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フリーランス新法・下請法優越的地位の濫用とは|フリーランスとの取引で問題になる行為と判断のしかた
公開 2026-10-29 監修:株式会社エージェントベスト
優越的地位の濫用とは、取引上の地位が相手より優越している事業者が、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に相手に不利益を与えることです。独占禁止法第2条第9項第5号に定められ、不公正な取引方法の一つとして禁止されています。
独占禁止法は、発注者が事業者であれば、相手が個人のフリーランスでも適用されます。公正取引委員会などが示す「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和8年1月1日改定)は、フリーランスとの取引で問題となる行為を12の類型に整理しています。2026年10月時点の条文とガイドラインをもとに、判断のしかたを見ていきます。
条文の3つの要素
独占禁止法第2条第9項第5号は、「自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に」、次のいずれかの行為をすることを定めています。
- イ:継続して取引する相手方に、取引に係る商品・役務以外の商品・役務を購入させること
- ロ:継続して取引する相手方に、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- ハ:受領を拒む、受領後に引き取らせる、対価の支払を遅らせる、対価の額を減じる、その他相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更し、又は取引を実施すること
つまり、「優越していること」「それを利用したこと」「正常な商慣習に照らして不当であること」の3つがそろったときに問題になります。ハの最後にある「その他…取引の条件を設定し、若しくは変更し」は範囲が広く、ガイドラインの多くの類型がここに当てはめられています。
「優越している」かどうかの判断
ガイドラインの別紙は、発注事業者がフリーランスに優越しているといえるために、市場で支配的な地位にある必要はなく、相手との関係で相対的に優越していれば足りるとしています。具体的には、フリーランスにとって発注事業者との取引が続かなくなると事業経営に大きな支障が出るため、著しく不利益な要請でも受け入れざるを得ないような場合です。
判断にあたっては、次の事情を総合的に考えるとされています。
| 判断の要素 | フリーランスに当てはめた例 |
|---|---|
| 取引依存度 | 収入の大半がその発注者からの報酬である |
| 発注者の市場における地位 | 業界で大きなシェアを持つ発注者である |
| 取引先変更の可能性 | ほかの発注者に切り替えるのが難しい事情がある |
| 取引の必要性を示す具体的事実 | その発注者との取引実績が次の受注に大きく影響する |
また、ガイドラインの注記では、優越的地位の濫用は継続的な取引関係を背景にすることが多いものの、継続的な取引関係にない当事者間でも起こり得るとしています。
「正常な商慣習」は、公正な競争秩序の維持・促進の立場から是認されるものをいい、今ある商慣習に合っているからといって、直ちに正当化されるわけではないとされています。「業界ではよくあることだから」という説明だけで問題がなくなるわけではありません。
ガイドラインが示す12の行為類型
ガイドラインは、独占禁止法(優越的地位の濫用)と取適法の観点から、次の12類型を挙げています。
| 類型 | 主な内容 |
|---|---|
| 1. 報酬の支払遅延 | 正当な理由なく、決めた支払期日に払わない、一方的に支払期日を遅く設定する |
| 2. 報酬の減額 | 決めた報酬を、後から一方的に減らす |
| 3. 著しく低い報酬の一方的な決定 | 十分な協議なく、通常より著しく低い報酬を定める |
| 4. やり直しの要請 | 正当な理由なく、受け取った後にやり直させる |
| 5. 一方的な発注取消し | 正当な理由なく、通常生ずべき損失を支払わずに発注を取り消す |
| 6. 成果物の権利の一方的な取扱い | 成果物に生じた著作権などの扱いを一方的に決める |
| 7. 成果物の受領拒否 | 正当な理由なく受け取らない |
| 8. 成果物の返品 | 受け取った後に正当な理由なく返す |
| 9. 購入・利用強制 | 不要な商品・役務を買わせる、使わせる |
| 10. 不当な経済上の利益の提供要請 | 協賛金や無償の作業などを提供させる |
| 11. 秘密保持義務等の一方的な設定 | 合理的に必要な範囲を超えた秘密保持・競業避止・専属の義務を課す |
| 12. その他取引条件の一方的な設定・変更・実施 | 上記にあたらない一方的な条件の設定や変更 |
ガイドラインは、問題となるのはこれらに限られないとも注記しています。フリーランス新法の7つの禁止行為と重なる類型も多いため、条文ごとの対象の違いは禁止行為の記事と見比べてください。
ITフリーランスの取引で関わりやすい3つの類型
報酬の一方的な決定
ガイドラインは、報酬を一方的に決めたかどうかを、十分な協議があったかなどの決め方、ほかの取引先との差、通常の報酬との乖離、需給の状況などから総合的に判断するとしています。問題となり得る例として、次のようなものが挙げられています。
- 自己の予算単価だけを基準に、一方的に通常より著しく低い報酬を定める
- 発注者が金額まで記載した見積書を用意し、協議を求められたのにサインさせて、その金額で決める
- 打合せの増加や新たなソフトウェア・資格の取得などで費用が増え、引上げを求められたのに、従来と同じ報酬を一方的に定める
- 労務費などのコスト上昇について、価格交渉の場で明示的に協議せず、報酬を据え置く
単価の見直しを申し出るときの進め方は単価交渉の記事をご覧ください。
秘密保持・競業避止・専属の義務
ガイドラインは、これらの義務を合理的に必要な範囲で設けること自体は、直ちに問題にならないとしています。問題になり得るのは、合理的に必要な範囲を超えて一方的に課し、フリーランスが受け入れざるを得ない場合です。例として、取引実績の公表が新たな受注に重要なのに、必要な範囲を超えてその公表まで制限する秘密保持義務が挙げられています。条項の読み方は競業避止の記事とNDAの記事で解説しています。
その他の一方的な条件
12番目の類型は、ほかの類型にあたらない一方的な条件の設定・変更も対象にしています。片方だけに重い違約金の定めなども、事情によってはここで考えることになります。違約金の条項の読み方は違約金の記事にまとめています。
ほかの法律との関係
フリーランスとの取引には、独占禁止法のほかに取適法(旧下請法)とフリーランス新法が関わります。ガイドラインでは、適用の関係を次のように整理しています。
| 法律 | 適用される取引 |
|---|---|
| 独占禁止法 | 発注者が事業者であれば、フリーランス全般との取引 |
| 取適法 | 資本金1,000万円超または従業員数100人超の法人など、一定の規模の事業者が発注者で、製造委託・情報成果物作成委託・役務提供委託などにあたる取引(取引の種類によって基準が異なる) |
| フリーランス新法 | 受注者が特定受託事業者(従業員を使わないフリーランス)である取引 |
フリーランス新法と独占禁止法の両方に違反する行為は、原則としてフリーランス新法が優先して適用されます。取適法と独占禁止法の両方に違反する場合は、原則として取適法が優先されます。両法の違いは下請法とフリーランス新法の記事と取適法の記事をご覧ください。
なお、フリーランスとして働いていても、実質的に発注者の指揮命令を受けているなど雇用にあたる場合は、労働関係法令が適用されます。判断の基準は労働者性の記事で解説しています。
違反とされた場合と相談先
公正取引委員会は、違反行為に対して排除措置命令を出すことができます。また、独占禁止法第20条の6は、優越的地位の濫用のうち継続してするものについて、違反行為の相手方との取引額をもとに算定した額に100分の1を掛けた額の課徴金を納付させると定めています(100万円未満の場合は命じることができない)。
公正取引委員会は、優越的地位の濫用の考え方についての相談を受け付けています。本局(関東甲信越を含む全国)の窓口は企業取引課(電話03-3581-3375)で、各地方事務所にも取引課があります。フリーランス新法の違反として申し出る方法や、弁護士に無料で相談できる窓口は相談先の記事にまとめています。
相談の前には、次の記録をそろえておくと話が進めやすくなります。
- 契約書、発注書、条件が書かれたメールやチャット
- 条件の変更や要請を受けた日時・相手・内容
- 断った、または協議を求めたときのやり取り
- その発注者との取引が収入に占める割合など、取引の状況
よくある質問
個人のフリーランスとの取引にも独占禁止法は適用されますか?
適用されます。ガイドラインは、独占禁止法は取引の発注者が事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されるとしています。フリーランス新法や取適法の対象にならない取引でも、独占禁止法の考え方は関わります。
取引先が1社だけだと、優越的地位にあたりますか?
1社に頼っていることは、取引依存度の面で優越を認める方向の事情になり得ます。ただし、発注者の市場での地位や、ほかの発注者に切り替えられるかなども合わせて総合的に判断されます。取引先が1社であることだけで、直ちに濫用になるわけではありません。
単価の引き下げを求められました。優越的地位の濫用になりますか?
これからの取引の単価を話し合って変えること自体は、直ちに問題にはなりません。ガイドラインが問題としているのは、十分な協議をせずに一方的に、通常より著しく低い報酬を定める場合などです。引き下げの理由や算定の根拠を文字で尋ね、協議の記録を残しておきましょう。判断に迷う場合は、公正取引委員会の相談窓口や弁護士にご相談ください。
参考にした公的情報・資料
- 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(e-Gov法令検索)
- フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン(内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省、令和8年1月1日改定)
- よくある質問コーナー(独占禁止法)(公正取引委員会)
- 優越的地位の濫用の考え方についての相談(公正取引委員会)
記事の内容は公開日時点の情報にもとづきます。制度や税率は変わることがあるため、手続きの前に必ず各機関の最新情報をご確認ください。