの | 委託の前に書面やメールなどで合意していて、実費の範囲内なら、減額にあたらないとされていた |
| フリーランス新法の禁止行為の対象外の取引(従業員のいない発注者、1か月未満の委託など) | 民法により、取り決めがなければ支払う側の負担。契約で受託者負担と決めていれば、それに従う |
| フリーランスの都合で振込先を変えたことで増えた手数料 | 増えた分はフリーランスに負担させてよいとされている |
以下、それぞれの根拠を順に説明します。
フリーランス新法:差し引きは「報酬の減額」
禁止行為の対象になる取引
フリーランス新法第5条は、従業員を使う発注者(特定業務委託事業者)が、フリーランスに一定期間以上の業務委託をした場合に、フリーランスに責任がないのに報酬の額を減らすことなどを禁止しています。この期間は、公正取引委員会のQ&Aで1か月とされており、契約の更新で通算1か月以上になる委託も含まれます。期間の数え方は禁止行為の記事で整理しています。
振込手数料の扱い
公正取引委員会・厚生労働省の「考え方」では、報酬の減額にあたる例として、報酬をフリーランスの口座に振り込むときの手数料をフリーランスに負担させ、報酬の額から差し引くことが挙げられています。減額は、名目や金額の大小を問わず、事前に合意があっても違反になるとされています。
2025年以前に委託した取引との違い
公正取引委員会の2026年のフリーランス法特設サイトでは、扱いが委託の時期で分かれることが示されています。
- 2026年1月1日以降に業務委託する取引:事前に、フリーランスが振込手数料を負担する合意があった場合でも、手数料を負担させて報酬から差し引くことは報酬の減額にあたる
- 2025年12月31日以前に業務委託した取引:委託の前に、フリーランスが振込手数料を負担することを書面やメールなどで合意していれば、発注者が金融機関に払う実費の範囲内で差し引くことは、報酬の減額にあたらない
以前から「振込手数料は受託者負担」という条項の入った契約を使い続けている場合、2026年以降に委託を受けた分は、その条項があっても、差し引けば報酬の減額にあたることになります。基本契約と個別契約が分かれている場合など、どの時点の委託として扱うか迷うときは、公正取引委員会の相談窓口や専門家にご確認ください。
振込先を自分の都合で変えた場合
Q&Aでは、合意した振込先の口座から、フリーランスの都合で別の口座に変えたことで手数料が増えた場合、増えた分はフリーランスに負担させてよいとしています。口座を変えるときは、手数料が変わるかどうかもあわせて確かめておきます。
取適法:振込手数料の負担も禁止
下請法を改正した取適法(中小受託取引適正化法)は、2026年1月1日に施行されました。公正取引委員会は、手形払等の禁止とあわせて、振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止としています。
取適法は、発注者と受注者の資本金や従業員数、取引の種類によって対象が決まり、フリーランス新法とは対象が違います。フリーランスの取引で両方が関係する場面や、どちらが優先されるかは、取適法の記事と下請法とフリーランス新法の違いの記事で整理しています。
民法:取り決めがなければ支払う側の負担
フリーランス新法の禁止行為の対象にならない取引、たとえば従業員のいない個人からの発注や、更新の見込みがなく1か月未満で終わる単発の仕事では、民法のルールが基本になります。
民法第485条は、弁済の費用について別段の意思表示がないときは、債務者の負担としています。報酬の支払では、支払う側(発注者)が債務者にあたります。つまり、契約で何も決めていなければ、振込手数料は発注者が負担するのが原則です。
一方、この規定は「別段の意思表示がないとき」のルールなので、契約で「振込手数料は受託者の負担とする」と決めていれば、その取り決めに従うことになります。また、同じ条文のただし書きでは、債権者(報酬を受け取る側)が住所の移転などで弁済の費用を増やしたときは、増えた分は債権者の負担としています。
差し引かれていたときの確かめ方
入金額が請求額より少ないときは、次の順に確かめます。
- 差額の内訳:振込手数料か、源泉徴収か、精算の違いか。入金の照合の方法は請求書の出し方の記事で整理しています
- 取引の条件:相手は従業員を使う事業者か、委託の期間は1か月以上か
- 委託の時期:2026年1月1日以降に委託を受けた取引か
- 契約の条項:手数料の負担について、契約書や個別契約に何が書かれているか
- 振込先の変更:自分の都合で口座を変えていないか
確かめた結果、フリーランス新法の対象で、2026年以降に委託を受けた取引なのに差し引かれている場合は、発注者に記録の残る形で問い合わせます。
◯月分の報酬について、請求額と入金額に◯円の差がありました。振込手数料を差し引かれているように見えますが、内訳を確認させていただけますか。
解決しない場合は、公正取引委員会や中小企業庁への申出、弁護士に無料で相談できる窓口の利用を検討します。相談先の選び方は取引トラブルの相談先の記事、入金がない場合の対処は報酬が支払われないときの記事をご覧ください。個別の事案が違反にあたるかは事情によって変わるため、判断に迷うときは専門家にご相談ください。
契約書で見ておく条項
契約書のひな形には、振込手数料について次のような書き方が見られます。
| 条項の書き方 | 読み方 |
|---|---|
| 「振込手数料は委託者の負担とする」 | 発注者が負担する。差し引かれない |
| 「振込手数料は受託者の負担とする」 | フリーランス新法の禁止行為の対象で2026年以降の委託なら、この条項を理由に差し引くことは報酬の減額にあたる |
| 手数料について記載がない | フリーランス新法の対象なら差し引きは減額。対象外なら民法により発注者の負担が原則 |
「受託者の負担」という条項がある契約を受け取ったときは、削除や修正を相談できます。修正の求め方は契約書のチェックポイントの記事で整理しています。支払条件の全体は支払サイトの記事をご覧ください。
よくある質問
「振込手数料」ではなく「事務手数料」の名目で差し引かれました。扱いは変わりますか?
「考え方」では、報酬の減額は名目や方法を問わないとされています。フリーランス新法の禁止行為の対象となる取引で、フリーランスに責任がないのに決めた報酬から差し引いているなら、名目を変えても減額として問題になり得ます。判断に迷うときは、やり取りの記録を残し、公正取引委員会の相談窓口や専門家にご相談ください。
振込手数料は数百円程度です。それでも問題になりますか?
フリーランス新法の考え方では、報酬の減額は金額の大小を問わないとされています。対象となる取引であれば、少額でも減額にあたります。対象外の取引では、契約の取り決めと民法のルールで判断します。
自分が発注する側のときは、どうすればよいですか?
自分がフリーランスに仕事を出す場合も、相手が従業員を使わない個人などであれば、フリーランス新法の取引条件の明示は必要です。自分が従業員を使っていて1か月以上の委託をするなら、禁止行為のルールもかかります。振込手数料は自分で負担する前提で、報酬の額を決めておくと安心です。
参考にした公的情報・資料
- 2026年 フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)
- フリーランス法に関するQ&A(公正取引委員会)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(公正取引委員会・厚生労働省、令和8年10月1日改正)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(e-Gov法令検索)
- 取適法・振興法(公正取引委員会)
- 民法(e-Gov法令検索)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。