報酬を請求できる期間|消滅時効の5年・10年の数え方と時効を止める方法
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
報酬を請求できる期間には限りがあります。民法第166条第1項では、債権は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年、行使しないと時効で消滅するとされています。どちらか早い方が来た時点で時効が完成します。
フリーランスの報酬は、契約で支払期日が決まっていて、本人もその日を知っているのが普通です。その場合は、支払期日から5年が一つの目安になります。ただし、時効は催告や協議の合意などで完成を止めることができ、反対に、何もしなければ期間が過ぎてしまいます。数え方と止め方を整理します(2026年10月時点の情報です)。
消滅時効の基本ルール
2つの期間のうち、早い方
| 期間 | 数え始め(起算点) | 報酬に当てはめると |
|---|---|---|
| 5年 | 権利を行使できることを知った時 | 支払期日が来たことを知った時。多くは支払期日 |
| 10年 | 権利を行使できる時 | 支払期日 |
報酬の支払期日が契約で決まっていれば、通常は「行使できる時」と「知った時」が同じ日になります。そのため、5年の方が先に来ることがほとんどです。10年の期間が意味を持つのは、支払期日の到来を知らなかった場合などに限られます。
支払期日が決まっていないとき
報酬の支払期日をはっきり決めていない取引では、いつから数えるかの判断が難しくなります。民法第412条第3項は、期限を定めなかった債務は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うとしています。請求書を出した日や、仕事を終えた日など、事情によって考え方が分かれる場面があるため、支払期日は契約の時点で特定しておくのが安全です。フリーランス新法では、発注者は支払期日を書面やメールなどで明示することとされています(取引条件の明示の記事)。
2020年3月以前に生じた報酬
時効の規定は、2020年4月1日に施行された民法改正で大きく変わりました(法務省の案内)。改正前は、職業ごとに短い時効期間を定めた規定がありました。改正前に生じた債権には改正前の規定が適用される場合があるため、古い取引の報酬を請求するときは、弁護士などの専門家に確認してください。
よくある契約の形での数え方
時効は、報酬の債権ごとに数えます。契約の形ごとに考えると、次のようになります。
- 月額の準委任:毎月の報酬は、それぞれ別の支払期日を持つ債権です。3月分と4月分は、それぞれの支払期日から別々に数えることになると考えられます
- 請負で検収がある場合:契約で「検収後◯日以内に支払う」と決めていれば、その支払期日が基準になります。検収の考え方は検収の記事にまとめています
- 契約終了後の最終精算:最後の月の超過分や経費の精算も、契約で決めた支払期日から数えます
古い月の分から順に時効が近づいていくため、複数の月で未払いがある場合は、最も古い月の支払期日を基準に動くと安全です。
時効は「援用」されて初めて効く
期間が過ぎても、債権が自動的に消えるわけではありません。民法第145条は、時効は当事者が援用しなければ、裁判所はこれによって裁判をすることができないとしています。相手が「時効なので払わない」と主張して初めて、時効の効果が問題になります。
とはいえ、期間を過ぎた請求は、相手に援用されれば認められなくなります。期間の内側で手を打つことが大切です。
時効の完成を止める方法
民法では、時効の完成を一時的に止める「完成猶予」と、それまでの期間をリセットして新たに数え直す「更新」の2つの仕組みがあります。
| 方法 | 効果 | 条文 |
|---|---|---|
| 催告(支払を求める通知) | 催告の時から6か月間、時効は完成しない。猶予中の再度の催告には効果がない | 第150条 |
| 協議を行う旨の書面での合意 | 原則として合意から1年など、定められた期間は時効が完成しない | 第151条 |
| 相手の承認 | その時から新たに時効が進み始める(更新) | 第152条 |
| 裁判上の請求・支払督促など | 手続の間は時効が完成しない。判決などで権利が確定すれば、新たに時効が進み始める | 第147条 |
催告:6か月の猶予だけ
内容証明郵便などで支払を求める「催告」をすると、その時から6か月間、時効の完成が猶予されます(第150条第1項)。ただし、猶予の間にもう一度催告しても、猶予は延びません(同条第2項)。催告は、裁判上の請求などの準備をするための時間を確保する手段と考えておきます。
協議を行う旨の合意:書面が条件
相手と「この報酬について協議する」と書面で合意すると、時効の完成が猶予されます(第151条)。猶予の期間は、合意から1年、または合意で決めた1年未満の協議期間、あるいは一方が書面で協議の続行を拒んだ通知から6か月のうち、早い時までです。電磁的記録でも書面とみなされる定めがあります。
承認:時効が数え直しになる
相手が債務があることを認めると、時効は更新され、その時から新たに数え直しになります(第152条)。事情によりますが、相手からの一部の支払や、「支払を待ってほしい」という申し入れが承認にあたると考えられる場合があります。相手がこうした対応をしたときは、その記録(入金の明細、メールなど)を残しておきます。
裁判上の請求・支払督促
裁判上の請求や支払督促などをすると、その手続が終わるまで時効は完成しません(第147条第1項)。確定判決などで権利が確定すると、手続が終わった時から新たに時効が進み始め(同条第2項)、その場合の時効期間は10年とされています(第169条第1項)。手続の選び方は報酬が支払われないときの記事で整理しています。
時効に備えて残しておく記録
時効が問題になるのは、時間がたってからです。そのときに困らないよう、次の記録を残しておきます。
- 契約書・個別契約・発注書:報酬の額と支払期日がわかるもの
- 稼働報告・納品の記録:仕事をしたことと、その時期がわかるもの
- 請求書と送った日の記録:いつ、いくら請求したか
- 入金の記録:一部入金があれば、その日付と金額
- 督促や話し合いのやり取り:催告の日、協議の合意、相手の返事
事業の書類として保存しておく期間の考え方は書類の保存の記事、請求書の残し方は請求書の出し方の記事にまとめています。
時効まで待たずに動く理由
法律上は5年の期間があっても、実際の回収は時間がたつほど難しくなります。相手の担当者が替わる、会社の経営状態が変わる、自分の記憶や記録があいまいになる、といったことが重なるためです。
相手の会社が倒産の手続に入った場合は、時効とは別に、裁判所の手続の中で債権を届け出る期限などが問題になります。民法第147条でも、破産手続などへの参加が時効の完成猶予の事由として挙げられています。取引先の倒産の知らせを受けたときは、早めに弁護士などの専門家に相談してください。
また、請負の成果物の不具合をめぐる責任の期間など、報酬とは別に、短い期間の定めがある権利もあります。契約不適合の通知期間は契約不適合責任の記事で説明しています。契約書に請求の期限を独自に定めていることもあるため、条項を確かめておきます。
時効の完成が近い場合や、相手の対応が承認にあたるかなど、個別の判断が必要なときは、弁護士や取引トラブルの相談先にご相談ください。
よくある質問
請求書を出し忘れていた月の報酬も、後から請求できますか?
請求書を出していなくても、支払期日が契約で決まっていれば、報酬の債権はその日から行使できます。時効が完成していなければ請求できますが、時間がたつと記録の確認に手間がかかります。気づいた時点で、契約と稼働の記録をそろえて請求しましょう。
内容証明を毎年送れば、時効は止まり続けますか?
止まりません。催告による猶予は6か月で、猶予中に再度催告しても効果はありません(民法第150条第2項)。時効の完成が近いときは、協議の合意を書面で結ぶか、支払督促などの手続を検討します。
相手が一部だけ支払ってきました。残りの時効はどうなりますか?
一部の支払が、残りの債務も含めて承認したものと見られれば、時効は更新され、その時から新たに数え直しになる可能性があります。どう評価されるかは事情によるため、入金の記録と前後のやり取りを残し、判断に迷うときは専門家に相談してください。
参考にした公的情報・資料
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。