売上・所得・手取りの違い|フリーランスが確定申告で使うお金の言葉
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
フリーランスの「売上」は、1年間に受け取るべき報酬の合計です。「所得」は、売上から経費を引き、青色申告なら青色申告特別控除も引いた額で、税金や控除の判定の基準になります。「手取り」は、所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料などを払った後に手元に残る額です(2026年10月時点。国税庁のタックスアンサーは令和8年4月1日現在の法令)。
会社員の「年収」は額面の給与を指すことが多く、フリーランスの売上と同じ感覚で使うと、扶養や控除の判定、案件の比較でずれが出ます。さらに、確定申告では「合計所得金額」「総所得金額等」「課税所得」と、所得に似た言葉がいくつも出てきます。この記事では、それぞれの言葉が何を指し、どこで使われるかを整理します。
言葉の並びを一覧で見る
| 言葉 | 中身 | 主に使われる場面 |
|---|---|---|
| 売上(総収入金額) | 1年間の報酬などの合計 | 決算書の収入欄 |
| 入金額 | 実際に口座に振り込まれた額 | 資金繰り |
| 事業所得 | 売上 − 必要経費 − 青色申告特別控除 | 所得税の計算の出発点 |
| 合計所得金額 | 事業所得などの合計(繰越控除の前) | 基礎控除の区分、配偶者控除・扶養控除の判定 |
| 総所得金額等 | 事業所得などの合計(繰越控除の後) | 医療費控除・寄附金控除の計算 |
| 課税所得 | 総所得金額等 − 所得控除 | 税率を掛ける金額 |
| 手取り | 売上 − 経費 − 税金 − 社会保険料 | 生活に使えるお金 |
売上:受け取るべき報酬の合計
国税庁の「事業所得の課税のしくみ」では、事業所得を「総収入金額 − 必要経費」で計算するとしています。確定申告でいう売上は、この総収入金額にあたります。
総収入金額には、事業の売上金額のほか、金銭以外の物や権利などの経済的な利益も含まれます。報酬の代わりに物品やサービスを受け取った場合も、その価額を収入に入れることになります。
売上と入金額は一致しない
業務委託の報酬は、請求した額がそのまま振り込まれるとは限りません。次のような理由で、入金額は売上と違う額になります。
- 源泉徴収:一部の報酬は、取引先が所得税と復興特別所得税を差し引いて支払います。差し引かれた税金は所得税の前払いで、売上は差し引かれる前の額です(源泉徴収の記事)
- 振込手数料:契約によっては、手数料を差し引いて振り込まれることがあります(振込手数料の記事)
- 時期のずれ:稼働した月と入金される月がずれるため、年末の稼働分が翌年に入金されることがあります
入金額だけを売上として記帳すると、源泉徴収された税金を確定申告で差し引き忘れたり、売上の計上漏れが起きたりします。
事業所得:売上から経費と特別控除を引いた額
事業所得は、売上から必要経費を引き、青色申告ならさらに青色申告特別控除を引いた額です。必要経費は収入を得るために直接必要な費用で、家事上の経費は原則として含みません。何が経費になるかは経費の記事で解説しています。
青色申告特別控除は、事業所得などの黒字の範囲が限度です。国税庁は、その限度になる合計額を「損益通算前の黒字の所得金額の合計額」としています。
会社員の「給与所得」との違い
会社員の給与所得も「収入 − 控除」の形ですが、引くのは法律で決まった給与所得控除です。フリーランスは実際にかかった経費を引きます。同じ「所得」という言葉でも、引くものの性質が違う点を押さえておくと、扶養や控除の判定で混乱しません。正社員との手取りの比べ方は手取りの比較の記事にまとめています。
申告書のどこに書かれているか
確定申告書の第一表には、「収入金額等」と「所得金額等」の欄が分かれています。事業の売上は収入金額等の欄に、売上から経費と青色申告特別控除を引いた事業所得は所得金額等の欄に書きます。青色申告決算書では、損益計算書の売上(収入)金額から経費を引き、青色申告特別控除を引いた額が「所得金額」です。前年の申告書の控えで、自分の売上と所得がそれぞれいくらだったかを一度見比べておくと、言葉の違いが具体的につかめます。
合計所得金額と総所得金額等:繰越控除の前か後か
確定申告書や国税庁の説明には、「合計所得金額」と「総所得金額等」という似た言葉が出てきます。国税庁の説明では、どちらも事業所得・給与所得・雑所得などの合計(損益通算後)に、退職所得や山林所得などを加えた金額です。違いは次の1点です。
| 言葉 | 純損失などの繰越控除を受けている場合 |
|---|---|
| 合計所得金額 | 繰越控除の適用前の金額 |
| 総所得金額等 | 繰越控除の適用後の金額 |
赤字を繰り越していない年は、多くの場合同じ額になります。前年以前の赤字を繰り越して差し引いている年だけ、総所得金額等の方が小さくなります(純損失の繰越しの記事)。
どの判定にどちらを使うか
| 判定・計算 | 使う所得 | 国税庁が示す基準の例(令和8年分) |
|---|---|---|
| 基礎控除の区分 | 本人の合計所得金額 | 489万円以下なら104万円など |
| 配偶者控除を受けられるか | 本人と配偶者の合計所得金額 | 本人1,000万円以下、配偶者62万円以下 |
| 医療費控除の足切り額 | 総所得金額等 | 総所得金額等が200万円未満なら、10万円ではなくその5% |
| 寄附金控除の上限 | 総所得金額等 | 総所得金額等の40% |
基礎控除の表全体は所得税の計算の記事、控除の一覧は所得控除の一覧の記事で確認できます。
課税所得:税率を掛ける金額
課税所得は、所得から基礎控除・社会保険料控除などの所得控除を引いた額で、1,000円未満は切り捨てます。所得税は、この課税所得に5%から45%の税率を掛けて計算します。
課税所得は所得税の計算のための数字で、生活に使えるお金とは関係が薄い点に注意してください。課税所得が小さくても、国民健康保険料や国民年金保険料の支払いで手元のお金は減っています。計算の流れは所得税の計算の記事で解説しています。
手取り:払うものを払った後に残る額
手取りは、税法上の言葉ではありません。フリーランスの場合は、おおむね次の形で考えます。
手取り = 売上 − 経費 − 所得税・住民税 −(対象なら)個人事業税・消費税 − 国民健康保険料・国民年金保険料
ここで注意したいのは、所得税は年に1回の確定申告で、住民税や国民健康保険料は前年の所得をもとに後から通知が来る点です。売上が入った月にすべてが引かれるわけではないため、入金額を手取りと思って使うと、翌年の支払いで足りなくなることがあります。国民健康保険料の決まり方は国民健康保険の記事で解説しています。
計算の例(仮の数字)
数字は説明のための仮のものです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 売上 | 800万円 |
| 必要経費 | 100万円 |
| 青色申告特別控除 | 65万円 |
| 事業所得(ほかの所得がなければ合計所得金額と同じ) | 635万円 |
| 所得税・住民税・社会保険料など | 人により大きく変わる |
同じ売上800万円でも、経費の額、青色申告かどうか、家族の状況、住んでいる市区町村によって、手取りは変わります。売上の数字だけで人と比べても、手元に残るお金の比較にはなりません。
自分の場合にどの所得で判定するかなど、個別の判断は税理士・税務署にご相談ください。
よくある質問
「年収」と言われたら、売上と所得のどちらを答えればよいですか?
場面によります。案件や報酬の話なら、多くは売上(報酬の合計)を指します。扶養や控除、各種の申請で所得を聞かれている場合は、経費などを引いた所得を答えます。書類の記入欄に「収入金額」と「所得金額」の区別があれば、その言葉に合わせてください。
源泉徴収された報酬は、差し引かれた後の額を売上にすればよいですか?
売上は、源泉徴収される前の報酬の額です。差し引かれた税金は所得税の前払いとして、確定申告で納める税額から差し引きます。入金額を売上にすると、売上も源泉徴収税額も少なく計上することになります。
家族の扶養に入れるかどうかは、売上で決まりますか?
税金の配偶者控除や扶養控除は、家族の売上ではなく合計所得金額で判定します。令和8年分は、配偶者控除・扶養控除とも合計所得金額62万円以下が基準です。健康保険の扶養は、税金とは別の基準で判断されるため、扶養の記事で確認してください。
参考にした公的情報・資料
- No.1350 事業所得の課税のしくみ(国税庁)
- 総所得金額等(国税庁 確定申告書等作成コーナー)
- 合計所得金額(国税庁 確定申告書等作成コーナー)
- No.2072 青色申告特別控除(国税庁)
- No.1199 基礎控除(国税庁)
- No.1191 配偶者控除(国税庁)
- No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)(国税庁)
- No.1150 一定の寄附金を支払ったとき(寄附金控除)(国税庁)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。